
2026年4月27日〜4月29日、東京ビッグサイトにて「SusHi Tech Tokyo 2026」が開催された。本イベントは、持続可能な都市をハイテクノロジーで実現するというビジョンを掲げ、スタートアップ、都市開発、エンターテインメントなどさまざまな視点から語られる。
当日は世界100カ国と地域から5万人以上が集まり、社会実装を見据えたテクノロジーの現在地と未来像が幅広く示された。
また、「SusHi Tech Tokyo 2026」の先駆けとして、4月26日には、有楽町のTokyo Innovation Baseで「AI日本国際映画祭 2026 春イベント SusHi Tech Tokyo 前夜祭」も開催されている。
<目次>
SusHi Tech Tokyo 前夜祭に続くイベント
AI日本国際映画祭は「SusHi Tech Tokyo 2026」の公式パートナーイベントとして正式認定されている。前夜祭は単なるプレイベントにとどまらず、AI技術がコンテンツ産業にもたらす「実利的なインパクト」と「美的価値の創出」を表す重要な機会となった。
その流れを汲み、「SusHi Tech Tokyo 2026」では「AI映画の最前線~今、エンタメ界で何が起きているのか?その未来予想図は?~」のセッションが開催。AIによる映像制作の現在地と、その先に広がる未来像が具体的な実践とともに語られた。
SusHi Tech Tokyo 2026
AI映画の最前線とエンタメ業界の現在・未来
同セッションでは、モデレーター・ヴァイオリニストの廣津留すみれ氏、映画監督・プロデューサーのGita Pullapilly(ギータ・プラピリー)氏、映画監督・プロデューサーのHarry Hyun(ハリー・ヒョン)氏、そしてSeattle AI Film Festival ファウンダーのJohn Gauntt(ジョン・ガント)氏が登壇し、国や立場を横断した議論が展開された。
SusHi Tech Tokyo 2026
廣津留氏は、全体を通して「AIや映画という枠組みを超え、誰が物語を語る権利を持つのか」という問いを提示した。従来、物語の発信はスタジオや配給会社といった限られた主体に委ねられてきたが、AIの登場によってその構造が揺らぎ始めている。
しかしAIの登場で制作手段が民主化され、「語る権利」と「語る主体」が一致する可能性が現実味を帯びてきた。一方で、それでもなお観客に届く物語を生み出せるかどうかは別問題である。
廣津留すみれ氏
セッションではまず、AIが単なる制作補助を超えた存在であると実感したきっかけについて語られた。ヒョン氏は、AIの導入によって自身の立場そのものが変化したと振り返る。「インディペンデント時代には接点のなかった業界関係者から声がかかるようになりました。AIは制作効率をあげるだけでなく、自分がどのようなクリエイターとして認識されるかを変えたと思います」と話した。
ハリー・ヒョン氏
一方プラピリー氏は、ハリウッドにおける制作環境を背景に、AIが創作の可能性を広げた点を強調する。
「これまで実現が難しかったアニメーションや時代劇の企画も、AIによって実現する可能性が大きく高まりました。参入障壁は大きく下がっています」
さらにガント氏は、AIにより創作プロセスそのものが作品の質に影響を与えている点に焦点をあてた。
「私は絵を描くことが得意ではありません。しかし、AIを介することで頭の中のイメージを可視化し、異なる分野のクリエイターと高いレベルで共有できるようになりました。AIの本質は完成品の生成だけでなく、創造プロセスを拡張する点にあると考えています」
ジョン・ガント氏
また、今では従来のプリプロダクション、撮影、ポストプロダクションと分断されていた工程も変化しているのも明らかだ。
ヒョン氏は「特にビジュアル表現においては、企画段階から完成イメージに近い形で提示できるようになり、投資家や関係者とのコミュニケーションの質が向上した」と説明した。
ハリー・ヒョン氏
AIによる効率化の影響については、プラピリー氏がコスト削減にとどまらない点を強調する。
「制作スピードの向上によって、クリエイター自身が予算やスケジュールを主体的に設計できるようになりました」と述べ、創作の主導権がより現場へと移行しつつある現状を指摘した。
