著者が選んだ10冊の本と合わせて特設の平台を作り、平積みにして展示する(青山ブックセンター本店)

    著者が選んだ10冊の本と合わせて特設の平台を作り、平積みにして展示する(青山ブックセンター本店)

    本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。

    今回は、定点観測している青山ブックセンター本店だ。6月初旬は台風の影響などで客足が鈍り、ビジネス書の売れゆきも前年割れが続いていたが、このところ持ち直してきているという。そんな中、書店員が注目するのは、起業16年を過ぎた経営者が折に触れ書き留めた経営に関するメモを一冊にまとめた経営をめぐる思考の本だった。

    経営に関する184項目のメモ

    その本は阿部圭司『経営メモ』(WORDS)。副題に「16年の起業家人生で得た知見」とある。著者の阿部氏は1980年生まれの起業家・経営者・投資家だ。副題にあるとおり、16年前に初めて起業し、この間マーケティング関連の会社を3社創業し、いずれも株式譲渡の形で手放してきたという。譲渡後も譲渡先の上場企業で5年以上取締役を務め、15期連続の増収増益を達成するなど、手放した上でさらなる成長を後押しした起業の成功者と言っていい。

    著者はそんな16年の間、毎日のようにメモアプリに経営に関するメモを書き続けてきた。その箇条書きのようなメモを肉づけし文章化、1冊にまとめたのがこの本だ。

    まず目次から見てみよう。「001|資本政策は後戻りできない。だからこそ慎重に」に始まって、11ページにわたって184項目のメモタイトルが並ぶ。このすべてが文章化されたメモで、短いものは数行、長くても4ページほどの文章にまとめられている。

    全体はお金、マネジメント、マーケティング、採用、経営、M&A(合併・買収)と6つのテーマに分かれているが、過半の105項目が「経営に関するメモ」で、マニュアルっぽい整理をあえてせずに編集している印象だ。

    リアルな体験に基づく力強い言葉

    それゆえか、メモ一つ一つの言葉が力強い。経営やマネジメントに関するヒントを見つけるために読むなら、目次を眺めて気になるタイトルを探し、その項目を読む。そんな読み方がいいかもしれない。あるいは座右に置いて、なんとなくページを開いてそのページを読むのもいいだろう。

    「経費削減ではなく、売上を伸ばすことを先に考える」。こんな言葉が気になる人もいるだろう。「良い税理士、弁護士、社労士の見つけ方」。こんなノウハウが語られていそうな項目が気になる場合もあるかもしれない。「間違っていたとしても、決めるのがリーダーの仕事」。こんなタイトルの項目から経営者の覚悟を読み取るのも一つの読み方だ。

    とにかく元になったメモは、著者が経営を進める中でリアルタイムに悩んだことや気づきを書き留めたものだ。そこには強い実感がこもっている。通読すれば、経営とは何をすることなのか、どんな態度で臨むべきなのか、基本的な行動の規範とでもいうものを感じ取れるはずだ。

    「特設の平台を設置していることもあってか、店頭の反応がいい」とビジネス書を担当する神園智也さんは話す。店の客層にはマーケティングや企画系のビジネスパーソンや経営層が多く、そこに刺さる本なのかもしれない。

    『メタスキル』が3位

    それでは先週のランキングを見ていこう。

    (1)経営メモ阿部圭司著(WORDS)(2)編集者のフィードバック佐渡島庸平著(インプレス)(3)メタスキル深津貴之・けんすう(古川健介)・尾原和啓著(ニューズピックス)(4)生きるための表現手引き渡邉康太郎著(ニューズピックス)(5)ふだんづかいの人類学ニコラ・ノヴァ著(世界文化社)

    (青山ブックセンター本店、2026年6月8~14日)

    今回紹介した『経営メモ』が1位だった。5月の本欄の記事〈アドバイスは伝わらない 「感想」で成長や気づきを促す編集者のフィードバック〉の記事で紹介したフィードバック論が2位に入った。3位は「ゲームの構造を探り、ルールを書き換えたり、新しいルールを見つけたりする力」をメタスキルと位置付け、表面的なスキルより一歩深いスキルを身に付ける戦略を説いた本だ。

    4位は2025年12月の本欄の記事〈表現することで生きる時間を取り戻す 仕事や目的にとらわれない「つくる」の手引き〉で紹介した、表現を始め、続けることを促す本。5位はフランスの人類学者による、人と世界への観察力を鍛える本だった。

    (水柿武志)

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