静岡市美術館(静岡県静岡市)で、「スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし」が6月27日から開催されます。
スウェーデンの首都ストックホルムから東へ約20km離れたヴァルムドゥウー市に位置する港町グスタフスベリ。この地に製陶所が設立されたのは1825年のことでした。デザイナーの自由な創造と産業が結びついた豊かな関係から生み出されたテーブルウェアの数々は、人々の日常に寄り添い、暮らしを彩ってきました。
本展はグスタフスベリを代表する4人のデザイナー、ヴィルヘルム・コーゲ、スティグ・リンドベリ、リサ・ラーソン、カーリン・ビョルクヴィストに焦点をあて、スウェーデン国立美術館が所蔵する約300点の作品で、今なお愛されるグスタフスベリの歴史と魅力をひもとく、日本初の展覧会です。
スティグ・リンドベリ《「べショー」カップ&ソーサー、LLモデル》製作 1960-1974年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Nationalmuseum
スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし
会場:静岡市美術館(静岡県静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー3F)
会期:2026年6月27日(土)~9月6日(日)
開館時間:10:00~19:00(展示室入場は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし7月20日[月・祝]、8月10日[月]は開館)、7月21日(火)
観覧料:一般1,600円、大高生・70歳以上1,200円、中学生以下無料
※障害者手帳、特定医療費(指定難病)受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証等をご持参の方および必要な付添の方1名は無料
アクセス:
JR静岡駅北口より徒歩3分、静岡鉄道新静岡駅より徒歩5分、東名静岡ICより車で約15分
詳細は、静岡市美術館公式サイトまで。
見どころ
1.「グスタフスベリ」の歴史と魅力をひもとく、日本ではじめての展覧会
本展は、1825年設立のスウェーデンを代表する製陶所「グスタフスベリ」の歴史と魅力をひもとく、日本ではじめての機会となります。「すべての人に美しさを」「より美しい日用品を」という、スウェーデンデザインにとって欠かせない理念のもとに生み出されたテーブルウェアの数々は、人々の暮らしを豊かに彩ってきました。グスタフスベリの歴史をたどることは、スウェーデンの暮らしや豊かな生き方を知るだけでなく、デザインが社会においていかに大きな役割を果たしてきたかを理解することにつながるでしょう。本展は全国6会場(秋田、東京、松本、京都ほか)で開催される巡回展です。巡回第1会場となる静岡市美術館では、開幕初日にグスタフスベリ陶磁美術館のキュレーターによる特別講演会が行われます。
2.リサ・ラーソンをはじめ、グスタフスベリを支えた4人に焦点を当てる
日本でも人気の高いリサ・ラーソン(1931-2024)をはじめ、濱田庄司ら日本の民藝運動とも関わりの深いヴィルヘルム・コーゲ(1889-1960)、心躍るデザインを手がけたスティグ・リンドベリ(1916-1982)、ノーベル賞の晩餐会で使用される食器セットをデザインしたカーリン・ビョルクヴィスト(1927-2018)、グスタフスベリを代表する4人のデザイナーに焦点をあて代表作の数々が紹介されます。
3.スウェーデン国立美術館の所蔵作品から大ボリュームの約300点を紹介
かつての工場を再利用したグスタフスベリ陶磁美術館は、グスタフスベリの歴史と名作に触れることができる美術館です。2020年にスウェーデン国立美術館の管理のもと大幅なリニューアルを果たした同館のコレクションから約300点を紹介。現在では手に入りにくい貴重なプロダクトから、デザイナーたちが自由に制作活動をすることができた工房「G-スタジオ」で作られたユニーク・ピースと呼ばれる1点ものの作品まで、グスタフスベリの魅力が存分に伝わる作品たちが大集合します。
スティグ・リンドベリ《「べショー」シリーズ、LLモデル》製作1960-1974年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
