All photos ©CEIPA / MUSIC AWARDS JAPAN 20262026年6月13日、TOYOTA ARENA TOKYO。「日本版グラミー」とも呼ばれる、MUSIC AWARDS JAPAN 2026(以下MAJ)のメインイベント「Grand Ceremony」が開催された。サカナクション、星野源、藤井 風、Mrs. GREEN APPLE、羊文学、M!LK、HANA、FRUITS ZIPPERら世代もジャンルも出自も異なるアーティストたちが一堂に会し、主要6部門を中心としたアワードの結果発表と受賞、そしてパフォーマンスが披露された約3時間。日本の音楽を世界に発信していく新時代の幕開けを告げた、記念碑的なイベントと言って間違いないだろう。
会場に足を踏み入れて最初に感じたのは、独特の祝祭感だ。アリーナの席の多くはアーティスト、プロデューサー、レーベルスタッフ、ライブプロモーターといった音楽関係者で占められている。通常のライブやフェスとはまるで違う、緊張感と華やかさが同居した空気感には、音楽業界5団体が主催する国際音楽賞であることがはっきりと表れている。たとえば、受賞の発表時に客席の一角から大きな歓声が上がる瞬間。受賞者のチームや関係者が座っているエリアなのだろう。普段は作品やステージの裏側にいるスタッフたちが仲間の栄誉を祝っている光景からは、「音楽人5,000人が選ぶ国際音楽賞」を謳うMAJならではの熱が、2回目の開催にして早くも生まれているのだと感じられた。
そして、それは投票メンバーであるアーティストも同様だ。藤井 風と星野源がひとつのテーブルに隣り合わせに座り、グラミー賞歌手であるサム・スミスがそこに同席する光景は傍目には「異様」だが、当の本人たちは「共通の友人がいるんです」と和気あいあい。サカナクションの“怪獣”の演奏に、最前列でMrs. GREEN APPLEが沸く。「アーティストがアーティストを観ているという不思議さに感動している」。MCを務めた菅田将暉はこう語ったが、等身大の「音楽人」としてのアーティストたちの姿が可視化されたのもMAJの大きな見どころだ。「久しぶりのシャバ」と藤井 風はMAJ出席について笑った。彼らミュージシャンも実は「音楽」そのものの裏方なのかもしれない。
そんな祝祭の幕開けを飾ったのは、サカナクション“怪獣”のパフォーマンスだ。バンドの演奏を核としながら、映像とダンスパフォーマンスを組み合わせた、総合演出。結果として“怪獣”は最優秀楽曲賞、最優秀ロック楽曲賞、最優秀アニメ楽曲賞、最優秀ミュージックビデオ作品賞など、5冠(サカナクションとしてはこの夜最多の8冠)を獲得することになるのだが、まさにそれを予見するかのようなステージングだった。
続く米津玄師“IRIS OUT”はこの日ただ一組、事前収録での演奏。ワンカメラのロングショットと緻密に設計された振付の同期は圧巻で、菅田将暉も「前半のワンカメショーのシーンすごかった」と興奮気味に語った。米津がまたがるサメライドにTOYOTAエンブレムが輝く悪ふざけも、アワードのお祭り感に花を添えていた。
さらにこの夜、最も鋭い異物感を放ったのは羊文学の“Dogs”だったかもしれない。アワードもテレビ中継も何もないかのような、轟音。あくまでも普段通りの羊文学なのだが、華やかなセレモニーの空気の中においてはあまりにも異質だ。のちに“声”が最優秀オルタナティブ楽曲賞を受賞した時のスピーチで、塩塚モエカは「オルタナティブとは一体なんなのか、自分たち自身がやっていることとは一体なんなのか、あまりわからないまま、既存のものに対する憧れと反抗心の間で、すごく頑張ってきました」と語ったが、少なくともMAJにおける羊文学の存在は、オルタナティブそのものだった。
