東京・乃木坂にあるTOTOギャラリー・間にて、建築家の山田紗子氏の個展「山田紗子展 parallel tunes」が4月16日より開催されています。会期は7月12日まで。

山田氏は1984年生まれ、東京都出身。大学でランドスケープデザインを専攻した後、藤本壮介建築設計事務所に設計スタッフとして勤務後、東京藝術大学大学院に進学し建築を学びました。独立後、都内で設計した自邸〈daita2019〉で注目され、第33回吉岡賞、第3回日本建築設計学会賞大賞などを受賞しています。近年では2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の〈休憩所3(expo’25 rest area 3)〉を設計しています。
『TECTURE MAG』では、開幕前日にメディア向けに行われた内覧会を取材しました。山田氏の展示解説などをもとに本展をレポートします。
INDEX
・各プロジェクトの思考の過程を切り出した会場構成
3F GALLERY 1 / 中庭 / 4F GALLERY 2
・山田氏初の作品集
・開催概要
・関連イベント
各プロジェクトの思考の過程を切り出した会場構成
3F GALLERY 1

3F GALLERY 1 展示風景
3F GALLERY 1には、代表作〈daita2019〉を含む5つのプロジェクトに関する模型またはドローイングが展示されています。
コラージュのようなドローイングは、山田紗子建築設計事務所において、プロジェクトの核となるものを突き詰めて考えていく際に重要となるもので、さまざまなフェーズで制作されているとのこと。スタディ時にはおよそA4またはA3サイズで描いているドローイングを、実空間に近い大きさに拡大出力しています。
本展のために制作された縮尺1/5スケールの模型のあいだを通り抜け、模型の中を覗き込むと、開口越しに別プロジェクトの風景(ドローイング)が見えてくるという、没入感ある会場構成です。

左側:〈nakano〉模型 / 中央奥:〈nu: juku〉ドローイング / 中央手前および右側〈hebi〉模型(いずれも一部、縮尺1/5)

〈hebi〉模型の開口越しに〈miyazaki〉のドローイングが見える
本展のタイトルである「parallel tunes(パラレルチューンズ)」について、山田氏は次のように説明しています。
「本展の開催にあたり、これまでの設計活動を振り返って、自分たちがふだん大事にしていることは何か、どういう建築をつくっていきたいのか、事務所の皆と一緒に考えました。その時に出てきたのが、並走するメロディ、パラレルチューンズというタイトルです。もともと、私たちの建築を説明する言葉として、ポリフォニー(多声音楽)が当てはまるのではないかと漠然と考えていました。複数の旋律が同時進行していく形式を指す音楽用語で、ベースの音があって、誰か1人が大声で主旋律を歌っているのではなく、あちらこちらでそれぞれの歌が流れ、誰が主役なのかはわからない。時にぶつかり合い不協和音を奏でながらも、不思議な一体感がそこにはある。それは他者に対して常に開かれている、そんな全体像を、私たちは建築あるいはランドスケープでつくっていきたい。今回の展覧会と関連書籍『パラレル・チューンズ 山田紗子作品集』には、そのようなメッセージを込めています」(山田氏談)

展示について解説する山田紗子氏

〈daita2019〉模型
場内に足を踏み入れ、まず目に入ってくるのは、山田氏の自邸でもある〈daita2019〉の縮尺1/5模型です。本展の模型では、建蔽率50%の敷地に建てられた木造の居住棟と鉄骨フレームの構造、庭の植栽などを確認できます。縮尺1/5と大きいため、外階段から山田邸に入り込んでいくような没入感もあります。
「自邸〈daita2019〉の設計では、アフリカ中部でマウンテンゴリラのドキュメンタリー映像を撮影・制作している母親のもとを訪ねたときの体験が大きく影響しています。森の中を移動して暮らす彼らは、群れのリーダーの合図で小休止するのですが、居心地の良さそうな場所を即座に見つけて腰を下ろし、まわりの枝を何本か引っ張っただけで実に快適そうな環境をつくってしまう。そんな心地良さが家のあちらこちらにできるといいと思いながら、ドローイングをつくり、模型と格闘しながら設計しました」(山田氏談)

