K-POPスターは、もはやステージの上だけで人を動かす存在ではない。
好きなアーティストが訪れた街へ行き、同じ景色を見て、同じ場所で写真を撮る。いわゆる“聖地巡礼”は、ファンの自発的な行動として広がってきた。
【写真】「え、日本!?」「聖地」Stray Kidsメンバーが降臨
その動きを、韓国が観光政策として本格的に取り込み始めている。
韓国観光公社は6月24日、Stray Kids、MONSTA X、EXOのカイとセフン、TWSなどK-POPアーティストと協力し、訪韓キャンペーン「BIAS」を11月末まで展開すると発表した。
キャンペーン名の「BIAS」は、海外K-POPファンの間で“推し”や“最愛メンバー”を意味する言葉から取られている。つまり最初から、一般的な観光客だけではなく、K-POPファンダムの言語と行動心理を意識した企画なのだ。
“推しが行った場所”を地方観光へ
今回のキャンペーンでは、EXOのカイとセフンが全羅南道・順天(スンチョン)、MONSTA Xが慶尚北道・慶州(キョンジュ)、Stray Kidsが釜山(プサン)、TWSが江原道・江陵(カンヌン)をそれぞれ訪問し、地域の魅力を伝えるコンテンツを公開する。
映像は各アーティストの公式YouTubeチャンネルを通じて7月9日まで順次公開される予定だ。
(画像提供=韓国観光公社)訪韓キャンペーン「BIAS」
単なるPR動画では終わらない。
韓国観光公社は韓国観光統合プラットフォーム「VISITKOREA」に専用キャンペーンページを開設し、アーティストが訪れた地域の名所や映像コンテンツを紹介する。さらに、「NOL UNIVERSE」「Creatrip」「KLOOK」「KKday」など主要旅行プラットフォームでは、映像の撮影地や関連体験をもとにした旅行商品の企画展を運営するそうだ。
つまり、推しが訪れた場所を動画で見せ、行きたいと思わせ、そのまま旅行商品にアクセスできるようにする。韓国観光公社は、その導線を最初から設計しているわけだ。
これは、K-POP時代の観光誘致として非常にわかりやすい。
今回のキャンペーンで特に注目したいのは、舞台が首都ソウルではないことだ。
Stray Kidsは釜山、MONSTA Xは慶州、TWSは江陵、EXOのカイ・セフンは順天を訪れる。いずれも韓国旅行の定番であるソウルからは距離のある地域だ。
(写真提供=OSEN)Stray Kids
というのも、韓国観光公社が狙っているのは、K-POPファンの熱量をソウル以外の地域へ広げることにあるからだ。
韓国を訪れる外国人観光客はすでに大きく回復している。韓国文化体育観光部によると、2026年第1四半期に韓国を訪れた外国人観光客は476万人で、前年同期比23%増だった。第1四半期としては過去最多となり、3月単月でも206万人に達して月間ベースの過去最多を更新した。
日本人観光客の存在感も大きい。1~3月の訪韓外国人観光客のうち、日本人は94万人で、中国の145万人に次ぐ規模だった。
では、なぜこれほど多くの人が韓国へ向かうのか。その大きな理由の一つが、Kカルチャーだ。
Airbnbが4月に発表した「Kカルチャーと韓国旅行」に関する調査では、韓国を訪問した、または訪問を計画している海外旅行客の75%が、韓国訪問の大きな動機としてKカルチャーを挙げた。さらに94%が、「Kカルチャーが韓国旅行への関心に影響した」と答えている。
K-POP、韓国ドラマ、韓国映画、韓国グルメ。画面越しに親しまれてきた韓国文化は、いまや実際に韓国を訪れ、歩き、食べ、体験する理由そのものになっている。
ただし、そこには課題もある。
(写真提供=OSEN)EXOのカイ(左)とセフン
Kカルチャーが韓国へ人を呼び込む力を持った一方で、旅行者の動きは依然としてソウルに集中しやすい。Airbnbの調査では、回答者の74%がドラマや映画を見てソウル以外の地域訪問にも関心を持ったと答えた一方で、実際には66%がソウルで大半の日程を過ごしている。