最後を飾ったのは藤井 風“Prema”だ。韓国のプロデューサー250とともに作り上げた、全編英語詞で歌われる、サンスクリット語で「究極の愛」を意味するタイトルを持つ楽曲。「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」というMAJのコンセプトを体現する楽曲として、文句なしの選曲ではないだろうか。さらに、この曲が収録されたアルバム『Prema』は、Republic Recordsから全世界同時リリースされ、この夜、最優秀アルバム賞にも輝いた。壇上で藤井 風は「このアルバムは、自分の中にいる究極の愛、Premaを探しに行く、自分が必要としていたアルバムです」と語ったが、音楽を通した自己探究が、自然と日本を飛び出して世界へと繋がっていったのは、日本の音楽にとってひとつの希望と言えるのではないだろうか。
そして、グローバル視点からMAJを見た時に欠かせないピースがある。海外から招かれたスペシャルゲスト、サム・スミスの存在だ。2014年にリリースした“Stay With Me”の大ヒットを追い風に、翌年2月の米グラミー賞で4冠を達成。現在までに通算5冠を誇るこのイギリス人ミュージシャンの歌声が、TOYOTA ARENAに響いた。一切の衒いのない極めてミニマルなバンドセットに、ミュージシャンの息遣いが感じられる演奏。アメリカを中心としたポップ音楽の長い歴史がそのまま流れ込んでいるかのような、世界基準の「王道」とはこういうものなのだと見せつけられた思いがした。
さらにトークにおいても見逃せない場面があった。パフォーマンスのあと、菅田将暉から日本の音楽について問われたサム・スミスは好きなアーティストとしてBABYMETALの名を挙げた。世界的アーティストの口から、ごく自然に出てきた名前。しかし、そのBABYMETALはこの会場にいない。ノミネートもされていない。世界の耳に届いている「日本の音楽」と、MAJのテーブルに並んだ「日本の音楽」との間に横たわる静かなズレが、図らずもそこに可視化された瞬間だった。
しかし、このズレはどこから来るのだろうか。鍵はおそらくMAJの投票構造にある。エントリー作品はストリーミングやセールスなどのチャートデータを基に自動的に選出され、そこから約5000人の音楽人による二段階の投票で受賞が決まっていく。一次投票で各部門の候補が5組に絞られ、最終投票で勝者が決まる。しかも投票者にはカテゴリーがあり、大まかにはアーティストやクリエイターの1票は、業界スタッフの2票分の重みを持つようになっている。つまり冒頭で書いた「音楽人が選ぶ」という性格こそが、賞のかたちそのものを決めているわけだ。
この視点に立てば、サカナクション“怪獣”の5冠にも、腑に落ちる背景が見えてくる。山口一郎は、コロナ禍に不要不急であると叫ばれたライブエンターテインメントの存続を背負った人物だ。音響や照明の改善、スタッフの雇用維持に走り回ってきた。事実この夜は、“怪獣”の5冠だけでなく、サカナクションのライブを支えた照明と音響のスタッフにも賞が贈られている。MAJは楽曲やアーティストだけでなく、その裏方の仕事までを讃える賞でもあるのだ。もちろん“怪獣”自体が彼らが生み出した傑作であることが前提ではあるが、約5000人の音楽人が選ぶのなら、特に数多くの作り手やスタッフと現場を共にし、時には矢面にも立ってきた山口一郎とサカナクションへと票が集まる傾向を想像することは難しくない。
その一方、あらためて考えたいのが、米津玄師をはじめとしたネットカルチャー発の音楽だ。米津玄師“IRIS OUT”は上半期のBillboardチャートにおいて2位に大差をつける圧倒的1位の記録を打ち立て、MAJにおいても最優秀J-POP楽曲賞に輝き、アジア、ヨーロッパ、北米、ラテンアメリカの4地域すべてでBest Japanese Songに選ばれた。今世界に最も届いている日本の曲のひとつであることは、数字がはっきり裏づけている。2010年代以降の日本のポップ音楽最大の変化は、ネット発のクリエイターがシーンの中心に立ったことだ。2012年にいち早くボカロPからシンガーソングライターへと転身した米津玄師。そのあとに続くように、YOASOBI、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、Vaundy、キタニタツヤ、Adoといった重要アーティストが次々と現れ、日本の音楽の地図は大きく描き替えられていった。そして、今や彼らの音楽は、アジアを越えて世界中で聴かれている。