「内部空間と庭との連続性を縮尺1/20模型を使ってひたすら検討した。今回の展示では模型の裏側に回れるので、ぜひ家の中から庭を覗いてほしい」(山田氏談)

〈daita2019〉が専門誌で紹介されると、現所員の鈴木氏をはじめ若い建築系学生が訪ねてくるようになり、家の外に事務所を構えるきっかけになった。大きな転換点となった作品です」(山田氏談)

左手前:〈daita2019〉模型 / 奥:〈miyazaki〉ドローイング
2022年竣工の住宅〈miyazaki〉の展示は、壁一面、そのまま絵の中に入り込めるような、圧巻のドローイングです。
「私たちはほかの設計事務所と同じように、縮尺1/200または1/100の模型でスタディを始め、最終的に縮尺1/20や1/10の模型で設計を精査しています。でも模型だけを使っていると、自分たちが何をしたかったのかという本質を見失うときがある。一方でドローイングは、現実のスケールや重力からは自由になり、重要な要素を率直なかたちで落とし込んでいく過程で、いろいろと気づき、共有もしやすい。模型と同等の展示意義があると私たちは考えています。等身大に引き伸ばされたドローイングと、拡大模型とがパラレルに展開する世界には、来場者も自然と参加できる。そんな空間体験を提供できればと会場を構成しました」(山田氏談)

「〈miyazaki〉のドローイングをつくっているとき、空間全体が歌っているような感覚があった」(山田氏談)
本展のフライヤーの1つにも使われている、2022年竣工の〈miyazaki〉は、グラフィックデザイナーの夫妻が持ち込んだカラフルな家具も空間構成の一員となっています。「家のどこかに私たちらしさがほしい」という希望のもとスタディが進み、カラフルな内部空間に発展していきました。
「私たちが設計する壁や床、柱などの構造物が、その中に置かれるソファやベッド、衣類、ドローイング作品といったものたちの背景になってしまうと、ヒエラルキーが生まれてよくないと気づきました。どちらも同等に扱い、1つひとつが同等の存在感と空間への影響力をもって、この家に集まってくる、そんなイメージで設計しました」(山田氏談)

都内の狭小地で2024年に竣工した住宅〈nakano〉の展示
都内の狭小地に建てられた〈nakano〉は、施主の希望でコンクリート造に。山田氏曰く「コンクリートの躯体に生活が寄り添う感じ。行き止まりなくずっとつながっていく空間」が意識されているとのこと。

〈nakano〉模型内部、わたり廊下、螺旋階段、トイレが躯体から浮くように配置されている

〈nakano〉建築データ
3Fの展示空間を大きく占めるのは、硬い地盤の斜面地で着工を待つセカンドハウスの模型です。既存の木々のあいだを縫うように建てようとするプランから〈hebi〉と命名されています。

〈hebi〉縮尺1/5模型

「樹木が生い茂る外と人が生活しようとする内とが拮抗しながら場所が生まれていく、というつくり方をしています。山道を蛇がするするっと、消えて、出てきて、また隠れたりして登っていくようなイメージから、友人でもある施主と一緒に「hebi」という名に決めました。展示した模型はこれが完成形ではなく、スタディを重ねていく中で出てきたかたちで、3F GALLERY 1の展示空間を構成するのにぴったりだと気づき、拡大模型にしました」(山田氏談)

〈nu:kuju〉ドローイング
〈nu:kuju〉は、熊本県と大分県にまたがる阿蘇くじゅう国立公園の一角(大分県玖珠郡九重町)にある、牧場のリニューアルプロジェクトです。「NATURE&FANTASY」というコンセプトのもと、山田紗子建築設計事務所は建築とランドスケープデザインで参画しています。昨年に新しい動物舎などが完成、自然体験フィールドとして昨年7月にグランドオープンしています(4F GALLERY 2にて、現地で撮影された映像を見ることができる)。

