「“言語化”疲れで、“言語化”という言葉にモヤモヤする」

    「即答するよりじっくり考えるほうが大事なのでは?」

    「別に“口下手”のままでもいいじゃないか!」…

    など、まったく新しいコミュ力を説いた書籍『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』が発売された。著者でイラストレーターのヤギワタル氏は、これまで200冊以上の書籍でイラストや装画を担当してきて、今回が初の単著となる。本書では、昨今の「言語化ブーム」に対して警鐘を鳴らし、「言語化“以外”に目を向けること」をイラストレーターならではの視点で面白く解説している。本記事では、その中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)


    宮﨑駿に学ぶ「言語化より大事なこと」ベスト1


    宮﨑駿に学ぶ「言語化より大事なこと」

    「もっと言語化しろ」

    「説明できないなら理解していないのと同じだ」


     ビジネスの世界では、そう言われることがあります。


     もちろん、言語化は大切です。

     しかし、『言語化だけじゃ伝わんない』という本では、それ以上に大切なものがあると語られています。


     それが、「経験」です。

     どれだけ言葉を知っていても、現実に触れていなければ、本当の意味では理解できない。

     そのことを教えてくれるのが、宮﨑駿監督の仕事です。



    なぜ『となりのトトロ』はリアルなのか

     本書では、まずこんな話が紹介されています。


    宮﨑駿監督のジブリ映画には、外国が舞台の作品と、日本が舞台の作品があります。

    どの作品も圧倒的な描き込みがあります。

    ただ、以前ある人が「日本を舞台にした作品のほうが、他の作品より表現が豊かだ」と言っていて納得したことがあります。

    これは作品の良し悪しではありません。

    あくまで絵の話です。

    ――『言語化だけじゃ伝わんない』より


     確かに、『魔女の宅急便』も素晴らしい作品です。

     しかし、『となりのトトロ』や『風立ちぬ』には、日本で暮らした人なら思わず「わかる」と感じる空気があります。


     では、その違いはどこから生まれるのでしょうか。



    言葉ではなく、「見た量」が違う

     本書では、その理由をこう説明しています。


    では、何がその「差」を生んでいるのでしょうか。

    それは、制作前のロケ地めぐりの仕方でわかります。

    『魔女の宅急便』はスウェーデンの都市を1ヶ月間ほど訪問取材したそうです。

    それに対して『となりのトトロ』は宮﨑監督がよく散歩で訪れていた狭山丘陵や東京都多摩市の風景がベースになっています。

    主人公たちが住む草壁家の住宅は宮﨑監督自身が住んでいた家も参考にしたようです。

    監督の兄弟から「なんだ、自分の家を出したのか」と言われたほどです。

    海外の現地取材をしている時点で、とても丁寧な仕事だと思います。

    ただ、自分の生活空間だったところは年単位で取材をしているようなものです。

    そこに生えている草や木、その質感を数えきれないくらい見ているのですから、事実を見た量に圧倒的な差があります。

    自分の住んでいた家ならば、より実感を伴うイメージを思い浮かべられるからです。

    ――『言語化だけじゃ伝わんない』より


     ここに重要なヒントがあります。

     宮﨑監督は、「日本の田舎とはこういうものです」と言葉で学んだわけではありません。


     実際に歩いた。見た。触れた。暮らした。

     つまり、言葉ではなく経験によって理解していたのです。


     だから描写がリアルになる。だから説得力が生まれる。



    知識だけでは、本当には理解できない

     本書では、さらにこんな言葉も紹介されています。


    『ジブリの立体建造物展 図録〈復刻版〉』には、宮﨑監督が若手スタッフのことを語っているくだりがあります。

    「若い人たちは、例えば1間というのがどのくらいの長さなのか知らないんですよ。1坪は3・3平米だという知識はあっても、実際どのくらいの広さなのかがわからない。和室を描かせても、こんな畳の敷き方は有り得ないというようなものを描くしね。」(『ジブリの立体建造物展 図録〈復刻版〉』p.141より)

    ――『言語化だけじゃ伝わんない』より


     これは非常に示唆的です。

    「1坪は3.3平方メートル」。この説明は間違っていません。


     でも、それを聞いて実際の広さを思い浮かべられる人は少ない。

     なぜなら、知識はあっても経験がないからです。


     畳の上で寝転んだことがない。

     和室で生活したことがない。

     だから数字は知っていても実感が伴わない。


     これは仕事でも同じです。


    「リーダーシップとは何か」

    「マーケティングとは何か」

    「経営とは何か」


     言葉で説明はできる。

     でも実際にやったことがなければ、その理解はどこか空中戦になってしまいます。



    本当に大事なのは、「言語化の前に経験すること」

     本書では最後にこう語られています。


    宮﨑監督のいう「知識」とは、私が言うラベルをラベルで説明している状態です。

    「1坪」というラベルを「3・3平米」という別のラベルで理解する。

    そもそも畳で生活をしたことがなく、体でものの長さを捉えた経験もなければ、畳1枚分の大きさ感覚は掴みにくいものです。

    だから1坪3・3平方メートルだと言われたとき、畳2枚分だとは思い至らない、畳1枚のサイズも、人がひとり寝転べるくらいだとはなかなか気づけないのです。

    宮﨑監督の発言は、「何かを理解するためには経験が重要」ということを伝えています。

    経験がなく、箱の中身がなければ、いくらラベルを使って説明できたとしても、やはりその言葉を本当にわかったとは言えないのです。

    ――『言語化だけじゃ伝わんない』より


    『言語化だけじゃ伝わんない』は、言語化ブームに対して重要な視点を与えてくれます。


     もちろん、言葉は大切です。

     しかし、本当に価値があるのは、言葉そのものではありません。


     その言葉の裏にある経験です。


     宮﨑駿監督の作品が人の心を打つのは、豊富な知識があるからではありません。

     圧倒的な量の現実を見てきたからです。


     つまり、言語化より大事なこと。それは、「まず経験すること」。

     そして、その経験のあとで言葉を獲得することなのです。


    ヤギワタル

    1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。

    これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。

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