展覧会構成
プロローグ/1825- 陶器の町グスタフスベリ
ストックホルムから東へ約20km離れたヴァルムドゥウー市に位置する港町グスタフスベリ。この地で製陶が始まったのは1825年のことでした。経営体制はその後幾度も変化しますが、グスタフスベリにおける製陶の礎がここで築かれました。グスタフスベリでは、民間が主導となって発展した英国の作陶を参考に、職人を招聘し、陶土やデザイン、銅板転写や鋳型成形などの技術を導入し量産体制を整えていきます。
《グスタフスベリのプロモーションプレート(工場の風景)》1911年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
創業当初は国外からの影響を強く受けていたグスタフスベリですが、1870年代頃から独自の製品作りが進められていきます。英国のアーツ・アンド・クラフツ運動や、世界を席巻していたアール・ヌーヴォー様式が、工業化・都市化が進む北欧にももたらされると、自国の歴史や文化を見直すナショナル・ロマンティシズムの機運が高まります。民族的アイデンティティであるヴァイキング文化からモチーフを引用したり、スウェーデンに自生する身近な植物が描かれるなど、国際的なトレンドとスウェーデンらしさが融合する製品が作られていきます。さらに1889年のパリ万博をはじめ、国内外の展覧会へと出品を重ねることで、グスタフスベリは技術や独自性を磨き、ブランドとしての地位を確立していきました。本パートでは創設時から20世紀初頭までのグスタフスベリ草創期を紹介し、スウェーデンにおける陶磁器の近代化の幕開けをたどります。
《「リリエコンヴァリィ(スズラン)」皿、Wモデル》 デザイン 1897年以前、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo:Nationalmuseum
ヴィルヘルム・コーゲ/毎日をもっと豊かに
施釉するコーゲ/1950年代頃
1917年、スウェーデン・スルイド協会の推薦により、画家・グラフィックデザイナーのヴィルヘルム・コーゲがグスタフスベリに入社します。コーゲはアーティスティック・ディレクターとして、一般家庭でも使いやすいデザインのテーブルウェアを生み出し、グスタフスベリを国民的ブランドへと導いていきます。第一次世界大戦後のスウェーデンでは、美術史家で後にスウェーデン・スルイド協会の会長となるグレーゴル・バウルソンによる著作『より美しい日用品を(Vackrare vardagsvara)』(1919年)を指標に、アート・工芸・産業が一体化した質の高い工業製品の製造が図られます。こうしたデザイン改革は、女性思想家・教育者のエレン・ケイによる『すべての人に美しさを(Skonhet för alla)』(1899年)のなかで述べられた、家庭における美しさは社会全体の発展につながるという思想が下敷きとなっていました。手描き絵付の雰囲気を残した労働者のためのセット「リリエブロー」、オーブン調理後そのままテーブルに出せる耐熱磁器の「ピューロ」、各食器に定められていた用途を開放し、自由な使い方とスタッキングによる収納スペースの縮小が可能な「プラクティカ」シリーズなど、機能的であり、かつ工芸的な美しさが備わったコーゲのテーブルウェアは、一般家庭の生活の質を押し上げ、スウェーデンが福祉国家を形成していくなかでも象徴的な存在となりました。本パートでは日本の民藝運動とも交流があったコーゲを通じて、大量生産と芸術性が結びついたグスタフスベリの転換期をたどります。
ヴィルヘルム・コーゲ《「ピューロ」耐熱深皿》製作 1930-1955年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo:Nationalmuseum
ヴィルヘルム・コーゲ《「リリエブロー」プロモーションプレート、KGモデル》1916-1917年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo:Linn Ahlgren / Nationalmuseum
ヴィルヘルム・コーゲ《「ウィークエンド」シリーズ、「プラクティカ I」モデル》1930年代、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
スティグ・リンドベリ/暮らしを彩るデザイン
G-スタジオで制作するリンドベリ/1960年代
