ホラー映画において“ファイナル・ガール”というお決まりがある。それは、女性が脅威から必死に逃げ、一矢報いながら最後まで生き延びる存在として描かれること。しかし、近年ではその描かれ方はより屈強でアグレッシブになり、“狩られる側”から”狩る側”へという逆転も見られてきた。
【写真を見る】女性の活躍を描くジャンル映画の変遷を振り返る!(『ゼイ・ウィル・キル・ユー』)[c]2026 Warner Bros. Ent. All rights reserved
そんな潮流を象徴する1作が、悪魔崇拝者が巣食う高級マンションに生け贄として送り込まれたメイドによる痛烈な反撃を、出血大サービスのバイオレンス満載で描く『ゼイ・ウィル・キル・ユー』(公開中)だ。“狩られるはずの女性が実は強かった”という逆転の快楽は、2010年代以降にグッと増え、近年のジャンル映画において1つの傾向として定着しつつある。本コラムではその系譜を辿っていきたい。
数々の名ヒロインも!スラッシャーホラーにおける“ファイナル・ガール”
こうした流れを辿るにあたり、一旦立ち返りたいのが、導入でも触れたホラー映画における定番的な女性像を示す“ファイナル・ガール”という概念だ。
リプリーもファイナル・ガールの代表格(『エイリアン』)[c]Everett Collection/AFLO
『エイリアン』(79)のリプリー(シガニー・ウィーバー)や『ハロウィン』(78)のローリー(ジェイミー・リー・カーティス)といった、人気作において時代を超えて愛されるアイコニックなヒロインが次々と誕生してきた。
スラッシャー映画で定番化した“ファイナル・ガール”という概念(『ハロウィン』)[c]Everett Collection/AFLO
“ファイナル・ガール”という概念は、『悪魔のいけにえ』(74)や『13日の金曜日』(80)、『エルム街の悪夢』(84)など、人気作が続々と生まれた1970〜1980年代のスラッシャーホラーのジャンルで定番化。キャラクターの多くは純粋で貞淑、聡明で中性的といった特徴を持ち、勇敢な女性像を打ち立てると同時に、女性は貞操観念が高く賢くなければ罰せられてしまうと受け取られかねない側面もあり、批判も向けられてきた。
ジャンルに逆転の快楽をもたらした映画『サプライズ』の存在
古くからレイプリベンジムービーにおいて描かれてきた女性の復讐(『発情アニマル』)[c]Everett Collection/AFLO
一方、『ゼイ・ウィル・キル・ユー』の主人公のような“被害からの反撃”という構図自体は、70年代ころから数が増えていったレイプリベンジ(加害者に対して残酷な復讐を行う)映画にも見て取れる。『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』(10)のリメイク元として知られる『発情アニマル』(78)から、最近の『REVENGE リベンジ』(17)まで壮絶な復讐劇が描かれてきた。
凄惨なリンチを受けたザ・ブライドの復讐を暴力描写満載で描いた『キル・ビル』[c]Everett Collection/AFLO
また同時期には、女性の野性を描いた『メイク・アップ』(77)など、女性が能動的に暴力を選択していく例も見られたが、広く見られるようになるのはもう少しあとと言える。「キル・ビル」2部作や『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07)など、2000年代ごろからジャンル的快楽としてアグレッシブな女性像を描いた作品がより陽の目を見るようになった印象がある。
さらに進むと、女性が反撃に転じるという逆転構造自体がジャンル映画における1つの妙味となっていく。その転機的な1作が『サプライズ』(11)だろう。本作は、両親の結婚35周年を記念する家族パーティーに、動物の仮面を被った武装集団が襲いかかるホームインベージョンスリラー。
動物のお面をした謎の人物たちが、ある一家のパーティーに現れるのだが…(『サプライズ』)[c]Everett Collection/AFLO
一家の次男の彼女で文学を専攻する女性エリン(シャーニ・ヴィンソン)が、実は父親からサバイバル術を仕込まれており、身近なものを武器や罠にして、迫りくる敵を次から次へと倒していく…。映画のテイストやターゲットが鮮やかに反転するサプライズは、観る者の度肝を抜き、世界各国の映画祭で絶賛を受けた。
実はサバイバルエリートの女性を描いたこのジャンルの金字塔的1作(『サプライズ』)[c]Everett Collection/AFLO
