個性的なセレクトが光るブックストアが月替わりでおススメの写真集3冊を紹介する連載。代々木八幡のHi Bridge Booksが、橋口譲二の写真集を3冊セレクト。
「SNSの日常化により、他人の生活ばかりを気にし、自分が今生きている時間と向き合いづらくなっているように感じます。SNSの良い点もあるので全てを否定するつもりはありませんが、そのスピード感から逃げたくなる時もあります。そんな今だからこそ、写真集という異なるメディアで、年月をかけ自分の足で出向き、丁寧に編まれた作品を紹介したい。シンプルなものにこそリアリティがある。その感情を共有したいと思いました」
セレクト・文=髙橋優香(Hi Bridge Books)
橋口譲二が1987年から、自身の生きている時代と空間を切り取り、記録するとともに自身の立ち位置を確認していきたいという思いから、日本人をテーマとした撮影をスタートしたシリーズの初の作品集。本シリーズは、ひとつの共通項で被写体をしぼり、定型の質問によるインタヴューと正面から撮影したポートレイトを重ねるスタイルで構成されている。北は北海道の礼文島から、南は沖縄の与那国島まで、ほぼ日本全国を旅し、その旅先で出会った“17歳”たちを撮影。掲載されている102人は、一切セレクトしていないという。 被写体の“17歳”という年齢は大人でも子供でもないちょうど狭間で、社会に染まりきらず、自身の価値観で生きている時期だとも思う。
ストレートに撮影された等身大の写真からは何者かになろうとしている姿ではなく、今の自身を生きている姿にハッとさせられる。 SNSの影響だろうか、常に目の前にない遠くのものを見ることに慣れ、リアルを意識しづらくなっている今の時代。この写真集の中に現代の私たちが忘れている人々の姿があり、今改めて見返すと、人が自分自身を生きることの確かさがあるように感じた。
1988年の『十七歳の地図』、90年の『Father』に続き、92年に出版されたのが本書。90年6月、沖縄での撮影をスタートし、92年9月、東京・新宿での撮影を最後に計103組のカップルが掲載されている。 「カップル」の条件として彼が定めたのは、互いをパートナーとして認識しているが、結婚はしていないということ。結婚という形を取ると、「家族」という関係性がより強くなることと、カップルのほうが互いの関係性において、自由な関係が存在し、ある種の緊張感と互いに依存することのない個が存在すると思ったからだそうだ。
本書には年齢、国籍、性別に関わらず多様なリレーションシップが掲載されており、関係はさまざまだが、そこには愛があることが伝わってくる。こうした曖昧性や自由な関係性から生まれる余白に人は夢中になり、惹きつけられるものなのだなと本書を通して感じた。
これまで紹介した二作とはまた違った形で制作されたのが 、1996年に出版された『職 1991~1995』。本書は1991~1995年にかけて求人情報誌「ガテン」に連載されたものを再編集し、出版された。前述の二作と異なる点は、共通の背景のもとで世代の異なる人たち、まだ仕事歴が浅く、おもしろさをわかり始めた頃の世代と、何十年ものキャリアを持ち、今もなお現役で働く二人の先輩をフィルムに収めていること。対比ではなく、そこにある事実として淡々と写し出されている視点が興味深い。
見逃せないのがインタヴューだ。正面から撮影されたポートレイトとともに作家により脚色されることなく、ありのままに綴られている文章にグッとくる。シンプルに構成されているからこそ響くものがあり、何度も見返したい力強い写真集。
Hi Bridge Books
代々木八幡にある「Hi Bridge Books」は、「小宮山書店」で経験を積んだ髙橋優香が店主を務める完全予約制の書店/ ギャラリー。ビジュアルブックを中心に、国内に埋もれる希少価値の高い写真集、メインストリームには沿わないカウンターカルチャーの視点で制作された書籍や雑誌、作品などを独自の視点で取り揃えている。併設のギャラリースペースでは不定期の企画展を開催。ブックローンチも積極的に行う。
〒151-0053
東京都渋谷区代々木5丁目
https://www.instagram.com/hi_bridge_books/