大衆に質の高い製品を提供するというコーゲが築いた流れを受け継ぎ、色彩豊かで遊び心溢れる作品を生み出したのが、1937年に入社したスティグ・リンドベリでした。1942年コーゲがグスタフスベリ内に設置した「G-スタジオ」は、生産性や効率が求められる製造ラインとは異なり、アーティストたちが自由に制作できる工房でした。1949年にコーゲの跡を継いでアーティスティック・ディレクター(1949-1957、1972-1980)となったリンドベリは、このスタジオを発展させます。イラストレーターとしても活躍したリンドベリのファイアンス製の絵皿や花器は、時に熟練した絵付師のもとで量産され、一般家庭でも手に入れやすいアート作品として食卓や室内を彩りました。リサ・ラーソンやカーリン・ビョルクヴィストらも輩出したG-スタジオの自由な創造性は、グスタフスベリのものづくりの基盤となり、工場での大量生産と両輪となって機能しました。
スティグ・リンドベリ《「べショー」蓋付ボウル》約1960年以前、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
スティグ・リンドベリ《クリスマスコレクションプレート(1982、ルシーアの行列と共に)》 1982年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
リンドベリがアーティスティック・ディレクターとして活躍した所謂ミッドセンチュリーと呼ばれる時期は、北欧デザインの黄金期にあたります。1955年には建築から家具、日用品まで住空間全体がテーマとなったヘルシンボリ博覧会(通称 H55)がスウェーデンで開催され、北欧デザインが世界的な注目を集めました。そこで発表されたリンドベリのオーブンで使える磁器の「テルマ」や、必要な客数だけ購入できる「スピーサ・リップ」は、テーブルマナーにとらわれない、気取らない食卓という新しい生活様式をもたらしました。さらにリンドベリは規格化したプレートやカップなどの素地を使って生産効率を高め、その上に多彩なデザインパターンを施しています。グスタフスベリの代名詞である葉っぱ模様の「ペショー」は、東屋のような緑で囲まれた庭の休憩所を意味する言葉ですが、単なる葉モチーフを超え、家族や友人らとフィーカ(お茶時間)を愉しむスウェーデン人の暮らしそのものの表象といえます。本パートでは、スウェーデンにおけるモダンデザインの象徴であり、グスタフスベリの黄金期を支えたリンドベリの、心躍る作品の数々を紹介します。
リサ・ラーソン/歓びとともに
リサと猫たち/1950年代 Photo: Arkivet / Nationalmuseum
リンドベリの招きにより、1954年にG-スタジオの実習生としてグスタフスベリへ入ったリサ・ラーソンは、機能的でシンプルさを重んじるモダニズム全盛の北欧デザインに、温かみとユーモアをもたらします。産業デザインには関心が薄く、作家志望のラーソンを尊重し、アトリエや専属のろくろ師がつくなど、制作に専念する環境が整えられました。リンドベリの勧めでシリーズ化された動物フィギュリンは、鋳型で成形した素地に手作業で彩色が施されています。フィギュリンはリサ以前のアーティストたちも作っていましたが、効率的に複数点製作が可能でありながら、ひとつひとつ異なる表情が魅力的な動物たちは大ヒットし、グスタフスベリに大きな利益をもたらしました。こうした多くの人に受け入れられる作品を制作する一方で、彼女は粘土や釉薬の表情を活かした、素朴な表情の花器や、内面世界を表出させた作家性の強い彫像作品まで幅広い表現を展開しています。本パートでは、グスタフスベリ在籍中に手がけたテーブルウェア、日本でも人気の高い猫やライオンのフィギュリンたち、レリーフや彫像作品などの1点ものの作品まで、多彩な魅力にあふれるラーソンを紹介します。
リサ・ラーソン《「大きな動物園」シリーズより猫》製作 1966-1992年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
リサ・ラーソン《「アフリカ」シリーズより ジャイアント・ライオン》デザイン 1964年 製作 1964-1988年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
リサ・ラーソン《「マティルダ」シリーズ》デザイン 1960年代 製作 1962-1972年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo:Btil Wreting / Nationalmuseum