「牧場という施設のあり方についてあらためて考えつつ、羊やヤギの生活の場を設計しました。設計当初、15ha(ヘクタール)という広大な敷地に対して、縮尺1/500ないし1/800という模型をつくったものの、なかなかコンセプトの本質を掴みにくかったのですが、何度も現地を訪れて、そこで見た風景、体験、物事を、全員できちんと理解しようとつくったのがこのドローイングです。このとおりにできあがっているわけではありませんが、一帯のランドスケープの特徴や、そこでの体験の連鎖というものと、私たちがつくる新しい人工物をいかに噛み合わせていくか、その思考の過程を展示しています」(山田氏談)

長野県で進行中のプロジェクト〈ポニー〉のドローイング
「ここ数年、動物と人が共に過ごす場所や自然豊かな環境でのプロジェクトが続いています。長野県で進行中の「ポニー」のプロジェクトでは、子どもが小型の馬・ポニーの世話をしながら滞在する施設をつくっています。人間が、動物を通して自然に触れ、理解していく場所です。そこで建築がどのように関わっていけるのか、そこに面白さを感じています」(山田氏談)

展示に関する山田氏の手書きテキストは思わぬところに掲示されているので見逃しなきよう
中庭展示
公募により設計者に選出され、山田紗子建築設計事務所が手がけた〈expo’25 rest area 3〉は、2025年大阪・関西万博の期間中に会場で使用された休憩所の1つです。

〈expo’25 rest area 3〉模型
「この休憩所は、万博の会場デザインプロデューサーを務めた藤本壮介さんによる〈静けさの森〉の一角にあります。当初は細長い形状で、一般来場者のための休憩所に加え、警察の詰め所や応急手当所、通信機器の基地局も設計対象に含まれていました。これを1つの建物にまとめると、ブラックボックス的なボリュームが大半を占めてしまう。そこで、〈静けさの森〉の一部を拡張しながら、森をかたちづくる木々とあわせてこの一帯をつくっていくことになりました。必要な諸室は分棟化し、そのあいだに生まれる空間のアウトラインをどのように描いたのかを表現した模型です」(山田氏談)

〈expo’25 rest area 3〉建築データ

「各々ユニークなかたちをもつ各棟の立面と、樹木群のあいだに生まれる輪郭、その動き、色の移り変わり、そして奥へとつながっていく空間を意識して全体を設計しました」(山田氏談)

「最後は地面やサインも巻き込んだ全体的な塗装計画となり、引き渡し日のぎりぎりまで塗装を粘ることになった」(書籍『パラレル・チューンズ 山田紗子作品集』P124の記述より)

「どういうことを意識して各棟が配置されたのか、上から眺めるとても明解に見えてくると思います」(山田氏談)
4F GALLERY 2 展示
4F GALLERY 2では、暗室にて4つの映像作品がループ上映されています(映像制作をルフトツークを率いる遠藤 豊氏が担当)。

4F GALLERY 2 映像作品キャプション
〈Five Windows〉では、家の窓に見立てたスクリーンが5つ投影され、3つの住宅作品〈daita2019〉・〈miyazaki〉・〈harunoya〉でそれぞれ定点撮影された映像が流れます。

4F GALLERY 2 展示風景

4F GALLERY 2 展示風景
「それぞれの住宅の映像が窓越しの風景のように映り、3つの住宅の空間性が展示室でひとつの場になることを目指しました。その家で暮らす人しか見られないような、至近距離の風景を楽しめると思います」(山田氏談話)。
2本目から4本目までの映像は、3方の壁を大きく使っての展示です。各映像で異なる投影面が現れる複雑なプログラムを、ルフトツークの遠藤氏がディレクション。このうち、中庭に巨大模型があった〈expo’25 rest area 3〉の映像は、万博閉幕の翌朝にドローンで撮影されたもので、建物が現存しない今、貴重な映像資料となっています。
「ドローンのアングルは私たちも初めて見るもので、新鮮でした。飛行ルートにそって、各棟の色やかたち、つながり、植栽帯とのやりとりといったものが見えてきます。〈outline bar〉は、2023年の秋に都内で開催されたアートフェア「アートウィーク東京(AWT)」において、4日間限定でオープンしたバーの空間構成です。翌年に寺田倉庫のギャラリーでも展示しました。〈nu:kuju〉の映像では、現地の夜明けから日没までの風景とともに、雄大な自然と共に生きる動物や人の姿が映し出され、建築やランドスケープを体験できます」(山田氏談)

