18世紀のイギリス、性別と人種の枠を超えた人間の平等を唱え、自らをキリストの化身と信じた一人の女性がいた。彼女の名はアン・リー。信徒と共にアメリカに渡った彼女は、その信念のもと「シェーカー教団」という理想の共同体を築き上げる。『アン・リー/はじまりの物語』(6月5日公開)は、『ブルータリスト』(24)で受賞したチームが、その伝説的女性の物語を壮大なミュージカルとして映像化した作品。アマンダ・セイフライド演じるアン・リーが着用する衣装、そして映画全体に広がる色彩設計は、シェーカー教団の精神性と、彼女の内的な旅を視覚的に伝える。ポーランド出身の衣装デザイナー、マルゴザタ・カルピウクが衣装デザインを担当した。第93回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『アイダよ、何処へ?』(20)、第96回アカデミー賞国際長編賞と音響賞を受賞した『関心領域』(23)、そして『旅の終わりのたからもの』(24)など、数多くの名作映画の衣装を手掛けてきた彼女に、オンラインインタビューを行った。

    【写真を見る】アマンダ・セイフライドがダイナミックなダンスシーンを披露!その動きを支える機能的で美しい衣装にも注目【写真を見る】アマンダ・セイフライドがダイナミックなダンスシーンを披露!その動きを支える機能的で美しい衣装にも注目[c]2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

    「限られた時間での準備で最も大切なのは、“勇敢さ”を持つこと」

    『アン・リー/はじまりの物語』への参加は、予期しない展開だった。「当時は、少し休息が必要だと思っていたので、仕事をする予定はありませんでした」とカルピウクは振り返る。だがポーランドの製作担当者からの電話が、すべてを変えた。「『モナ・ファストヴォールドのプロジェクトで、18世紀を舞台にした物語』と聞いて、すぐに反応しました。ファストヴォールド監督の『ブルータリスト』での仕事に感銘を受けていたので、まさに衣装デザイナーにとって夢のような仕事でした。さらに、アマンダ・セイフライドが出演するミュージカル映画だと知り、絶対に参加したいと思ったんです」。

    その電話のわずか2日後には監督とのオンライン会議が設定された。「映画製作は家族のようなものなので、エネルギーが合致するか、互いに理解できるかを確認する必要があります」。その2日後には、彼女は撮影現場となるブダペストに移動していた。プロジェクトとの参加打診から実際の着任まで、わずか一週間。スピード感とは裏腹に、カルピウクの判断は揺るがなかった。そこから6週間を、準備期間に費やした。

    本作の衣装デザインを担当したのは、ポーランド出身の衣装デザイナー、マルゴザタ・カルピウク本作の衣装デザインを担当したのは、ポーランド出身の衣装デザイナー、マルゴザタ・カルピウク[c]2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

    限られた準備期間での衣装製作は、多くのデザイナーにとっても挑戦だが、カルピウクはこの制約をむしろ創造性の源と捉えている。「プロジェクトにかなり遅れて参加したのですが、ありがたいことにモナや美術監督がシェーカー教徒に関する大量の情報を共有してくれました。私はすぐにそのテーマに没頭しました。最大の課題であり最も重要だったのは『素早く正しい決断を下すこと』でした。最初の2週間は、常に決断を迫られました。衣装を自作するのか、調達できる衣装があるのか。エキストラの衣装の割り振りを細かくチェックし、衣装合わせの準備を始めました。6週間の準備期間に加えて大変だったのは、キャストのほとんどがアメリカから来ていたことです。撮影地のブダペストに入るのは、撮影開始の1週間から数日前。最初の5週間は、主要キャストの衣装制作や確認、調達に追われていました。最後の1週間は衣装合わせやサイズ調整、足りない衣装の製作に充てました。限られた時間での準備で最も大切なのは“勇敢さ”を持つことだと思います。正しい決断、あるいはリスクのある決断を下す際に躊躇してはいけない。大変でしたが、クレイジーで、とても楽しかったです」。

    「シェーカーたちを最もフレンドリーで、開かれた温かみのあるコミュニティとして表現したかった」

    18世紀に実在した宗教コミュニティのシェーカー教徒の衣装を描くにあたり、カルピウクが直面したのは資料の少なさだった。「彼らに関する本や、メアリ・ダイアー(17世紀のクエーカー教徒)の手記などは多少残されています。しかし、現存する写真や建物の記録のほとんどは19世紀以降のもので、初期の資料は極めて限られていました」。

    シェーカー教徒たちを描いた古い絵画がインスピレーションの源になったというシェーカー教徒たちを描いた古い絵画がインスピレーションの源になったという[c]2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

    カルピウクと衣装チームがリサーチの出発点として掴んだのが、シェーカー教徒たちが壁に椅子が掛けられた独特の空間で激しく踊っている1枚の古い絵画だった。「女性たちは青みがかったドレスをまとい、男性たちは茶色っぽい衣装に身を包んでいました。その1枚の絵が放つ空気感こそが、私の最大のインスピレーションの源になったのです。歴史をそっくりそのまま再現するのではなく、その絵が内包する独特の雰囲気を捉えたい。それが私たちのスタート地点になりました」。

    シェーカーたちへの敬意を込め、衣装の色彩を設計したシェーカーたちへの敬意を込め、衣装の色彩を設計した[c]2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

    実際のハンコック・シェーカー・ヴィレッジ(米マサチューセッツ州にあるシェーカーのコミュニティ跡地)を訪れた際、カルピウクは教徒たちが赤やワインレッドといった強い色も使用していた事実を目にしている。しかし、衣装チームはこの映画において、それらの色を意図的に排除する決断を下した。「宗教コミュニティを描く際、しばしば彼らは厳格で威圧的な色彩をまとわされ、どこか不親切な印象を与えがちです。しかし私たちは、最初からこの作品が彼らの哲学やイデオロギーに対する一種のオマージュ(敬意)になることをわかっていました。だからこそ、彼らを最もフレンドリーで、開かれた温かみのあるコミュニティとして表現したかったのです」。

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