先日、「Summer Game Fest 2026」や「Nintendo Direct」をはじめ、数々の新作発表イベントがあり、ゲーマーの皆さんは嬉しい悲鳴を上げているのではないだろうか。ただ、私と同様に積みゲーが多いであろう皆さんは、どの新作を購入しようか悩んでいることと思う。

    そこで質問だが、皆さんは、自分がどんなゲームが好きか、考えたことがあるだろうか?

    私は『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)のいちファンだったから、公式キャスターになれた。公式キャスターになったきっかけは、オーディション。『R6S』の公式Xアカウントで募集があり、オーディションを受けたところ、「とりあえず、1回やってみますか」と言われ、そこから8年ほど続いている(過去の連載記事)。

    では、なぜ私は『R6S』が好きなのだろうと改めて考えてみた。

    ヘッドショット1発で相手を倒せる快感。相手の心理を読み切った時の爽快感……考え出すとキリはないが、その中にふと「現代社会と地続きになっている作品が好き」なのではないかという考えが浮かんだ。

    「地続き」とはどういうことかというと、『R6S』のオペレーターたちはスペシャルリスト部隊「レインボー」に所属している。当然、こんな部隊は存在しない。(もしかすると、私たちが知らないだけで存在しているかもしれないが!)

    そして彼らは各国の軍隊から選抜されたとされている。例えば、オペレーターの「Smoke」などはイギリス特殊部隊「SAS」出身となっている。そしてこの「SAS」は実在する部隊である。このようにフィクションではあるが、世界観が現代社会と通じているタイトルが好きなのだ。

    そんな私だったから、『007 ファーストライト』を手に取ったのは自然なことだったのかもしれない。今回は、2026年5月27日に発売された本タイトルが、私のようなタイプのゲーマーにとって、とてつもなく満足感の高いタイトルだったこと。そして、このタイトルに新たなゲームの可能性を感じたことをお話させていただきたい。

    あなたも、私も、ジェームズ・ボンド!

    まず、私は映画「007」シリーズが大好きである。

    私の世代は頻繁にテレビで「007」シリーズが放送されていた。若い世代の人はもしかすると、スパイ映画といえばトム・クルーズの「ミッション・インポッシブル」シリーズを挙げるかもしれない。しかし、私のような40代以上の世代は高確率で「007」を挙げるだろう。

    そして、「007」ファンであれば一度は思ったことがあるはずだ。「ジェームズ・ボンドになりたい!」と。そんな私の少年の頃の夢を叶えてくれたタイトルが、この『007 ファーストライト』なのである。

    このタイトルには、スパイとしてやりたい要素が全て詰まっていると言っても過言ではない。

    スパイといえば、潜入。

    本作では、数々の場面で身分を偽り、衣装を変え、人々の話を盗み聞きすることで、物語を進めていく。集められた情報が多ければ多いほど、潜入が有利になっていく。しかし、警備員などが行く手を阻み、簡単に行きたい場所に行けないようになっている。警備員をどう躱すのか。攻略のための様々な選択肢があり、プレイヤーが思考を巡らせ、潜入を成功させる感覚は、本当にスパイになったかのような気分を味わわせてくれる。

    次に、スパイといえば、アクション。

    特にカーアクション。これが、一番やりたかった。敵から逃げる、あるいは追いかける。緊迫した展開の中で、カーアクションがスピーディーな展開をもたらしてくれる。何より、本作でもボンドが乗る自動車は、アストンマーチン。映画の各タイトルでボンドが愛用している車種である。1964年公開の「007/ゴールドフィンガー」から登場し、60年以上もシリーズを支えている脇役だ。

    世界最高峰の自動車ブランドであり、当然、現実の私が手に入れられるはずもないが、そんなアストンマーチンを疾走させ、時には派手にぶつけられる。こんな日が来るとは思わなかった。

    また、ボンドといえば、悪の組織をスタイリッシュに倒していく格闘術も持っている。先ほど、警備員などの妨害者を様々な選択肢で躱していくという話をしたが、どうしようもない時は腕力に物を言わせることもできる。複数人に囲まれても、華麗に相手をノックダウンするアクションも、本作の魅力と言えよう。