4F GALLERY 2 展示風景より、〈outline bar〉の映像の一部

大分県内で進行中の牧場リニューアルプロジェクト〈nu:kuju〉の映像を前に解説する山田氏
山田氏初の作品集
本展で展示されているもの以外にも、山田紗子建築設計事務所ではさまざまなプロジェクトを手掛けており、それらは本展のために製作された『パラレル・チューンズ 山田紗子作品集』(TOTO出版)に収録されています。展示を補完する内容となっており、山田氏が書き下ろした作品解説文のほか、専門領域を横断して4組との対談などを収録。霊長類学者の山極壽一氏とは〈daita2019〉にて対談を収録。藝大大学院在籍時に指導を受け、現在もさまざまなプロジェクトでタッグを組んでいる構造エンジニアの金田充弘氏、そして山田氏が最も尊敬する建築家のひとりである西沢立衛氏とも対談。ポルトガル・ポルトを拠点とする設計事務所・fala(ファラ)も本書に登場。同事務所を率いる4人の建築家のうち3人とのあいだでやりとりされたメールのテキストが公開されています。

山田氏および山田紗子建築設計事務所としても初の作品集『パラレル・チューンズ 山田紗子作品集』(2F Bookshop TOTOでは山田氏のサイン本を数量限定で取り扱い)
「山田紗子展 parallel tunes」
会期:2026年4月16日(木)~7月12日(日)
開館時間:11:00-18:00
入場料:無料
休館日:月曜・祝日
会場:TOTOギャラリー・間
所在地:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F(Google Map)
主催:TOTOギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問:安藤忠雄、委員:貝島桃代、平田晃久、セン・クアン、田根 剛)
後援:一般社団法人東京建築士会、一般社団法人東京都建築士事務所協会、公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人日本建築学会関東支部、公益社団法人日本建築士会連合会
協力:日本ファイリング、一般財団法人田中仁財団、オカムラ、創造系不動産、太陽工業、シマ、北勢工業、荒川技研工業、ルフトツーク、Artifact

本展のフライヤーは2種が用意されている
左:miyazaki Tokyo, 2022 Photo ©Rumi Ando llustration ©Kokoro Suzuki
右:expo’25 rest area 3 Osaka, 2025 ©Yosuke Ohtake
TOTOギャラリー・間 ウェブサイト 本展詳細
https://info.jp.toto.com/gallerma/ex260416/index.htm
#TOTO GALLERY・MA YouTube: 「山田紗子展 parallel tunes」展覧会+書籍ガイド動画(2026/05/01)
本展関連企画
会期中、TOTOギャラリー・間の館長によるギャラリーツアーやディレクター、スタッフによるガイドツアーも開催されます(予約不要、詳細はTOTOギャラリー・間のウェブサイトを参照)。
ギャラリートーク「parallel dialogues パラレル・ダイアローグス」
※計3回開催(第1回、第2回はすでに終了)
第3回
「生命の探求、その構造」
日時:2026年7月10日(金)
登壇:池上高志(人工生命研究者・東京大学大学院教授)、布施琳太郎(アーティスト)、山田紗子
詳細
https://info.jp.toto.com/gallerma/ex260416/event/?event_type=type1
Text and photos taken on the day were by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG
![[Report]TOTOギャラリー・間「山田紗子展 parallel tunes」見どころをレポート – TECTURE MAG(テクチャーマガジン) [Report]TOTOギャラリー・間「山田紗子展 parallel tunes」見どころをレポート - TECTURE MAG(テクチャーマガジン)](https://www.magmoe.com/wp-content/uploads/2026/06/20260602suzuko-yamada-ex_tecturemag-endo01_3552.jpeg)