5月16日(土)からスタートした「東京建築祭2026」。今年もBUNGA NETは“準公認メディア※”として、祭りの活気をお伝えしていく。(※BUNGA NETを主宰する宮沢洋が東京建築祭の実行委員を務めているため勝手に“準公認”を謳っているもので、東京建築祭に公認制度はないのであしからず)
カラッとした晴天に恵まれた1日目・2日目を、筆者が回った順にリポートする
■5/16(土)9:30-10:30
【日本工業倶楽部会館】本格的なセセッション様式建築、館内特別ツアー
(写真:宮沢洋、以下も)
毎回高倍率となり、東京建築祭の“ツアーの顔”ともいえそうなのが、この日本工業倶楽部会館のツアーだ。ガイドは、筆者と同じ、東京建築祭実行委員である野村和宣・神奈川大学教授↓。野村氏は前職の三菱地所設計時代に、この保存再生プロジェクトの設計を担当した。

以下、太字は東京建築祭の公式サイトから引用。
日本で数少ない本格的なセセッション様式を備えた「日本工業倶楽部会館」へ。ドリックオーダーを配したエントランス・ポーチをはじめ、日本財界活動のシンボルにふさわしい重厚な佇まい。各室それぞれに豪華さと気品を追求した個性的な装飾が施されています。保存再生プロジェクトを担当した神奈川大学の野村和宣さんと、館内を特別見学します。
日本工業倶楽部会館
竣工年│1920年 / 改修:2003年
設計│竣工時:横河民輔、松井貴太郎 / 改修時:三菱地所設計
施工│竣工:直営工事 / 改修:清水建設
文化財指定│国登録有形文化財
その他│2006年 日本建築学会 作品選奨、2003年 照明普及賞 優秀施設賞





「セセッション」というのは、ざっくり言うと、かつての伝統的な様式建築から脱却しようという動き。幾何学を重視してはいるが、ツルッとしたモダニズム建築に至る前なので、装飾がきらびやかだ。過渡期のスタイルのため、現存するものが少なく、建築好きに人気なのもわかる。(ちなみに、原爆ドーム(旧広島県物産陳列館、1915年)もセセッションの名建築)
個人的には、関東大震災で受けた損傷の話や、それをどう再生したかという話が勉強になった。
午後は、いくつかの「特別展示」を見て回ったのだが、あまりに長くなるのでそれらは省略。夕方スタートのこのイベント↓へ進む。
■05/16(土) 18:00-20:00
東京建築祭×DOCOMOMO Japan|建築の価値をひらく(トークイベント)

日比谷OKUROJI で行われたトークイベント。登壇者はDOCOMOMO Japan代表理事の鯵坂徹氏(鯵坂建築研究所主宰)、DOCOMOMO Japan副代表理事の頴原澄子氏(千葉大学教授)。DOCOMOMO Japan事務局長の玄田悠大氏(玉川大学専任講師、自由学園最高学部特任准教授)。モデレーターは、東京建築祭実行委員長で建築史家の倉方俊輔氏。
誰もが気軽に建築の楽しみに触れ、まちの魅力を再発見する東京建築祭。建築の学術団体との連携の可能性と展望を探るオープンディスカッションを開催します。モダン・ムーブメントの建築の価値づけや保存・再活用に取り組む国際組織DOCOMOMOの日本支部「DOCOMOMO Japan」と共に、建築の価値を社会と共有するための方策を、多様な視野から語り合います。
左から倉方俊輔氏、玄田悠大氏、鯵坂徹氏
頴原澄子氏(右)
DOCOMOMO Japanの選定建築物は昨年、節目の300件になった(こちらの記事)。同会の中で「ポストモダンの建築を選定すべきか」について議論が分かれている、という話が面白かった。途中、手を挙げて発言しようかと思ったくらいなのだが、個人的な意見を言えば「選定すべき」に決まっているではないか。
投影されているのは、2024年に選定されたポストモダン建築の「ヤマトインターナショナル」
建築保存をめぐる取材をしていると実感するのだが、DOCOMOMO選定への社会的関心は近年、急上昇している。ベースが国際組織ということもあって、学会の活動や登録文化財などよりも地方メディアのニュースになりやすい。DOCOMOMOの「MOMO」は「Modern Movement」であって、「モダニズム」ではない。Modern Movementにはモダニズムもポストモダニズムも含まれる、ということで社会も納得するだろうし、そういう活動こそが求められているように思う(私見)。
そんなことを思いながらこの日は終了。ぐっすり寝て2日目へ。
■5/17(日)13:00-14:00
【日本橋本町三井ビルディング&forest】つくり手が語る、日本初の木造超高層プロジェクト
2日目は、午後のこのツアーから取材をスタート。プレスリリースの「日本最大・最高層の木造賃貸オフィスビル」というフレーズがずっと気になっていた。上棟し、内装工事が進む大規模ビルの現場ツアーだ。

