宮城県美術館(仙台市青葉区)は6月20日、大規模な改修を経て約3年ぶりにオープンしました。再開館に合わせて行われる特別展「宮城県美術館リニューアルオープン 全館コレクションで魅せます 美術の時代」を、開幕前日に行われた内覧会で取材しました。

     本展の狙いについて、同館学芸部長の加野恵子さんは「開館から45年間集めてきたコレクションの魅力を伝える展覧会」と話します。同館は明治以降の日本の近現代美術と、海外ではドイツ表現主義を中心に約7,000点を収集してきました。本展ではジャンルや国を分けて展示する一般的な方法では伝えにくい「同時代性」をテーマに、前後期合わせて厳選された約500点を展示します。

    タイトルの「美術の時代」は、明治時代、ウィーン万国博覧会への出品をきっかけに「美術」という日本語が誕生し、同館のコレクションが、まさに明治時代以降の作品を対象としていることからつけられました。

    高橋由一の作品展示風景 

    展示室1の「~1920年代:明治・大正から昭和へ」では、まず洋画の先駆者であり《鮭図》で知られる高橋由一の《宮城県庁門前図》や《松島五大堂図》が飾られています。西洋の美術に感動した高橋由一らが、どのように油絵の普及に努めたのか、その一方で、これまでの絵が「日本画」と呼ばれるようになった動向などを、この時代の作品を紹介することで伝えています。

    ロートレック、ジュレ、ミュシャの作品展示風景

    続くコーナーでは、由一が油絵を学んで日本に取り入れていた時代の海外の動きを伝えています。当時、西洋ではジャポニスムの流行もあり、その影響を受けたロートレックらの作品が展示されています。日本と西洋がお互いに影響を与え合い、頭では高橋由一とロートレックが同時代と理解できていても、改めて知らされるとハッとしました。

    カンディンスキーの作品展示風景 

    同館はヴァシリー・カンディンスキーやパウル・クレーらドイツ表現主義の収集で国内指折りのコレクションを誇り、海外への貸し出しも行っています。加野学芸部長は「抽象絵画で知られるカンディンスキーやクレーは20世紀美術、現代美術の先駆者でもあり、そこから広げていくことで、近現代美術をより深く示すことができると考えています」と、同館の収集方針を説明します。 

    尾竹竹坡《月の潤い・太陽の熱・月の冷え》

     カンディンスキーらの動向は、日本でも同時代的に紹介され、西洋美術の前衛的な美術が日本でも吸収され、自分たちの表現に昇華されていました。その流れは日本画にも及び、尾竹竹坡《月の潤い・太陽の熱・月の冷え》などのユニークな作品も生み出しました。 

    戦時色の濃い作品展示風景。左は松本竣介《画家の像》

     続く展示室2、3の「1930~40年代:昭和初期、戦中戦後」では、戦時色が濃くなった時代の作品が並びます。美術も国のためにと公に言われるようになったなか、《画家の像》を描いた松本竣介は雑誌で、画家が絵を描くというのは、国のために絵を描くことも自分のなかでは動機としてあるけれど、自分の中から出てきたものでないと画家は絵を描けないと表明しました。《画家の像》では、画家そのものを画面に大きく描き、自分は家族の一員であり、街のなかの一員であると堂々と表現し、後に評価されました。 

    クレー作品の展示風景

     ドイツでは1930年代にナチスが勢力を拡大し、クレーらの作品は一方的に「退廃美術」と決めつけられました。家宅捜査や教職解雇を受けたクレーはスイスに亡命し、困難な時代を過ごしましたが、記号や文字のような線で画面を構成する、私たちがクレーの作品として想起する多くの名作を生み出しました。

    これ以降も「1930~40年代:昭和初期、戦中戦後」、「1950~60年代:高度経済成長期へ」、「1970年代~:宮城県美術館開館前夜~現代」と、時代ごとの作品の表現を体感することができます。

    7月15日からの後期では、日本近代美術コレクションの鍵となった高橋由一や萬鉄五郎、松本竣介らに焦点を当てて深掘りするコーナーも設けられ、高橋由一《鮭図》などが特別出品されます。

    見える収蔵庫

    見える収蔵庫 

    最後にリニューアルの目玉である「見える収蔵庫」についても触れておきましょう。見る側からすると美術館の活動は展示が主となりますが、作品を収集して保存し、文化財を後世に残していくという大きな役割もあります。それを可視化したのが、今回の試みです。

     収蔵庫内は、壁に湿度の調整に優れ、作品に悪影響を及ぼす揮発性有機化合物を分解する不燃材である珪藻土パネルを使用するなど、温湿度の変化や紫外線などの光、カビ、害虫、酸やアルカリのほか、盗難も含めた様々な脅威から守るための対策がなされています。

    また、スペースを有効に活用するため、絵は高い格子状のラックに掛けられています。加野学芸部長は「たくさんの作品がラックにかけられた迫力ある様子を見ることは、ほかにない機会となります。展示と収蔵の境界を超えた施設と言えるのではないでしょうか」と話します。

    今回は、多くの作品を一斉にみられる点を生かして、修復を終えた作品と、洲之内コレクションの油絵を展示しています。洲之内は、エッセー『気まぐれ美術館』で知られる美術収集家で、没後、最後まで手放さずにいた作品146点を同館が一括収蔵しています。まとめて見ることができるので、洲之内の収集傾向をつかむことができるでしょう。 

    絵本原画を見せるためのコーナー

    その近くには絵本原画を見せるためのコーナーも新設されました。同館は、絵本の優れた原画を後世に伝えて欲しいという福音館書店が発行する月刊絵本「こどものとも」創刊者・松居直の想いに共感し、公立美術館としてはいち早い1998年から絵本原画を収集してきました。印刷の版をつくるまでを目的として描かれた絵本原画には、保存に不向きな画材が使われていることも少なくありません。ここではオリジナルの引き出し型のケースに絵本原画をしまって、鑑賞する時だけ、レバーで引き出すことで、光による劣化を防ぎ、保存と展示を両立しています。

    リニューアルで新しい見せ方も備わった美術館で、開館から45年間かけて積み重ねられてきたコレクションに触れ、近現代美術の大きな流れに触れてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ編集班・若水浩)

    宮城県美術館リニューアルオープン
    全館コレクションで魅せます 美術の時代

    会場:宮城県美術館(宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1)

    会期:2026年6月20日(土)~8月23日(日)
    (※展示替有:後期7/15~8/23)

    開館時間:午前9時30分~午後5時(発券は午後4時30分まで)

    休館日:月曜日(7/20(月・祝)は開館)、7/14(火)、7/21(火)

    観覧料:一般700円 ※学生、高校生以下無料

    アクセス:
    地下鉄 国際センター駅 から徒歩7分、川内駅から徒歩7分
    仙台市営バス 宮城県美術館前下車徒歩3分
    タクシー利用の場合 仙台駅から約10分
    自動車利用の場合 東北自動車道 仙台宮城ICより西道路に入り、仙台駅方面に進んで約15分

    詳細は、宮城県美術館公式サイトまで。

    ◆プレビュー記事はこちら

    Share.

    Comments are closed.