    そして、「007」ファンとして何よりも嬉しいのが、Qが製作するスパイアイテムを使用できることだろう。Qというのは、「007」シリーズに登場する天才科学者である。ボンドが所属するイギリス情報局秘密情報部(MI6)にある研究所で、スパイに必要なアイテムを日々研究している。本作でも、幾つかのスパイアイテムを提供してくれる。例えば、「ダーツフォン」。スマートフォンの中に小型のダーツが仕込まれており、これを人に撃ち込むと、吐き気やめまいなどが起こるというものだ。なんとも物騒だが、これぞスパイアイテム。

    これらは、プレイヤーがミッションによって使い分けることができる。この辺りはプレイヤーによって好みが分かれるところであり、やりこみ要素とも言える。

    こういった「007」の設定を忠実に再現したゲームシステムと、映画に引けを取らない重厚なストーリー展開で、近年では感じたことのない没入感を味わうことができた。まさに傑作といえる出来で、発売から1週間で270万本を発売したとの公式発表からも、多くのゲーマーたちが、私と同じように「ボンド体験」をできたことに喜びを感じていることがうかがえる。映画ファンとしても、こんな体験ができるとは思っていなかった。

    しかし、『007 ファーストライト』の凄さは、このタイトルがアクションゲームとして優れているという点だけにとどまらない。今後ゲーム業界で起こる潮流の先駆けとしての側面を持っていると、私は思うのである。

    世界的IPの最新作という位置づけ

    『007 ファーストライト』で語られるのは、若きジェームズ・ボンドが007になるまでの物語である。ネタバレになるので話さないが、なぜナンバーが7なのかは実際にプレイして確認して欲しい。

    実はこの物語は、映画で描かれたわけでもなく、イアン・フレミングによる原作小説でも語られていない。ゲームオリジナルのストーリーである。

    つまり、これまで映画を中心に展開されてきた世界的IPにおいて、ゲームによって最新話が語られたようなものだ。ただ、これには、「007」シリーズのいささか複雑な事情があり、偶然そうなった側面もある。

    「007」の映画は、2021年の「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」後、新作は5年ほど公開されていない。2025年2月にはAmazon MGM Studiosが主導する新たな制作体制に移行したことが発表されており、監督を「DUNE/デューン 砂の惑星」を手がけたドゥニ・ヴィルヌーヴが務めることが判明している。

    とはいえ、シリーズファンがもっとも注目を寄せているのは、次回作のボンドは誰が務めるのかということだ。「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」でダニエル・クレイグがボンド役を引退してしまったからだ。

    クレイグは「007/カジノ・ロワイヤル」で舞台に上がり、これまでのボンド像を一変させた。当初は、原作で描かれるボンド像とは大きく異なる金髪で青い目のクレイグに批判が集まった。インターネットで反対運動が起きたほどだそうだ。ところが、「007/カジノ・ロワイヤル」が公開されると、これまでのボンドにはなかった人間らしさとリアルさが高く評価され、そこから15年ほど、クレイグがボンドを演じることになった。私も歴代ボンドの中でクレイグが最も好きだ。

    今年5月には、次のジェームズ・ボンド探しが始まったことが発表されている。ただ、実際のところはわからないが、クレイグの功績が大きさから、後任探しには難航しそうな気もしている。そのため、「007」の映画ファンでもある私は、当分ボンドには会えないのだと思っていた。

    ところが、『007 ファーストライト』には若きボンドではあるが、確かにそこにボンドがいたのである。つまり、私たちはゲームというプラットフォームで、未だ見たことがないボンドの物語に触れることができた。

    もちろん、これまでもゲームでボンドのオリジナルストーリーは数多く展開されている。

    例えば、2010年に発売された『007 ブラッドストーン』。生物兵器を巡るゲームオリジナルのストーリーが展開されている。

    ところが、パッケージを見てもらうと分かるとおり、ゲーム内に登場するボンドは映画と同じクレイグが演じている。このように、2000年代後半から2010年代に発売された「007」のタイトルには映画と同じくクレイグがボンドとして登場しており、映画作品との結びつきを強く感じる展開になっているのである。

