多緒 もっと若いときだったら「(自分を)よく見せたい」という気持ちもあったと思うんです。でも今回は、この役をやりたい気持ちは強かったですが、「選ばれよう」という意識はあまりなくて、自然に話せた感覚でした。

    濱口 多分、多緒さんに「この役は自分のところに来る」という強い確信があったんですよ。私がむしろそれに巻き込まれた感じはありました。

    多緒 今までに体験したことがないくらい、真理という人物が自分の中ですごくリアルに感じられたんです。

    『急に具合が悪くなる』 濱口竜介監督 岡本多緒 映画

    ──言葉を超えて伝わるものはありましたか?

    多緒 特にヴィルジニーさんとのシーンでは、言葉があるからこそ生まれる感情もあれば、わからなくても通じる瞬間もありました。たとえ言葉を完全に理解していなくても、それを超えた何かで通じ合えている時間は確かにありましたね。

    ──パリでの撮影はいかがでしたか?

    多緒 4カ月ほど滞在していたんですが、フランス人の印象が大きく変わりました。20年前のファッション界での経験から「朝の9時集合の場合、実際に動き出すのはお昼頃からですよ」みたいなことを監督に言っていたんですが、全然違って(笑)。スケジュールに関してもみなさんものすごくプロフェッショナルでした。構えていた分、いい意味で裏切られて、温かく迎えてもらいました。

    濱口 フランスでの制作体制は法律や労働環境がしっかり整備されていて、非常に持続可能な仕組みになっていると感じました。同じ文化を持たない日本に現地のシステムをそのまま導入するのは難しいですが、歴史的にそうした仕組みを勝ち取ってきた過程には学ぶべきものがあると思いました。ただね、パリは美しいだけじゃなくて、汚くもある(笑)。でもその両方が共存している雑多さがパリの魅力でした。

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