柄本佑(左)と坂西未郁監督

    柄本佑(左)と坂西未郁監督

    PROFILE: 左:柄本佑/俳優 右:坂⻄未郁/映画監督

    PROFILE: 左:(えもと・たすく)東京都出⾝。「美しい夏キリシマ」(03)で映画主演デビュー。近年の主な出演作に、「素敵なダイナマイトスキャンダル」(18/冨永昌敬監督)、「きみの⿃はうたえる」(18/三宅唱監督)、「⽕⼝のふたり」(19/荒井晴彦監督)、「痛くない死に⽅」(21/⾼橋伴明監督)、「⼼の傷を癒すということ-劇場版-」(21) 、「先⽣、私の隣に座っていただけませんか?」(21/堀江貴⼤監督)、「真夜中⼄⼥戦争」(22/⼆宮健監督) 、「ハケンアニメ!」(22/吉野耕平監督) 、「シン・仮⾯ライダー」(23/庵野秀明監督)、⼤河ドラマ「光る君へ」(24/NHK)、「⽊挽町のあだ討ち」(26/源孝志監督)、「⿊牢城」(⿊沢清監督、6月19日公開)がある。

    右:(さかにし・みいく)1992年、東京都出⾝。京都造形芸術⼤学(現:京都芸術⼤学)映画学科卒業。⼤学時代より映画制作を始め、短編映画「すこしのあいだ」「夜のこと」などを制作する。「すこしのあいだ」において、ISCA(INTERNATIONAL STUDENTS CREATIVE Awards)映画祭2013最優秀作品賞を受賞、「夜のこと」において、京都造形芸術⼤学最優秀学科賞を受賞。⼤学卒業後、助監督やメイキングカメラマンとして映画に携わる。80年代から90年代にかけて、⽇本の⾳楽シーンにミュージックビデオという分野を定着させた⻤才、映像ディレクター・映画監督の坂⻄伊作を⽗に持つ。⾃⾝もAwesome City Club「勿忘」などのミュージックビデオを監督。本作品が待望の⻑編映画監督デビュー作となる。

    6月12日公開された映画「メモリィズ」は日常をめぐる物語だ。怪我をした義父、誠の身の回りの世話をするために、雄太は東京から九州の田舎町に向かう。毎朝、誠が飼う犬の散歩をして、誠が営む写真館の手伝いをする雄太。同じような毎日の繰り返しの中で、少しずつ変化していく街の景色。そして、雄太と誠の関係。日々の暮らしが家族の大切な記憶となっていく様子が、繊細な眼差しで描き出されていく。監督・脚本を手がけたのは、本作が初長編作となる新鋭、坂⻄未郁。主演の雄太を演じたのは柄本佑。坂西がこだわった日常をフィクションとして描くこと。そして、柄本が台本から感じた「色気」とは何か。2人に話を聞いた。

    日常の些細な出来事を映画で描く

    坂西未郁監督(左)と柄本佑

    坂西未郁監督(左)と柄本佑

    ——大きな事件が起こるわけではないけれども、そこには映画でしか表現で見ないような日常のドラマがある。「メモリィズ」はそんなユニークな作品でしたが、この物語はどうのようにして生まれたのでしょうか。

    坂⻄未郁(以下、坂⻄):日常の些細な出来事というのは、ほとんど忘れてしまうじゃないですか。でも、それを動画で残すことはできる。学生の頃から、日常の些細な出来事を映画でフィクションとして描くことに興味があったんです。それである時、九州のある市から「短編映画の企画を出してくれませんか?」という依頼があったんです。そこで日常を題材にした作品を思いついて。最近、スマートフォンで友達がご飯を食べているところとか、何気ない日常を動画で撮っている人が多くなりましたよね。でも、その映像を見返すことってほとんどないと思うんですよ。そういうことにヒントを得て、九州と東京でスマートフォンで動画を送り合うだけの20~30分の短編の脚本を書いたんです。でも、短編を制作する企画自体がなくなってしまって。そのことを(リトルモア)の孫家邦さんに話したら、その短編のアイデアをもとに長編を作ってみないか、と提案いただいたんです。

    ——柄本さんは映画の台本を読まれて、どんなところに興味を持たれました?

