今年デビュー35周年を迎えたBLANKEY JET CITYのアルバム10タイトルのリマスターCDと、オリジナルアルバム未収録の楽曲を中心に、シングルA面やベスト盤のみに収録された21曲をまとめたコンピレーション作品「TRINITY from the shadows」のアナログとCDがリリースされた。
リマスタリングを担当したのは、気鋭のエンジニア・山崎翼。一連の作品は、解散から26年を経てなお熱狂的な支持を集めるブランキーの音楽を、フィジカルメディアを通して余すことなく楽しめるアイテムとなっている。音楽ナタリーはこれらの魅力を紐解くべく、ライターの小野島大に解説を依頼。なぜこのタイミングで、リマスターCDとコンピレーション作品が作られたのか、その意義と背景を探る。
文 / 小野島大
新たな息吹を感じさせるアルバム10タイトル
BLANKEY JET CITYは今年でデビュー35周年を迎えた。2024年から連続的に実施された全アルバムのヴァイナル盤リリースとサブスク配信解禁に続き、今回はアルバム10作のリマスターCD化、そして新編集のレア音源集「TRINITY」がリリースされた。まずはCDのリマスターについて。
ブランキーのアルバムは、解散から8年後の2008年に紙ジャケットCDで再発されているが、そのときは録音当時のオリジナルマスターをそのまま流用したものだった。今回はバンド史上初めてリマスターを施した最新音源でのリリースとなる(正確に言えば、1995年リリースの「THE SIX」で、初期楽曲のいくつかをリマスターしているようだ)。リスナーからCD化への強い要望があり実現した。
2020年に「FUJI ROCK FESTIVAL」がコロナ禍で中止になったとき、代替でブランキーのラストステージとなった2000年のフジロック映像が配信されたことがあった。それはブランキー未体験の世代を中心に大きな反響があったが、そのときはまだ彼らの音源のサブスク配信は解禁されておらず、CDはほとんど品切れで中古盤でしか入手できず、聴こうとしてもハードルが高い状況だった。その後、サブスクは解禁されたものの、CDは相変わらず入手困難な状況が続いている。そして、フィジカルメディアで真正面から対峙するような、そんな聴き方を求めるブランキーのようなアーティストの場合、サブスクでは手応えがない、聴いた気にならない、という声が根強く聞かれるのも確かだ。
今回の再発プロジェクトについて、プロデューサー / マネージャーの藤井努氏と、レコード会社担当者に企画意図等を確認した。
リマスター盤はCDのみのリリースで、ヴァイナルのリリースは予定していない。ヴァイナル盤のスタンパーには物理的な寿命があり、再プレス時にはカッティングからやり直す必要があるため、その際にリマスターが施される可能性は残されている。ハイレゾ版の配信は考えているが(時期は未定)、配信を見据えた際、現行基準では他アーティストの音源に対して音量レベルが低い旧音源の調整が必要となり、どうせやるならと、単なるレベル調整に留まらない正式なリマスタリングが決定したということだった。ファンの要望に応えるため、そして将来の配信フォーマットに対応するための音源のボトムアップである。なお現在配信されているオリジナル音源も引き続きサブスクで聴取可能となる予定で、つまりオリジナル版とリマスター版が併存するので、聴き比べが容易となる。
リマスタリングエンジニアは複数の候補が挙がり、最終的にFlugel Masteringの山崎翼氏に決定。スタジオ機材とバンドのサウンド感の相性がいい、という理由だった。この選定プロセスや実際のリマスター作業にアーティストは関わっておらず、藤井氏らスタッフに一任されており、山崎氏は通常よりかなり時間をかけて作業を行ったようだ。
もちろん単に音量レベルを上げるだけでなく、音質の調整も実施している。ただし、むやみに“今風の音”は目指さず、ブランキー本来のバンドサウンドやアナログレコーディングの空気感を損なわないように配慮したという。近年のワイドレンジな再生環境で旧来のロック音源がロー(低域)不足に聞こえる問題は認識しており、必要最小限の低域補強などで現代の再生環境に対応させたが、最近のリマスターにありがちな、過剰にローを持ち上げるなどの、最新機材に特化した最適化は行われていない。イヤフォンでの聴取やサブスクのプレイリスト環境を考慮した音量レベル調整や、ベースとドラムが生み出す超低域のニュアンスをつかみやすくする調整も意識された。
また土屋昌巳プロデュース時代の作品(テープ速度の調整等で音の太さ・奥行きを演出するなど、凝ったレコーディング)とセルフプロデュース作品(一発録り中心のストレートなアプローチ)では録音や音像が大きく異なるが、これらの違いを均一化することなく、それぞれの個性を生かす方向で調整したという。