    そのため、ゲームにおける「007」はあくまで映画のスピンオフ的存在であり、本流ともいえる映画の世界観、ストーリーを補完するものでしかなかった。

    ところが、『007 ファーストライト』は、映画にも小説にもない、若き日のボンドを描き切るという全く新しい展開をしてみせた。このまま、若き日のボンドの物語がゲームだけでシリーズ化されてもおかしくない。そう感じるほどのオリジナリティに溢れていた。

    「007」という世界的IPがゲーム展開を本気で始めた。私は、『007 ファーストライト』にゲーム展開の未来を見た気がしたのである。

    ゲーム体験で増幅する作品愛

    『007 ファーストライト』のような成功が連発できるかと言えば、そうはいかないとも思うが、私はすぐにもう一つの例が浮かんだ。それが「マーベル」だ。マーベルはここ数年積極的なゲーム展開をみせている。

    『007 ファーストライト』とはまた違った感覚になるが、2024年12月にリリースされた『マーベル・ライバルズ』も、私にとって映画繋がりで思い入れのあるタイトルだ。TPSのいわゆるヒーローシューターだが、マーベルのヒーローやヴィランたちが一堂に会する。

    マーベルは漫画が原作であり、既に世界的IPではあったが、映画で人気がさらに爆発した。私も映画で沼ったひとりだ。

    『マーベル・ライバルズ』も「アベンジャーズ」の面々に加えて「ファンタスティック・フォー」や「X-MEN」のメンバーも勢ぞろい。マーベルファンにとっては本当に夢のような作品だ。私はいつも、公開後すぐに劇場へ足を運び涙(どころか号泣)した「アベンジャーズ /エンドゲーム」の「マーク85」スキンでアイアンマンを使う。それとキャプテン・アメリカは「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」の戦闘服でプレイ。これは譲れない。

    マーベルIPではほかにも、ソニー・インタラクティブエンタテインメントから『Marvel’s Spider-Man』シリーズがこれまでに3作品展開されている。同シリーズでは、原作コミックや映画などのプロットや世界観をベースに、ゲーム作品独自の物語が語られてきた。そして今年9月には『Marvel’s Wolverine』も出る。

    こうした作品は、もちろんゲームで初めてIPに触れるプレイヤーでも楽しめるようにデザインされているわけだが、シリーズに思い入れのあるファンであればその分だけ味わえるものも大きいと私は考えている。

    映画もゲームも大型作品では制作期間が長期化し、ファンにとってはその分次の作品まで待つ期間がどうしても生じる。映画とゲーム二刀流のIP展開は、そうした隙間を互いに埋めあう、うってつけの戦略といえるだろう。さながらボクシングの「デンプシー・ロール」のように絶え間なく作品が展開され、ファンの心を打つ時代になったといえるかもしれない。ただ映画など別のエンタメをゲーム化するとき、インタラクティブであるだけでは、熱狂は生まれない。「当事者性」と「物語の厚み」が掛け合わさって初めて人々は大きく熱狂するのだろう。

    『007 ファーストライト』が成功したのは、ボンドを「操作できた」からではない。ボンドという60年以上の歴史を持つ物語の蓄積の中に、プレイヤーを「当事者」として送り込んだからだと思う。Qのスパイアイテムに興奮したのも、カーチェイスに興奮したのも、「ボンドならこうするはずだ」という期待値がすでに自分の中に形成されているからだ。なんと偉大なIPなのだろうか。

    このIPの厚みと、ゲームのインタラクティブ性。二つが噛み合ったとき、他のいかなるメディアも生み出せない体験が生まれたと、本作にハマった理由を考えてみた。

    そして、『007 ファーストライト』の成功を、他のIP企業やゲーム開発会社はどう見て、どう影響されるだろうか。今後、ゲームでのIP展開はわくわくする新しいものがどんどん増えてくるのではないだろうか。ゲーマーにとっては、嬉しい悲鳴が続く日々である。

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