サム・スミスが名を挙げたBABYMETALだけでなく、グローバルに届いているネットカルチャー発のアーティストや音楽も、少なくとも今回のGrand Ceremony壇上の主要6部門ではほとんどその名を見ることができなかった。このねじれこそが、2年目のMAJが図らずも映し出した最大の疑問であり、同時に最大の成果だったのではないか。SNSでは今回のノミネートや受賞結果をめぐって「業界の力学が働いたのではないか?」と勘ぐる声もあるようだが、逆だ。むしろ透明性のある投票制度だからこそ、こうした結果が生まれやすい。「音楽人が選ぶ」という設計と、ベッドルーム/ネットカルチャー出身のアーティスト、あるいは海外ツアーにその活動の比重を置くBABYMETALのようなアーティストは相性がいいとは考えづらく、これは最初から織り込まれた構造の問題とも言えるだろう。かといって一般投票にしてしまえば、ファンダムが強いアーティストや作品だけが優遇される2010年代前半のJ-POPヒットチャートのようになってしまう。それでもこの構造上避けようのないねじれの問題は、グローバルを掲げる国際音楽賞がこれからの成熟の中で必ず向き合うことになる、本質的な問いとなるはずだ。
ここで思い出すのは、日本を代表する怪獣だ。2024年3月、映画『ゴジラ-1.0』が第96回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞。非英語映画として初の快挙だった。ハリウッドとは比較にならない低予算を、工夫と職人技で跳ね返したクリエイティブの勝利。日本が70年前に生み出した怪獣が、世界の基準に擦り寄るのではなくその異様さを保ったまま、ハリウッドの本丸で栄冠を手にした記念すべき出来事だった。
J-POPもまた、それ自体がひとつの怪獣ではないかと思う。サカナクションの総合的な音楽表現、米津玄師の変幻自在のトリックスター性、藤井 風の言語を越えたスピリチュアリティ、羊文学の暴力的なまでのオルタナティブ、そしてM!LKやFRUITS ZIPPERら最新型アイドルの、あまりにも独特な表現。米グラミー賞5冠のサム・スミスが体現した圧倒的な「ポップ音楽の王道」に対して、J-POPは異常なまでに多様で巨大だ。統一された美学はなく、基準もバラバラ。何をもって「こちらの楽曲のほうが優れている」と考えて投票すればいいのか途方に暮れてしまうほどだが、それこそが広義での日本のポップ音楽=J-POPの豊かさではないか。それは時にチープで雑多なひとかたまりにも見えるだろうが、唯一無二の個性と魅力の集まりだと気づかれた瞬間、きっと世界で次々とJ-POPが発見されていくだろう。かつてのマンガやアニメがそうだったように。最後に、いくつかのスピーチを書き留めておきたい。山口一郎は最優秀楽曲賞のスピーチでこう語った。「サカナクションは3年前に活動休止をしました。僕がうつ病を患ったからです。その間、メンバーやファンの皆さん、チームサカナクションの皆さんに支えられながら、なんとか踏ん張り、復活しました。休養明けから最初に書いた曲が、この“怪獣”でした」。大森元貴は「16歳の時に組んだMrs. GREEN APPLE、我々はバンドで、今でもずっとひとりで粛々と、孤独になりながら曲を作ってきました」「報われて嬉しい」と話した。塩塚モエカは「憧れと反抗心の間で」と言った。華やかな舞台の裏側にあるそれぞれの切実さ、人間らしさこそが、この祝祭に確かな体温を与えていた。音楽を作っているのは、人間なのだ。
MAJは「日本の音楽をアジアへ、そして世界へ」と掲げている。先述の通り、今回の授賞結果についてもSNSを中心にさまざまな議論が繰り広げられているが、このGrand Ceremonyにあった手応えや浮かび上がった疑問こそが、世界への足がかりの確かなヒントになるはずだ。それだけで2回目のMAJは成功と言えるだろう。(照沼健太)
このMUSIC AWARDS JAPANの記事は、SUPER BEAVER表紙巻頭・別冊BE:FIRSTの『ROCKIN’ON JAPAN』8月号に掲載!
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