以上が今回のリマスターに関しての制作側の意図である。全タイトルを16bit/44.1kHzのWAV音源で試聴する機会があったが、作品によってはかなり大きな変化を感じた。ひと言で言えば、より鮮烈でメリハリの効いた音になっている。「BANG!」(1992年)を例にとると、オリジナルは中高域がややくぐもったような独特のくすみというかかげりがあり、それがアルバム全体のダークで凶暴な空気感につながっていたのだが、リマスター版は中高域のヌケがよくなり、各楽器の分離もはっきりし、各楽器のアンサンブルやバンドサウンドの妙が感じ取りやすくなった。無理に音を作ったり特定の帯域を持ち上げたりするのではなく、使い込んだ機械をパーツ単位でバラして汚れやくすみを落として細部まで磨き込み、再度組み立て直したような印象とでも言おうか。何十回何百回と聴き込んだ個人的フェイバリットアルバムの、まるでベールを1枚も2枚も3枚も剥がしたような鮮烈極まりない音に、リリース当時の衝撃と感動が、2026年になり更新されよみがえったような、そんな印象を受けた。
マスタリングエンジニアの山崎翼氏は、最近のJ-POP畑のアーティストとの仕事で知られており、年齢的にもブランキーを通過していない世代と思われるが、だからこそ旧来のイメージにとらわれない仕事ができたのだろう。若い才能にリフレッシュ作業を依頼したのは大正解だった。結論を言えば、旧CDを持っていない人はもちろん、すでに所有している人も買い直す意義は大いにある。もちろんハイレゾ配信を待つのも手だが、ポップミュージックは聴きたいと思った、そのときこそが旬である。昨今の状況を見てもCDの売れ行きは先行き不透明であり、買うなら急ぐ必要があるかもしれない。
コンピレーション盤「TRINITY from the shadows」が今制作される意義
そして今回のプロジェクトの目玉でもある「TRINITY from the shadows」である。本作はこれまでシングル等のみに収録され、オリジナルアルバムに未収録だった当時の未発表曲を中心としたレアトラックを総ざらいし、ほぼ年代順に並べたコンピレーションである。これまでヴァイナル化されていなかったアルバム音源をコンプリートすることを目的とした企画の一環である。ヴァイナルリリース時に試聴会が行われた際(2024年12月に東京・渋谷QUATTRO LABOで開催)の、特定曲をヴァイナルで聴きたいというファンからの要望が契機となった(なお本作はCDでもリリースされる)。ただしCM用楽曲や特定の企画曲(例:「禿山の一夜」「マイウェイ」など)は収録対象から除外されている。
これまで「国境線上の蟻」(1998年)、「Blankey Jet City 1991-1995」(2000年)、「Blankey Jet City 1997-2000」(2000年)、「RARE TRACKS」(2009年)などのコンピレーションに分散して収録された曲が、これ1枚あればまとめて聴けるという意味で発売の意義は大きい。ヴァイナル盤(3枚組)のカッティングは、昨年全オリジナルアルバムのカッティング作業を施し、各界から多くの賛辞を得た北村勝敏氏が担当。CDにはもちろんすべて山崎氏によるリマスタリングが施されている。今回のリマスターCD 10タイトルと「TRINITY」さえ買えば、ブランキーの発表済公式音源は、ライブ音源および同じ曲の別テイク等を除けば、ほぼすべてそろう。
つまり今回、完全な未発表曲・未発表音源は含まれない。Wikipedia等にはいくつかの未発表曲のタイトルが列記されており、そうした楽曲のリリースが一部で期待されているのは確かではある。しかし、藤井氏に確認したところ、それらはすべてデモテープでしか残されておらず、録音したもののミックスまで至らなかった楽曲も1、2曲存在するが、いずれにしろ発表を前提とした完成音源としては存在しないという。ライブの大定番でありライブ音源は残されている「Baby Baby」もスタジオ録音版はデビュー前のデモテープ音源でしか存在していない。同様に1stアルバム「Red Guitar and The Truth」(1991年)のロンドンレコーディング前に作成されたデモテープの存在も確認されているものの、それらを発表するには当然ながらアーティストの許諾が必要であり、現状ではその動きはないという。レコード会社であるユニバーサルミュージックは仮に原盤権を保有していたとしても、アーティストの許諾なく無断でリリースすることは絶対ありえない、ということだ。サブスク解禁にあたってもメンバー全員の丁寧な合意形成が行われている。もちろん今後スタッフの提案にメンバーが了承するなどして、それらの音源が日の目を見る可能性はゼロではないかもしれない。
次に「TRINITY from the shadows」収録曲の初出を記しておく。
DISC 1
いちご水(シングル「風になるまで」カップリング / 1994年)
水色(ベスト盤「国境線上の蟻」収録曲 / 1998年)
John Lennon(ベスト盤「国境線上の蟻」収録曲 / 1998年)
ハイヒール(ベスト盤「Blankey Jet City 1991-1995」 / 2000年)
フレッシュ(ベスト盤「Blankey Jet City 1991-1995」 / 2000年)
嫌われ者(シングル「ガソリンの揺れかた」カップリング / 1997年)
ピンクの若いブタ(シングル「ガソリンの揺れかた」カップリング / 1997年)
左ききのBaby(シングル / 1997年)
Don’t Kiss My Tail(シングル「左ききのBaby」カップリング / 1997年)