    柄本佑(以下、柄本):何か大きな事件が起こることはなく日常が描かれていく。そこにそこはかとない色気を感じました。

    ——その「色気」というのはどいうものですか?

    柄本:なんでしょうね。台本から何か匂い立つものがあったんです。出来上がった作品から色気を感じました。

    坂西:色気を感じた、というのは、映画の空気感を感じ取って頂いたんですかね? この作品は台本にするのがすごく難しかったです。読む人の想像力次第なところがあって。だから、柄本さんが台本の段階で色気を感じてくれたのは嬉しいですね。

    ——台本だけでは伝わりにくい作品、ということですが、撮影に入る前に映画やキャラクターについて2人で話をする機会はあったのでしょうか。

    柄本:うちの事務所で懇親会みたいなことをやって、そのあと、2人で飲みに行ったんです。でも、そこでは役についての話はそんなにしなくて、映画とは関係ない話ばっかりしていました。この映画は役について深く話すような作品ではないと思うんですよ。監督と話をしてコミュニケーションを取るのが、役作りでいちばん役立ったんじゃないかと思います、

    ——それは普段の会話を通じて監督の考え方や感じ方を掴む、ということでしょうか。

    柄本:いや、そんな大げさなことじゃないです。こういう作品をやる時って、ある種のおおらかさが必要だと思うんですよ。だから、お互いに相手のことを知る時間が大切というか。どっちかっていうと、僕が監督を見るというより、監督に自分がどういう人間なのか見てもらうのが大切だったかな。酔っ払っていて何を話したか覚えてないんですけど(笑)。

    「歩く演技は難しい」

    坂西未郁監督(左)と柄本佑

    坂西未郁監督(左)と柄本佑

    ——監督はどういう狙いで柄本さんを起用されたのでしょうか。

    坂西:佑さんが出演した映画を見ると、ある種の純粋さと鋭さが両立している。佑さんが演じるキャラクターは映画の中でどこにでも行きそうだなっていつも思うんですよ。今回のように物語が少ない話だと、キャラクターの魅力がとても重要で、「この人はどういう人物なんだろう?」って観客の想像力を掻き立てられる主人公が良いと思ったんです。雄太はこういう人間だからこうなる、ということより、その時々に佑さんが感じたことを、観客がそのまま感じることが大切だと思ったんです。

    ——柄本さんは雄太を演じるにあたって何か心がけたことはありました?

    柄本:心がけたこと、というのは特にありませんが、この作品は歩くシーンがすごく多いんですよ。歩く演技というのはすごく難しくて、俳優がいちばん最初にぶつかる壁かもしれない。やればやるほど難しくなっていくんです。ただ歩くのが怖くなってくるというか。でも、長いこと、俳優をやっているとそのすべを自然に身につけてしまって、だんだん意識しなくなってくるんです。それは処世術を身につけるようなもので。大河ドラマの撮影が終わって、3~4カ月休んでからこの作品の撮影に入ったんですけど、久しぶりに歩く演技に向き合う必要があったので初日はちょっと緊張しましたね。

    ——役者としての原点に戻った?

    柄本:俳優をやっていると知らない間に鍛えられて、勝手に演技の筋肉がついてしまうというか。今回、その筋肉を削ぎ落とすような作品に出会えた。長くやってきたことを捨てる作業ってすごく大変なんですけど、それをすることで役者として新しいスタートを切れたような気がします。

    坂西:段取りの時から、佑さんの歩く姿を見させてもらったんですけど、毎回ちょっとずつ違う。それは意識的にそうしたというより、周りで起こっていることに反応した結果だと思うんですよ。歩いている横を車が走ったりすると、それに反応して動きも変わる。

    柄本:その時々の音とか空気感を大事にした方がいい台本だったんです。だから段取りにそってやるよりも、音に反応して振り向いたり。周りの状況を感じながら演技することが大事だと思いました。

    坂西:そういう佑さんの演技を見て違和感がなければOKという現場でした。ただ、佑さんより一緒に散歩している犬の動きに違和感を感じることが多くて。人間よりも犬の方が自然に環境に反応していると思うんですけど、なんでかな?って不思議でしたね。

    ——雄太は毎日、同じ道を散歩しますが、日によって散歩道に微妙な変化がある。それがささやかなドラマになっていますが、それだけにロケーションは重要だったのではないでしょうか。