関心は地方にも向いているのに、実際の旅程はソウルに偏る。このズレこそ、韓国観光の次の課題だ。
国が“推し活観光”を設計する時代
そこで登場するのが、今回の「BIAS」キャンペーンだろう。
韓国観光公社のパク・ソンヒョク社長は、「K-POPファンダムは好きなアーティストが訪れた場所なら訪ねていく強い動機を持っている」とし、「Kコンテンツのトレンドを反映した協業プロモーションを発掘し、ファンダムの熱情が地域訪問と消費につながるようにしたい」と述べている。
この発言は、非常に率直だ。
K-POPファンは、推しが行った場所へ行く。その行動原理を観光公社が把握し、動画、旅行商品、キャンペーンページ、屋外広告、空港や主要駅、都心拠点での歓迎メッセージまで組み合わせて、地域訪問と消費につなげようとしている。
(写真提供=OSEN)MONSTA X
かつて“聖地巡礼”は、ファンが勝手に見つけ、勝手に行くものだった。しかし今は、国がそれを観光導線として公式に設計する段階に入っている。
いうなれば、これまでファンがMVや投稿、配信映像の中から探し出してきた“聖地”を、韓国観光公社があらかじめ設計するということだ。今回のキャンペーンは、そんな“人工聖地”づくりの試みともいえる。
しかも、今回のキャンペーンは民間企業との連携も前提にしている。動画を見たファンが、旅行プラットフォームを通じて撮影地や関連体験の商品を購入できるようにする。K-POPコンテンツが、そのまま地方観光商品の入口になるわけだ。
ここに、韓国観光の新しい戦略が見える。韓国に来てもらうだけではなく、どこへ行ってもらうのか。何を見てもらうのか。どこで体験し、消費してもらうのか。その設計に、K-POPスターの発信力を使っている。
BTSが示した“移動する経済圏”
K-POPと観光の結びつきは、すでに数字でも示されている。
象徴的なのがBTSだ。韓国文化体育観光部は2026年第1四半期の訪韓客増加について、Kカルチャーの世界的な人気と官民の誘致努力が成果につながったと分析している。『聯合ニュース』も、3月のBTS公演をきっかけに外国人が大挙して韓国を訪れたと報じた。
(写真提供=OSEN)BTS
ハナカードが今年1月1日からBTS公演が終わった4月12日までの外国人観光客のカード決済データを分析したところ、BTSワールドツアー「ARIRANG」に伴って発生した外国人観光客の消費額は約555億ウォン、約60億円と推計された。
外国人1人当たりの平均支出額は185万ウォン、約20万円に達し、航空、宿泊、飲食、周辺商圏への波及効果が確認されたという。
また、BTS公演チケットを購入した外国人3万人の決済データでは、日本が32%で最多だった。台湾12%、フィリピン7%、香港5%と続き、アジア圏が全体の75%を占めた。
つまり、K-POPスターは会場を満員にするだけではなく、ファンの移動、航空券、宿泊、飲食、買い物、周辺商圏の消費まで含めた“移動する経済圏”を生み出している。
今回の「BIAS」キャンペーンは、その流れをより地方に広げようとする試みと見ることができる。これは、韓国がK-POPを観光資源として、より具体的な旅行導線に落とし込み始めたことを意味している。
(写真提供=OSEN)TWS
前述した通り、韓国はすでに、Kカルチャーによって海外から人を呼び込むことには成功している。訪韓外国人観光客は過去最多水準に達し、日本人観光客も大きな比重を占める。次に問われるのは、その熱量をどこへ広げるかだ。
その課題を解決する“次の手”として、K-POPスターの発信力が活用されている。
推しが訪れた街を、ファンが次の旅先にする。K-POPスターの足跡は、いまや韓国観光の地図そのものになりつつある。
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