2027年竣工予定、国内最大・最高層となる木造賃貸オフィスビル「日本橋本町三井ビルディング &forest」。国産木材を活用し、都市における木造建築の可能性を切り拓くプロジェクトです。設計・施工・開発の担当者が構想と技術をレクチャーしたのち、建設現場を見学。耐火木造技術によって実現する木造高層の実像に迫ります。
日本橋本町三井ビルディング &forest
竣工年│2027年
設計│㈱竹中工務店
施工│㈱竹中工務店
文化財指定│
その他│新築工事施工中


筆者は前職の『日経アーキテクチュア』時代に都市木造担当だったので、この手の話は結構詳しい。竹中工務店の耐火集成材「燃エンウッド」も、第一号案件の商業施設「サウスウッド」(横浜市都筑区、2013年)から取材している。サウスウッドは地上4階だったのに、このビルは混構造とはいえ地上18階建・高さ84mと聞くと感慨深い。正直、サウスウッドのときにはそんな時代が来ることを全く想像していなかった。
ガイドは竹中工務店設計グループリーダーの岩﨑匠氏、竹中工務店東京本店作業所長の福島一夫氏、三井不動産ビルディング事業四部主任の岡田七峰氏。
内部も見たのだが、残念ながら内部の写真掲載はNGとのことで、着工時のプレスリリース(2025年1月、元情報はこちら)の説明を代わりに。
<本計画の特徴>
1.国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル
本計画は、国内最大・最高層となる地上18階建・高さ84m・延床面積約28,000m2の木造賃貸オフィスビルを建設するもので、使用する木材量は国内最大級の1,100m3超、CO2固定量は約800t-CO2を見込んでおります。同規模の一般的な鉄骨造オフィスビルと比較して、躯体部分において、建築時のCO2排出量約30%の削減効果を想定しています。
また、三井不動産と株式会社日建設計で作成したマニュアルをベースに、不動産協会によって策定された「建設時GHG排出量算出マニュアル」を適用してCO2 排出量を把握する、初のオフィスビル物件となります。
(1)国内初適用となる木造・耐火技術の導入
ハイブリッド木造建築物の実現にあたっては、竹中工務店が開発し大臣認定を取得した耐火・木造技術等を導入し、主要な構造部材に木材を活用いたします。なお、本計画はこうした普及拡大段階の木造化技術を活用したプロジェクトとして、令和5年度国土交通省「優良木造建築物等整備推進事業」に採択されています。
・3時間耐火集成材「燃エンウッド」
・鉄骨の耐火被覆に木材を用いる「KiPLUS TAIKA for CFT」、「KiPLUS TAIKA for BEAM」
・CLTを用いた耐震壁・制震壁


(2)木造オフィスビルだからこそ実現できる「行きたくなるオフィス」
構造材のみならず、内装・仕上げ材にも木材を積極的に活用し、木ならではのやすらぎとぬくもりを五感で感じられる木造オフィスビルを実現します。
エントランスホールは上質な吹き抜け空間とし、壁には三井不動産グループの保有林の木材を使用、天井には三井ホーム株式会社が保有する木接合技術を活用します。また、事務所専有部においては木の構造部材に触れることができる現しとし、働きながら木に触れ、香りを感じられるオフィス環境を創出します。
大ゼネコンならではの技術の数々もすごいのだが、来年完成のこの賃貸オフィスがすでに満床だと聞いてさらに驚いた。第一号から十数年かけて、超高層でも現実的なコストメリットがあるところまで敷居を下げてきたのだ。さすがは竹中工務店。
■5/17(日)14:30-15:00
【SHIBAURA HOUSE】新たに生まれた宿泊空間も公開、浮遊するような建築を歩く

