国内美術館では21年ぶりの展覧会

    ほかの写真はこちら

    杉本は1948年、東京生まれ。1970年に渡米し、1974年以降はニューヨークと日本を往還しながら制作を続けてきた。2008年に建築設計事務所「新素材研究所」、翌年に公益財団法人小田原文化財団を設立。2017年には10年の構想を経て、相模湾を望む高台に文化施設「江之浦測候所」を開いた。古美術蒐集から舞台芸術の演出まで、その活動は領域を越えて広がり続けている。

    「今、写真から何が絶滅したのか。それは写真の証拠能力に他ならない」と杉本は語る(プレスリリースより)。デジタルへの移行によって、写真が長らく保ってきた証拠能力は失われつつある。杉本に言わせれば、デジタルは嘘をつき、写真は嘘をつかないのだ。だが本展が指し示す「絶滅」のヴィジョンは、そこにとどまらない。半世紀をかけて写真表現の可能性を押し広げてきた杉本の仕事の全体を見わたすとき、その底に通奏低音のように響いているのが「絶滅」という主題なのである。1970年代後半の初期作から最新作まで、銀塩写真およそ60点。3章に分けて並ぶ会場を、順にめぐっていきたい。

    虚像が実像になる瞬間をとらえる

    最初の展示室で観客を迎えるのは、「ジオラマ」のモノクロームの世界だ。野生動物の生態を再現した自然史博物館のジオラマを、杉本は大判カメラでとらえた。動くものを静止させるはずの写真というメディアが、ここでは反対に、動かない剥製をあたかも生きているかのように見せる装置として働く。

    遠近感は消え、モノクロの画面からは現実の手触りが抜け落ちている。それでも、近づきさえしなければ、そこは確かに生命の宿る世界に見えるのだ。1975年に最初の1枚が撮影され、杉本のデビュー作となったシリーズでもある。本展では新作《ボコット族》(2025)、《モブティ・ピグミー》(2025)、《ホモ・エレクトス》(2025)を加え、人類史をたどる作品群として展開する。

    虚像を実像に変えるそのまなざしは、次の展示室で時間そのものへと向けられる。1本の映画を写真でとらえることはできるか。そう問いかけた杉本は、映画を始まりから終わりまで長時間露光で撮影することを試みる。映画の物語は真っ白に発光する四角い光へと還元され、古びた劇場が神秘的な雰囲気に包まれる。そして、スクリーンの輝きに照らされ、建てられた当時の繁栄を物語る豪華な内装が浮かび上がる。だが杉本が「劇場」シリーズに着手した70年代後半、映画はすでに斜陽を迎えていた。この光のなかには、「絶滅」へのまなざしが差し込んでいると言えるだろう。

    時間を遡る装置としての写真は、「海景」シリーズでその起点にまで届く。水平線を境に、下半分は海、上半分は空。それ以外の一切は画面から排されている。原始の人間が見ていた風景を、現代の私たちも同じように見ることはできるか。自ら立てたこの問いへの応答として、杉本は人類の意識の始まりへと時を遡行する。ゆるやかなカーブを描く展示室で、観客は一点一点と静かに向き合うことになる。

    Share.

    Comments are closed.