YOASOBIが6月26日にEP「THE BOOK for,」をリリースする。
2021年より発表してきた“読むCD”「THE BOOK」シリーズを締めくくる本作は、EPと銘打ちながらもフルアルバムに匹敵する12曲入りの作品で、2023年10月発売の「THE BOOK 3」以降に発表された楽曲の数々が収録されている。
前作のリリースからこれまでの間に、YOASOBIはアメリカ最大級のフェス「Coachella Valley Music and Arts Festival」への出演や初のアメリカ単独公演、東京と大阪でのドームライブ、アジアツアーなどを経験し、多くのファンと対面してきた。本作には「UNDEAD」や「HEART BEAT」など2人が各地を沸かせてきた楽曲の数々はもちろん、コンポーザーのAyaseも歌唱に参加し、初めて2人が出演する実写ミュージックビデオも制作したYOASOBIにとって革新的な楽曲「劇上」、世界的に人気のゲーム「オーバーウォッチ」のために書き下ろした新曲「オリオン」も収録されている。
音楽ナタリーのインタビューでは、2人に各楽曲に込めた思いやライブでの思い出を軸にこの2年半の活動を振り返ってもらい、YOASOBIの現在地をたどった。
取材・文 / 岸野恵加撮影 / 草場雄介
「THE BOOK」シリーズを完結させる思い
──「THE BOOK for,」は全12曲と、フルアルバムに匹敵するボリュームの作品となりましたね。
Ayase 本当はこれまでと同じく8、9曲でまとめたかったのですが、ちょうどいいタイミングがなく、気付いたら曲が溜まっていたというのが正直なところです。「THE BOOK」シリーズの完結作だからボリュームがあってもいいかなと、この収録内容になりました。
──今回で「THE BOOK」シリーズを締めくくると決めたのは、どんな理由から?
Ayase 世の中にはナンバリングされたタイトルの作品が、映画なども含めて多くありますけど、個人的には3くらいまでがちょうどいい感覚があったんです。もちろん長く続いていて素晴らしい作品もたくさんあるけど、自分はダラダラと続けたくなくて。そのうえで、「THE BOOK」シリーズを愛してくださる方への感謝を込めて、やはりしっかり締めくくろうと。4作目の内容について具体的に考え始めたのは、1年前くらいですね。

──ストレートに「4」とせず、「for,」と表記したのはなぜでしょうか?
Ayase 「THE BOOK」シリーズにはリリース時点までのYOASOBIを振り返る側面があるので、やっぱり最後も、応援してくれている人たちと紡いだ物語をちゃんと振り返りたいという思いがありまして。「あなたのための物語であり、あなたに届いてほしい物語である」というメッセージを「for」に込めました。
ikura 最後の「,」は、今後も物語が続いていくことを表現しています。ひと区切りではあるけど、ファンの皆さん、そしてYOASOBIチームのみんなとの物語はこれからも終わらないという思いから、ピリオドではなくコンマにしました。
──なるほど。今回のジャケットカラーは、紫がかったブルーですね。

Ayase 夜空のブルーです。「THE BOOK」の締めくくりにふさわしい色を考えたら、やっぱり“夜”のカラーかなと。YOASOBIのメインカラーであるピンクは「THE BOOK」で使ったので、ほかと被らないブルーにしました。2つの流れ星もポイントです。
──Ayaseさんとikuraさんを表したような?
Ayase そんなニュアンスも少し入れています。
海外公演で心強かった曲やライブで大切に育ててきた曲も
──「THE BOOK for,」には2023年の後半から2026年現在に至るまで、YOASOBIが約2年半の間に発表した楽曲が収められていますね。「Biri-Biri」と「HEART BEAT」はともに2023年のリリース。これまでにライブでも何度も披露されてきました。
Ayase 「Biri-Biri」は「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」のインスパイアソングですが、あんなにも高いクオリティのミュージックビデオを作ってもらったり、“ヨアソビ”を親とするポケモン(パーモット)がユーザーにプレゼントされたり、ポケモンファンとしてたまらない施策をたくさん展開していただきました。海外でフェスに出るときも、世界的に人気のあるポケモンの映像をライブで使えることがすごく心強いんです。YOASOBIを初めて観る方にも、ジャパニーズカルチャーとのリンクを感じてもらえていると思います。
ikura 「Biri-Biri」は確か香港のフェス「Clockenflap」で初披露したんですが、初めて聴くのに、お客さんがサビの「3、2、1!」を一緒に歌ってくれて、ノリノリで聴いてくれたことが印象的でした。アジアツアーでポケモンたちが一緒にステージに上がったときも、みんなすごく沸いてくれましたね。日本が誇るポケモンの偉大さと、その映像を背負いながら歌える誇らしさを感じたし、たくさん力を貸してもらいました。あと、「Pokémon」のフォントで作っていただいた「YOASOBI」ロゴをいろんな場面で使わせていただいたことも、個人的には激アツでした!