ロンドン(シングル「赤いタンバリン」カップリング / 1998年)
ルーディー(シングル「赤いタンバリン」カップリング / 1998年)
DISC 2
ダンデライオン(シングル / 1998年)
シェリル(シングル「ダンデライオン」カップリング / 1998年)
ぺピン(シングル / 1999年)
I ♡ TOKYO(シングル「ペピン」カップリング / 1999年)
コスモス(シングル「ペピン」カップリング / 1999年)
バナナのとりあい(シングル「SEA SIDE JET CITY」カップリング / 2000年)
SATURDAY NIGHT(ラストシングル / 2000年)
EXCUSE ME(シングル「SATURDAY NIGHT」カップリング / 2000年)
JET LAG(アルバム「HARLEM JETS」オリジナルヴァイナル盤収録曲 / 2000年)
黒い宇宙(アルバム「BLANKEY JET CITY 1997-2000」収録曲 / 2000年)
以上21曲。シングルのカップリング曲、シングルのタイトル曲になりながらアルバム未収録となった曲、CDではなくオリジナルヴァイナル盤のみに収録されていた曲など、当時発表されながらなんらかの理由でオリジナルアルバムに未収録となった曲と、後年発掘されたものの録音当時はお蔵入りになっていた曲に大別される。基本的にはその都度のアルバムのコンセプトやテーマ、流れなどに合わずオミットされ、やむなくシングルのカップリング等でリリースされた、ということだろう。シングルのタイトル曲になるほどの自信作だったはずなのにアルバム未収で終わった「左ききのBaby」「ダンデライオン」「ペピン」「SATURDAY NIGHT」などを聴くと、楽曲や演奏のクオリティではなく、タイミングの問題が大きいことがうかがえる。一方、発表の機会を失って、結局活動期間中は日の目を見ぬまま終わり、後年発掘されたのが「水色」「John Lennon」「ハイヒール」「フレッシュ」「黒い宇宙」ということになるが、いずれにしろこうした楽曲が未発表だった理由を考えるのも、「TRINITY」のようなレアトラック集を聴く楽しみのひとつだろう。
そしてジャケットのアートワークについて。これまでのブランキーのアルバムとはかけ離れたイメージのデザインだが、3つの四角柱が直角に組み合わさって三角形を形成しているように見えるものの現実には存在し得ない「不可能図形」である「ペンローズの三角形」を採用している。これは、リスナー、スタッフ、メンバーそれぞれに異なる「ブランキー像」が存在することを表現し、特定のイメージを固定しないという意図が込められている。また、3人(スリーピース)という構成や、光の三原色(赤・青・緑)が合わさると白=「光」になるというアイデアもコンセプトに含まれる。なお、このデザインにはメンバーは関与していない。インナースリーブには年代を違えたメンバーのポートレイトが配されている。
なお本作のリリースに際して、藤井氏は以下のコメントを寄せている。
ブランキーはその存在自体が奇跡である……と、当時よく囁かれていた。それぞれに稀有な才能を持った3人の男が偶然か必然か1つのバンドに集結したことへの事実を「奇跡」と表現されていたのだが、そのように個々が突出した才を有していたとしても、この3人が交わるからこそ爆発的なカオスが生まれ、時に優しく、そして時に激しく、まるでこの世のものとは思えないほどの熱を絡めての発光が放たれるのだ。故にBJCは我々にとって現実世界における輝かしい光なんですよ。
以上が今回のブランキー再発プロジェクトの全貌である。これで2024年のヴァイナルリリースやサブスク解禁に始まる一連の流れは一段落する。個人的には、リマスターですっかり印象がリフレッシュされ、やたらと新鮮に聞こえるようになったオリジナルアルバム10枚をまたイチからじっくり聴き込むだけで、1年、2年は簡単に過ぎていきそうな気がしている。


プロフィール
BLANKEY JET CITY(ブランキージェットシティ)
浅井健一(Vo, G)、照井利幸(B)、中村達也(Dr)によって1990年2月に都内で結成。同年8月にTBS「三宅裕司のいかすバンド天国」(通称イカ天)に出演し、「6代目グランドイカ天キング」に選ばれる。1991年に1stアルバム「Red Guitar And The Truth」をリリース。以降もコンスタントにリリースとライブを重ね、多くのリスナーを獲得する。ロックフェス黎明期の90年代後半には「FUJI ROCK FESTIVAL」「RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO」に出演。人気絶頂の中、2000年7月に出演した「FUJI ROCK FESTIVAL」をもって解散する。2024年7月に音源のサブスク配信が解禁され話題に。解散後も多くのアーティストに影響を与え続けている。2026年6月にコンピレーション作品「TRINITY from the shadows」が発表された。
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