2011年、妹島和世さんの設計によるSHIBAURA HOUSEは、建築とまちがゆるやかにつながる公園のような場として誕生しました。全面ガラスと曲線階段によって各階が連続し、ワークスペースやイベントの場として日常的に使われています。2025年12月にオープンした宿泊スペースも含めて館内を歩きながら、浮遊感を生み出す構成やディテールを読み解き、使われ方の視点からも建築とまちの関係性を捉えます。本ツアーでは、設計・構造・運営など多様な立場でSHIBAURA HOUSEに関わる専門家がガイドを務めます。
SHIBAURA HOUSE
竣工年│2011年
設計│妹島和世建築設計事務所
施工│清水建設

このツアーは定員10人で1日に3回行われ、毎回ガイド役が代わるという珍しいパターン。第1回は、構造設計を担当した浜田英明氏(浜田英明建築構造設計代表)、第2回は設計を担当した山本力矢氏。第3回はクライアントの伊東勝氏(SHIBAURA HOUSE代表取締役)と澤田綱史氏。
筆者は恥ずかしながらこの建築をまだ見たことがなく、あの“世界のSANAA”が東京建築祭初参戦と書きたいこともあって、SANAAのパートナーである山本力矢氏↓が案内する回に参加した。なお、正確に言うと、このプロジェクトはSANAAとしてではなく、妹島和世建築設計事務所単独で取り組んだものだ。

建築もすごかったが、あっけらかんとした使われ方が衝撃的。もともとクライアントが先進的なのだとは思うが、空間がそれを加速させていることは間違いない。たぶん、他の2回のツアーも別の視点で面白かったことと思う。



新たに生まれた4階の宿泊スペース

(写真:東京建築祭事務局)

SHIBAURA HOUSEは、東京建築祭の「特別公開」枠として5/23(土)17:00-20:00に1階〜5階が「夜間公開」される。詳細はこちら→https://2026.kenchikusai.tokyo/program/16-04/
そもそも1階には東京建築祭以外の日でも入れるのでふらっと寄ってみるとよい。
■5/17(日)15:30-16:30
【堀ビル】再生した新橋のランドマークを巡る、屋上から地下まで
これまで特別公開が大人気となってきた「堀ビル」。今年はこの日のツアーのみということで、ツアーに参加。

1932年竣工の堀ビルは、建築金物を手がける堀商店によって約90年にわたり維持されてきました。スクラッチタイルや水平線を強調したモダニズムの要素と、金物の優美な装飾が融合する建築です。現在はその魅力を活かし、シェアオフィスとカフェとして再生。この保存活用プロジェクトを手がけた竹中工務店の杉本照彦さんとグッドルームの運営担当者の案内で、屋上から地下まで普段非公開の空間を見学します。
堀ビル(goodoffice新橋)
竣工年│1932年 / 改修:2021年
設計│公保敏雄、小林正紹 / 改修:竹中工務店
施工│安藤組 / 改修・補強:竹中工務店
文化財指定│登録有形文化財、東京都選定歴史建造物
ガイドは竹中工務店設計本部伝統・レガシー建築グループで保存再生事業を切り開いてきた中嶋徹氏と、今は竹中工務店からNEDOに出向している杉本照彦氏。ちなみに中嶋氏は筆者と同じ「建築文化フェロー」の任を文化庁から与えられている(こちらの記事参照)。
杉本照彦氏(左)と中嶋徹氏



再生の技術やデザインもすごいのだが、「所有者(堀商店)から建物を借り受け、再生したうえでオフィスやカフェを運営して収益を上げ、賃料を払う」という、かつての大ゼネコンには考えられないような(面倒くさい)事業に取り組んでいることに本当にびっくりする。この日2回目の、さすが竹中工務店!

さて、月曜(5月18日)以降もツアーや特別公開・特別展示は満載だ。ツアーは予約制なので今から参加はできないが、特別公開・特別展示も、無料とは思えない豪華なラインアップ。仕事の合間にぜひ足をお運びいただきたい。詳細は公式サイト(こちら)で確認を。(宮沢洋)