    坂西:僕は東京生まれ東京育ち。祖父母も東京出身なので、小学校の頃から夏休みに友達が実家に帰るのが羨ましくて、田舎に対する憧れがあったんです。だから雄太の散歩道は日本の原風景みたいな場所を見つけたいと思っていました。それでいて、独特の匂いがあるような。ロケ地の大分県竹田市をプロデューサーと2人で実際に歩いて良い場所を見つけて、それをパズルのように台本のシーンにはめていったんです。

    柄本:どの道も個性的でタイプが違うから歩いていて面白かったですね。道が大きく二股に別れているところがあるんですけど、そこに刈った草が袋に入れて並んでいるんですよ。

    ——その道、覚えてます。大きなマシュマロみたいな袋が並んでいるんですよね。

    柄本:そうそう。それが日によって倒れてたりするんですけど、あの道は妙に面白くて印象に残ってますね。

    イッセー尾形の魅力

    柄本佑

    柄本佑

    ——同じような日々の繰り返しの中で、雄太と義父の誠(イッセー尾形)の関係が変化していくのが2人のさりげない会話から伝わってきます。実の親ではなく妻の親っていう微妙な関係なのも面白い。柄本さんは誠役のイッセー尾形さんと共演されてみていかがでした?

    柄本:イッセーさんとは初対面で共演させて頂いたんですけど、役の距離感と近くて良かったかもしれないですね。イッセーさんのシャイさとチャーミングさが誠という役にとてもフィットしているような感じがしました。イッセーさんがシーンのことを解釈して空気を作ってくれるので、僕はそれに反応するだけで良かった。イッセーさんの演技にはすごく助けられました。

    映画「メモリィズ」の場面カット。イッセー尾形が演じる義父の誠(左)と柄本佑演じる雄太

    映画「メモリィズ」の場面カット。イッセー尾形が演じる義父の誠(左)と柄本佑演じる雄太

    ——柄本さんから見てイッセーさんの役者としての魅力はどんなところですか?

    柄本:シャイさじゃないですかね。シャイだから恥ずかしさをごまかすためにいろいろやる。そこらへんがまた可愛らしいんですよ。義理の息子(雄太)は仕事を手伝いに来たのに好きなラジオ聞いてヘラヘラ笑ったりしている距離感がバグってるような奴。そういう奴に対して誠は気を使っていろいろ喋ったりするんですけど、そういうところはイッセーさんのパーソナルな部分と通じるところがあるんじゃないかと思いました。

    映画の記憶と日常

    坂西未郁監督

    坂西未郁監督

    ——映画の後半。誠の存在が大きくなっていきます。カメラを手にしている誠の姿を見ると、誠は監督のお父さん(映像ディレクター/映画監督だった坂西伊作)の姿が投影されているところもあるのでは、と思ったのですが。

    坂西:台本を書く時に「誠=父親」とはまったく意識していませんでした。父は僕が学生の頃に亡くなったんですけど、その頃は忙しい父親と僕の生活のサイクルが逆転して、1カ月に2、3回の外食時にしか、しっかり話すタイミングがなかったと思います。だから、今も父の死を曖昧にしたまま生きているんですけど、父の仕事仲間の方とお会いした時に「お父さんとこの仕事をやったんだよ」とか「このMVもお父さんなんだよ」とかって、作品を通じて父と向き合わなきゃいけない瞬間があるんです。その感覚は映画にしたいと思っていました。映画の最後の方で、誠が自分の撮ったものを雄太に見せるシーンは、そういった意味では自分と父親の関係に通じるところがあるかもしれません。

    ——お2人とも父親の仕事の関係もあって、映画は身近な存在だったと思うのですが、子供の頃、両親や家族で見た映画で記憶に残っているものはありますか?

    坂西:「マトリックス」とか「スターウォーズ」の新作に連れて行ってくれたことをよく覚えてます。父は家でもよく映画を5.1chで観ていました。父はとにかく「マトリックス」とか新しいものが好きな印象で古典とかを見ていた記憶はないですね。僕は父親が見ている映画を横でなんとなく一緒に観ているっていう感じでした。

    ——映画を観た後、映画について話をしたりはしたのでしょうか?