カーリン・ビョルクヴィスト/日常に息づく美しさ
ろくろをまわすビョルクヴィスト/1950年代 Photo: Arkivet / Nationalmuseum
カーリン・ビョルクヴィストは1950年、コンストファック学校(現・スウェーデン国立美術工芸大学)の陶芸課程卒業後にグスタフスベリに入社しました。1956年の初個展で発表した器は、手びねりによる素朴な風合いと深みのある釉薬が評価され、後に量産ラインとして販売されます。手仕事の風合いを機械生産に落とし込み、かつ低価格を実現させたこのシリーズの名が「ヴァールダーグ(日常)」とあるように、ビョルクヴィストの作品は私たちの日常生活にひっそりと寄り添っています。1970年にデザインされた、食洗機対応でスタッキング可能なコーヒーカップは、レストラン、食堂、公共施設などあらゆる場所で現在も使用され、スウェーデンの日常風景の一部となっています。
アーティスティック・ディレクター(1981-1986)も務めたビョルクヴィストですが、作家性よりも工業デザイナーというべき姿勢を貫いたため、作品は匿名性の高いものがほとんどです。しかし1991年にノーベル賞の晩餐会のためにデザインした豪華なディナーセット「ノーベル・サービス」は、国民の誰もが知るビョルクヴィストの代表作です。ノーベル財団の90周年記念として企画され、現在も毎年12月10日にストックホルム市庁舎で行われる晩餐会に登場するこのシリーズは、一般販売もされていたため、ノーベル受賞者だけでなく誰もが手にすることができました(現在は生産終了)。全ての人により良いものを届けるという、民主主義的であり平等思想に基づくグスタフスベリの精神がこうしたところにも表れています。本パートでは、日本を訪れ、日本文化からも影響を受けたビョルクヴィストの作品を通じて、日常に息づくグスタフスベリの姿を探ります。
カーリン・ビョルクヴィスト、製造ロールストランド・グスタフスベリ《「ノーベル・サービス」(参考図版)》1991年、スウェーデン国立美術館 © Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
エピローグ/受け継がれるスピリッツ
展覧会の最後は、コーゲ、リンドベリ、ラーソン、ビョルクヴィストが手がけたプレート20枚が並ぶウォール・プレートによって締めくくられます。それぞれのアーティストが築いた個性豊かな表現や革新性、そしてすべての人に美しいものを届けることを目指したグスタフスベリの精神を振り返ることができるでしょう。
スウェーデン国立美術館/グスタフスベリ陶磁美術館
スウェーデン国立美術館は、1866年ストックホルムに開館しました。王室が築き上げたコレクションが基礎となり、1500年から1900年までの絵画、彫刻、素描、版画、および中世初期から現在までの工芸、デザイン、肖像画で構成されています。ヨーロッパの画家たちによる傑作に加え、カール・ラーションやアンデシュ・ソーンといったスウェーデンの芸術家による重要な作品が含まれています。2000年、グスタフスベリの所有者だったスウェーデン消費者協同組合連合(KF)は、膨大なグスタフスベリ・コレクションを国に寄贈しました。それ以降、同コレクションは国立美術館の管理下にあり、グスタフスベリ陶磁美術館で展示されています。コレクションには、陶芸作品から衛生陶器、プラスチック製品までの、1825年の創業から1993年までに製作された4万5000点、さらに石膏型や道具類、製陶所の資料や参考図書までが含まれています。
スウェーデン国立美術館、ストックホルム
グスタフスベリ陶磁美術館、グスタフスベリ
北欧デザインの巨匠たちが手掛けた温もりあふれる作品が一堂に会するこの機会。本展では、スウェーデン国立美術館の貴重なコレクション約300点を通じて、1825年から続くグスタフスベリの長い歴史と、人々の暮らしを彩ってきたデザインの力を存分に感じることができそうです。リサ・ラーソンの愛らしい動物たちや、スティグ・リンドベリの色彩豊かなテーブルウェアなど、時代を超えて愛され続ける名作の数々で、グスタフスベリの町が育んできたものづくりの精神と、スウェーデンの豊かな暮らしの文化に触れてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