ギータ・プラピリー氏
そして、セッションの中盤では「AIは創造性を持ち得るのか?」という問いも議論の中心となった。
この点に関して登壇者たちの見解は一致しており、AIはあくまで強力なツールだが、意図や感情、視点を持つのは人間であるという立場が示された。
プラピリー氏は「優れたストーリーテラーでなければ、AIを使っても優れた作品は生まれない」と語り、ヒョン氏も「映画は特定のソフトウェアの作品ではなく、あくまで人間の表現である」と、AIが人間を超えられないことを強調している。
さらに「AIを使えば誰でも短期間で傑作を生み出せる」という見方に対しても、登壇者たちは一様に懐疑的だ。
ガント氏は以下のように主張をしている。
「ラップトップ1台で週末に傑作映画が作れるという考えは、幻想に過ぎません。創作には時間と試行錯誤、そして他者からの批評を受け入れるプロセスが不可欠です。表現する権利は誰にでもありますが、観客に選ばれる作品になるためには努力が必要です」
ジョン・ガント氏
さらに、議論は映画産業の構造変化にも及んだ。
プラピリー氏は、従来のハリウッドにおける制作体制について触れつつ「AIによってインディペンデントでも大規模作品に匹敵する制作が可能になってきた」と指摘する。
少人数・低コストでの制作が現実味を帯びるなかで、クリエイター自身が主導権を持つケースが増えているという。
そして、セッションの最後に廣津留氏は、本日の議論を踏まえ「AIは単なる技術ではなく、誰が物語を語るのかという問いそのものを変えつつあります」とまとめた。
創作と流通の両面で変革が進むなか、技術の進化によって表現の門戸は確実に広がっているのがわかる。それでも、その先で問われるのはいかに人間らしい物語を紡ぐか――その本質は揺るがないようだ。
SusHi Tech Tokyo 2026
映画事業のイノベーションを考える
「創作の民主化」や「制作プロセスの変化」は、ビジネスの側面でも同様に進行している。同イベントで行われたセッション「AI×映画 映画事業のイノベーションを考える」では、AIが映画産業の構造そのものを変えつつある現状が、制作とビジネスの両面から共有された。
SusHi Tech Tokyo 2026
東京コンテンツインキュベーションセンター(TCIC)プログラムディレクターの川野正雄氏は「AIの進展によって映画制作の参入障壁が下がり、これまで業界に参入できなかった層にも機会が広がっている」と強調する。従来は資金や制作体制の制約が大きかったが、AIの活用により小規模でも作品制作が可能になってきた。
また、株式会社TOKYO EPIC代表取締役の和田亮一氏も、AIによって「作れなかった人が作れるようになった」変化を実感として語る。ロケやセットに依存しない制作手法の広がりにより、個人のレベルでも映像作品を生み出し、YouTubeやTikTokといったプラットフォームを通じて発信・評価される流れが加速しているという。
SusHi Tech Tokyo 2026
さらに、AI映画祭の拡大も重要な動向として挙げられた。海外で開催されたAI映画祭では、これまで映画制作と距離のあった地域からも作品が集まり、文化や原体験に根ざしたストーリーが評価される傾向が強まっている。こうした流れは、前セッションでも語られた「誰が物語を語るのか」という問いと重なる。
一方で、AI映画はまだ過渡期にあり、フルAI作品から部分的な活用まで多様な形態が混在しているのも事実だ。
「今後は従来の映画との境界が徐々に曖昧になり、共存していくのではないか」との意見もあったように、制作コストの低減にとどまらず、権利や収益モデルの再設計を含め、産業全体の再構築が求められている。
AIと人間が共創する「新たな映像文化の黎明期」
「SusHi Tech Tokyo 2026」から浮かびあがるのは、AIが単なる制作ツールにとどまらず、創作・ビジネス・流通を横断してエンターテインメント産業全体を再構築しつつある現実だ。
SusHi Tech Tokyo 2026
前夜祭から本編へと連なる議論は、AIと人間が共創する「新たな映像文化の黎明期」がすでに始まっていることを強く印象づけた。技術革新と創造性の融合は、もはや仮説ではなく、現場の実践として具体的な形を帯び始めている。