    坂西:「どうだった?」って父から感想を聞かれることはああっても、父親の感想は覚えてないですね。自分が映画に興味を持つようになってからは、さっきお伝えしたように父親と生活が逆転していたので一緒に映画に行く時間はなくなりましたが、幼い頃に父親と過ごした時間のひとつとして、映画を観る時間、というのはありましたね。

    ——柄本さんはいかがですか?

    柄本:いちばん古い記憶だと「ドラえもん のび太と夢幻三剣士」かな。親父(柄本明)と母親(角替和枝)、時生もいたような気がします。誰が観たいと言ったかは覚えてないんですけど。自分で映画を観るようになってからは、家族で一緒に観るってことはあまりないですね。そういえば、この前、早稲田松竹にダニエル・シュミットの映画を観に行ったんですよ。そしたら、後ろから聞いたことがある咳が聞こえて、振り返ったら親父でした(笑)。

    ——名画座でお父さんとばったり(笑)、良いですね。この映画は日常を題材にしていますが、お2人は日常でルーティーンにしていることはありますか?

    坂西:特に予定がない日は、朝起きてすぐ奥さんとコーヒーを買いに散歩するというのがルーティーンかもしれないです。どこで買うかは決めずに出て、歩きながら話をする。そして、たいていはぶらぶらした後に近所のコンビニでコーヒーを買って帰るんです。

    ——コーヒーを買うことより、2人でぶらぶらするのが大切なんですね。

    坂西:そうですね、どっちかが行きたくない時もあるんですけど、半強制的に出たら、その日がいい一日になったような気がするんです。

    柄本:それ、うちの両親と同じですね。前日に喧嘩して口きかない状態でも、毎朝決まった喫茶店に犬を連れて散歩に行っていました。喧嘩している時はずっと無言らしいんですけど(笑)、長い時は3時間くらい話してましたね。

    ——お2人の絆が伝わって来ます。柄本さんのルーティーンは?

    柄本:夜に一合の米を洗って、翌朝7時に炊けるよう炊飯器のタイマーを入れておくんです。で、味噌汁も作っておく。それで次の日の朝、朝ごはんの準備をして、娘と奥さんがご飯を食べている間に掃除機をかけて、かけ終わったら白湯を飲む、というのは毎日やってるかな。

    ——朝から家の仕事をしっかりやられているんですね。ちなみに、柄本さん流の米研ぎテクニックはありますか?

    柄本:米の研ぎ方って人ぞれぞれじゃないですか。優しくやった方がいいとか、ざくざくやった方がいいとか、みんな流派が違う。うちのばあちゃんがギュッギュやる人だったんですよ。ばあちゃんが炊いた米が美味しかったから俺はギュッギュやってます。

    ——お2人とも朝が大切なんですね。

    坂西:昼と夜はいろんなことがありますからね。

    柄本:そうそう。朝で決まるんですよ、その日がどうなるかは(笑)。

    柄本佑(左)と坂西未郁監督

    柄本佑(左)と坂西未郁監督

    PHOTOS:KOZAI MIKAKO(L MANAGEMENT)
    STYLING:[TASUKU EMOTO]MICHIO HAYASHI
    HAIR & MAKEUP:[TASUKU EMOTO]SHINYA KAWAMURA(mod’s hair)

    [TASUKU EMOTO]ブルゾン 13万2000円、パーカー 6万9300円、シューズ12万1000円/すべてナイスネス(イーライト 03-6712-7034)、パンツ 6万2700円/アルテリア(イーライト 03-6712-7034)

    映画「メモリィズ」

    映画「メモリィズ」ポスタービジュアル

    映画「メモリィズ」場面カット

    映画「メモリィズ」場面カット

    映画「メモリィズ」場面カット

    映画「メモリィズ」場面カット

    映画「メモリィズ」場面カット

    ◾️映画「メモリィズ」
    6月12日から公開中
    出演:柄本佑/穂志もえか/梅沢昌代 伊佐山ひろ子 成田裕介 占部房子/香椎由宇/イッセー尾形
    監督・脚本:坂西未郁
    撮影:鎌苅洋一
    企画:孫家邦
    プロデューサー:伊達真人 福岡芳穂 土井知生
    製作・配給:リトルモア
    2026年/日本/カラー/シネマスコープ/5.1ch/97分
    ©2026 Little More
    https://memorizu.jp/

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