2025年7月にテレビ放送とYouTube配信が開始されるや、瞬く間に総再生数2.5億回を超える話題作となった3Dアニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』(以下、ミルサブ)。26年2月には全12話を1本の作品として再構築し、新規パートを追加した映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』が公開されるなど、エンタメ業界をざわつかせるスマッシュヒットを記録した。宇宙を走る鉄道を舞台に、レトロでポップなビジュアルや、リアルなキャラ同士の会話、魅力に満ちた世界を1話につき約3分半の短い映像に濃縮しているのが、今年30歳を迎える亀山陽平だ。ミルサブでは、監督、脚本、キャラクターデザイン、3DCGモデリング、作画、編集などほぼひとりで制作を手掛けている亀山は、自身のクリエイターとしてのルーツをこう振り返る。
「小さい頃はひとりで工作ばかりしていて、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』で海賊が身に着けている短剣などの小道具をつくっていました。映画は『ハリー・ポッター』やマーベル映画のようなエンタメ作品が好きでしたね」
ミルサブに登場するキャラクター。左からサイボーグのマックス、カート、マキナ。衣装をはじめ、サイバーパンク調なビジュアルに隠された名作へのオマージュに、ファンの考察が盛り上がる。
亀山が自身で映像作品をつくるようになったのは、高校時代にMacとスマートフォンを手にしたことがきっかけなのだそう。
「Macにデフォルトでインストールされている編集アプリを触っていたら楽しくて。靴下に目を付けてしゃべらせる、パペットアニメなどをつくっていました」
出来上がった作品を、同級生にLINEで共有し、感想を得ていたというのも“世代”だろう。年を追うごとにアニメへの興味が強まると、知識を深めるべくアメリカへ留学。帰国後は専門学校へ進み、22年に卒業制作としてミルサブの前日譚となる『ミルキー☆ハイウェイ』を生み出した。
書籍『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ ビジュアルブック』(講談社)には、高校時代に描いたキャラクターデザインや設定画なども収録される。
「わかりやすく楽しめるエンタメ作品を目指しました。それと、海外のアニメを勉強している時に、ミッキー・マウスの短編映画『蒸気船ウィリー』の音楽と映像の融合が革新的だったと知り、その点も意識しながら『ミルキー☆ハイウェイ』をつくっています」
ミルサブでも、BGMとアクションや効果音がシンクロした“音ハメ”で物語をダイナミックに彩る。その印象的なシーンは、難しく考えなくても直感で楽しめる怒涛の勢いがある。亀山が「音と映像」を意識したものなのだろう。さらに魅力を紐解いていけば、レトロフューチャーな雰囲気を醸し出す映像の質感や色合いも挙げられる。加えて、映像の随所にはさまざまな名作のオマージュが見受けられ、そんな芸の細かさも人気のポイント。ほとんどをひとりで手掛けるからこそ、短い時間の中に濃密なつくり込みが見られる。
「小ネタはマーベル作品の影響もあります。元ネタを見つけた人も楽しいだろうし、つくり手としても、見つけてもらえるとうれしい。それと、実はいちばん影響を受けているのはジブリ映画かもしれません。宮崎駿監督の作品は、日常の仕草や会話がていねいに描かれていて、アニメなのに人間の機微を感じさせ、現実の冒険を見ているように没入できるんです」


クライマックスのワンシーン(左)とコンテ。亀山は静止画の絵コンテではなく、カメラワークや音声を統合したビデオコンテでスタッフと映像世界を共有する。
ミルサブでも、セリフにおける言葉選びや表情、会話の“間”によって、キャラそれぞれの個性や性格が魅力的に引き立てられる。
「セリフは高校の同級生や知人のふるまいを参考にしています。『こういう人はこんな言葉選びをする』『こうしゃべるよな』なんて、実在の人間を思い浮かべながら」
制作に費やした時間は、4分弱の卒業制作に9カ月、シリーズ版ミルサブは12話で2年ほどという。ようやく劇場版も一段落の亀山に、今後について聞いた。
「まだ構想ですが、ミルサブの舞台を列車だけではなく、街など社会性のある空間に拡張したいですね。それと、挑戦してみたいのは時代劇。3Dならではのロケーションやオブジェクトの物量の自由さ、動きを活かした表現にチャレンジしたいです」
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PICK UP

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』 アニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』の劇場版で、2月公開作品。チハル、マキナをはじめとする6人が、惑星間走行列車「ミルキー☆サブウェイ」の暴走を止めるべく奔走する。
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PERSONAL QUESTIONS
いまハマっていることは?
地理の本を読んでいます。それぞれの土地の地形や気候など、自分がこれまで勉強してこなかったことを知ることができて楽しいです。アニメーションの舞台設定にも役立ちそうです。
好きなクリエイターは?
映画監督のエドガー・ライト。映像でコメディーを見せるから、英語がわからなくても面白い。お笑い系以外の作品も常に「映像で伝えること」が根底にあるので、作家として興味深いです。
いまの仕事でなかったらなにをしている?
専業主夫です。部屋をきれいにしたり、暮らしを整えるのが好きなのですが、映像をつくりながらだと両方が中途半端になりがちでして……。家事に没頭してていねいに暮らしたいです。
改めて勉強したいことは?
お金に対する知識が不足しているので、経済学。たとえば「作品が売れることが、どう社会のためになるのか」という流れが知りたいです。実感を得にくい分野なので、それに慣れたい。

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