──そして「HEART BEAT」は、ライブで起こるシンガロングにいつも胸を熱くさせられます。
ikura 「YOASOBI 18祭」をきっかけに作らせていただいた楽曲ですが、どこで歌っても、フェスに出てくれた子たちの魂や、引き継がれてきたエネルギーを感じるんです。この曲にしかないすごみがあって、ライブではいつも堪えないと泣きそうになってしまうくらい、心を震わせながら歌っています。アジアツアーなど世界のいろんな場所でも、皆さんが一生懸命日本語で歌ってくれて。「言語を超えて、音楽で1つになることができるんだ」と感動をもらえます。これからも大切に歌い継いでいきたい曲ですね。
Ayase 「HEART BEAT」はライブにおいて、とても大事な楽曲になっています。YOASOBIはライブでシンガロングできる楽曲がほかにもいろいろあるけど、「HEART BEAT」は年齢を問わずみんなが魂の叫びを出せているというか、思いを交換し合える感覚があるんですよね。ここ数年、楽曲はリリースしたときに完成するのではなく、ライブで演奏してみんなで育てていくものだと強く感じていますが、「HEART BEAT」はその代表格ですね。
「UNDEAD」で強く感じた、YOASOBIというフォーマットだから許されていること
──続いては「UNDEAD」についてお聞きしたいです。2024年のドーム公演「YOASOBI 5th ANNIVERSARY DOME LIVE “超現実”」の演出も印象的でしたが、ライブで一気にボルテージを上げる楽曲ですよね。
Ayase 「UNDEAD」はライブ序盤でやることが多いのですが、いろいろと難しすぎて……(笑)。日本の観客の皆さんは手拍子したりジャンプをしたり、ある程度提示された遊び方で一体感を楽しむという特徴があると思うんですが、「UNDEAD」はその瞬間が1つもなくて、日本人にはノリづらい曲だと思うんですよね。これを序盤に持ってくるのはけっこうゴリ押しだな、と思ったりします(笑)。それでも楽曲の持つパワーや、バンドメンバーの演奏力、ikuraの歌唱力、そして〈物語〉シリーズとのコラボという付加価値など、さまざまなエネルギーがこの曲を成り立たせてくれています。
ikura この楽曲のよさは、いい意味でのカオス感だと思うんです。YOASOBIの“ポップだけど少し狂気的”という部分を表す大事な1曲だなと、ライブで歌いながら感じました。「YOASOBIってなんなんだ?」と驚きつつ「よくわからないけど、目も耳も離せない」という感覚になってほしい。ボーカルはもちろん、サービス画面に映ったときの表情や動きにもこだわっていて、YOASOBIの遊び心とパワーを感じてもらいたい思いで歌っていますね。
Ayase 確かに。リリースしてもう2年が経つけど、音楽性もサウンドメイクも歌い回しも、「UNDEAD」はYOASOBIを一番表している楽曲だと思います。最近思ったんですが、YOASOBIというフォーマットだから許されていることって、めちゃくちゃあるんですよ。「UNDEAD」の歌詞って、けっこうキツいことを言っているんですけど……。

──「ただ苦しみに慣れて 耐えているだけじゃ 死んでいるも同然 屍のアンデッド」というパートなど、確かに強い言葉が並んでいますね。
Ayase リリースするときは正直「これ、炎上しないかな?」と心配していたんです。でも自分の本心だし、〈物語〉シリーズの中で西尾維新先生が伝えたいことを自分なりに汲み取ったメッセージとリンクしたので、「この表現しかない」と思いました。でも炎上することもなく、むしろリスナーから「勇気をもらえます」とまで言ってもらえた。一方で、僕が5月にリリースしたソロEP「dialogue」でやや強い言葉を歌詞に使ったら、それには「言葉が強すぎる」「怖い」というリアクションもありまして。
──なるほど。
Ayase 僕の感覚的には「UNDEAD」のほうがよっぽど強い言葉を使っているんですけどね。Ayaseの作品には原作もないし、歌っている本人の存在が見えるから、その生々しさに恐ろしさを感じるのかな……と。一方でYOASOBIの音楽には原作があって、Ayaseが曲を作って、ikuraが歌うという、いろんなものを通過したフォーマットがある。それゆえに、よくも悪くもそこに人間を感じず、歌詞が文字として受け取られているのかもしれない。それってある意味「UNDEAD」に込めたメッセージが届いていないわけで、悲しくもあるんですが、一方で「YOASOBIだからこそできる無茶はまだまだあるな」とも思っていて。もっと届けるためには、YOASOBIを人間として認知してもらわなきゃいけない。そんなふうに、「UNDEAD」は僕の中にいろんな指標を立ててくれた曲ですね。
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「劇上」で初めて実写MVに挑戦した背景
