「言語化にモヤモヤする」
「即答よりじっくり考えるほうが大事」
「口下手のままでもいいじゃない」…
など、まったく新しいコミュ力を説いた書籍『言語化だけじゃ伝わんない』が発売された。著者でイラストレーターのヤギワタル氏は、これまで200冊以上の書籍でイラストや装画を担当してきて、今回が初の単著となる。本書では、昨今の「言語化ブーム」に対して警鐘を鳴らし、「言語化“以外”に目を向けること」をイラストレーターならではの視点で面白く解説している。本記事では、その中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「言語化してくれる?」が不快?
最近、「ちゃんと言語化して」と言われる場面が増えました。
会議でも、SNSでも、仕事の現場でも、
「もっと整理して話して」
「感覚じゃなくて言葉にして」
「つまり何が言いたいの?」
そんなふうに求められることがあります。
もちろん、わかりやすく説明することは大切です。
ですが、『言語化だけじゃ伝わんない』という本を読むと、「“言語化しろ”ばかり求めること」に、どこか息苦しさを感じる理由が見えてきます。
人は「見たことがないもの」を理解できない
本書では、まず子ども向けの本について触れています。
子ども向けの本にはイラストがたくさん使われています。
それは、子どもたちがまだ実物を見たことがほとんどないからです。
そんな子どものために、イラストが実物の代わりになってくれるのです。
「動物園にゾウがいました」と書かれているとき、ゾウを見たことがある大人は、ゾウを想像することができます。
でも、ゾウを見たことがない子どもは『ゾウ』が何を指しているかわかりません。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
つまり、人は「経験したことがないもの」を、言葉だけでは理解しにくいのです。
大人同士でも同じです。
前提知識が違えば、「ちゃんと言語化したつもり」でも、相手にはまったくイメージが伝わっていないことがあります。
言葉だけには限界がある
本書では、さらにこう続きます。
では、実物の代わりになるものがない場合はどうするか。
桃太郎の物語を、言葉だけで子どもに伝えることを想像してみてください。
「桃ってなに?」「鬼ってなに?」と、いちいち聞かれてしまう。
桃を果物、鬼を怪物と言い換えても、子どもはその言葉も知りません。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
これは、仕事でもよく起きます。
専門用語を噛み砕いて説明しても、そもそものイメージが共有されていなければ、結局伝わらない。
すると、「もっと言語化して」と要求される。
しかし実際には、「言葉の問題」ではなく、「共有体験の不足」であることも多いのです。
だから、「言語化して」と言われ続けると、「いや、言葉だけで全部説明できるわけじゃないだろ……」というモヤモヤが生まれるのです。
本当に伝わるのは「コレです」
本書では、ここで「絵」の役割が語られます。
そこで、絵の登場です。
実物の代わりに指でさしながら絵で見せるのです。
おじいさんやおばあさん、犬や猿やキジ、鬼。
『鬼退治に行く』と言ったときの『鬼』とはコレのことです、と。
『ビジュアルコミュニケーション』という言葉があります。
目に見える要素を使っておこなうコミュニケーションのことで、その基本は要するに、『コレです』と指し示せる代わりを提示することだと私は考えています。
ビジュアルであらわす対象は、単語やモノだけとは限りません。
思考や感情といった、目に見えないものまで含まれます。
言葉での説明にピンときていない人にも、『ああ、それのことか』と視覚的に伝えようとするのがビジュアルコミュニケーションです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここが、この本の核心です。
人は、「完璧な説明」で理解するわけではありません。
「コレのことか」とイメージできた瞬間に、理解するのです。
だから、本当にコミュニケーションが上手い人は、「説明が長い人」ではありません。
図を描く。例を出す。実物を見せる。感覚を共有する。
そうやって、同じ景色を見せる人なのです。
「もっと言語化して」は、時に暴力になる
最近は、「言葉にできないほうが悪い」という空気があります。
ですが、『言語化だけじゃ伝わんない』は、「そもそも言葉だけでは伝わらないことがある」と教えてくれます。
感情。空気感。違和感。ニュアンス。
そういうものは、無理に言葉へ圧縮しようとすると、むしろ本質から遠ざかることもある。
だから、「ちゃんと言語化して」と求めすぎると、人を追い詰めてしまうのかもしれません。
本当に大事なのは、「説明力」だけではない。
相手に「コレのことか」と感じてもらう、「共有のつくり方」が大事なのです。
ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。
