5月6日、a flood of circle 20周年記念ライヴ、日本武道館まであと僅か。
メンバーそれぞれに聞いてきた武道館直前の心境インタビュー、その最後は佐々木亮介(ヴォーカル&ギター)である。リハに顔を出さない、予定にない曲をやり始める、演出もほぼ排除して、BGMやSEもなく、客電がついたままライヴを行う。この予定調和を崩そうとする行動をなぜ行うのか。そして武道館でどんなライヴをするつもりなのか。とにかく見逃せないのは間違いない。
a flood of circleというバンドをよく知る人も、10年以上前に聴いていた人も、まったく知らないけどロックが大好きな人も、5月6日の日本武道館で、目を開けて夢を見よう。
負け犬にしか唄えない歌はあって、それがわかる人たちもいる
ーー対バンツアー〈日本武道館への道〉は終わりましたが、このツアー、かなりやさぐれていたと耳にしております。
「やさぐれてはないです(笑)。真面目にやりすぎた結果、ああなってます」
ーー何に対して真面目だったんでしょうか。
「〈ロックとは何か〉を真面目に考えてやったら、ああいうライヴになってしまったんですよ(笑)。やさぐれたり、ナメたりしてるわけじゃないです。でも別に答えは出たわけでもなく、いろいろ試して終わっちゃいました」
ーーでは何で〈ロックとは何か〉を真面目に考えるようになったんですか?
「そんなに売れてないバンドが武道館をやる、ってことからだと思います。バンドがめちゃくちゃ売れてて、ヒット曲をいっぱい披露するライヴならわかるし、コレクターズも怒髪天もピーズも、みんな30年近くバンドを続けてきて、待ち望まれた武道館だったじゃないですか。でも俺らはまだそこまでじゃない。何でやるのか自分に問いかけてみたけど、ナベちゃん(渡邊一丘/ドラム)との会話(註:5年前、2人で呑んだ時『40歳過ぎても、このままダラダラとバンドを続けていくつもりはない』と渡邊に言われた)がきっかけになってるとはいえ、あまり大きな理由もない。じゃあせめて、本気でロックバンドをやってる姿勢を見せないとよくない気がして」
ーーその〈本気でロックバンドをやる〉のが、会場入ってリハをやり、曲順をちゃんと決めて、アンコールも準備しておく、そんなライヴのフォーマットを崩すこと、なんですかね?
「それをやらないのがロックだとは言わないけど、このバンドは4人とも真面目なんです。だからそのまま武道館をやったら、〈僕たちの初の武道館に来てくれて、どうもありがとうございました!!〉って、卒業式の答辞みたいなMCをかますライヴになりそうだなと思って(笑)。本気でロックバンドをやる、のがなんなのかはわかんないけど、それではないってことはわかるので」
ーーだから決まりごとを崩してみよう、と。
「これも自分の中では一貫してるんですよ。ここ最近、山小屋でレコーディングしたり、ドラム以外は全部メンバーの家で録って、そのデータを自分でミックスしたり、楽曲制作は既存のスタイルを崩して、新しいことをやろうとしてて、〈自由でいい〉とか〈君は君でいい〉って唄ってる。それなのにライヴは型にはまったものをやってるんじゃ、おかしいなって」
ーーそれはそれ、と割り切ればいいんじゃないの?
「さわおさん(山中さわお)にも同じことを言われました(笑)。『それはもう歌の中でいいじゃん。歌として作ってあるんだから、その歌を完璧に届ければいいよ』って。〈そりゃそうだよな〉とも思うんですけど、俺らがそれをやると、ロックの匂いがしない真面目な発表会になっちゃう気がするんですよ。武道館のチケットが6000枚売れてるってことは、普通にライヴやった時の3倍近い動員なんだから、俺らのことをよく知ってる人のほうが少ない。その人たちみんなが喜ぶような有名な曲もない。そんなバンドがすごく真面目に武道館やっても、面白く思ってもらえない。背伸びしてるぶん、何か心に残すには、そういうことをするべきじゃないかな、って」
ーーメンバーやスタッフに、こういうことをやるって相談したの?
「とりあえず聞きました。『好きにやりなよ』って言われたけど、『ちょっと度が過ぎてる』と楽屋や打ち上げで文句言われる(笑)」
ーーでもリハをやらないとか、開演15分前に来るとか、そういうのを明言してると、真面目にやってないように映らない?
「別にそれを明言はしてないんですよ(笑)。ファンの人に聞かれたり、ギリギリに会場入りしてるのを見られて、それをSNSで目にするからそう思われるかもしれないけど、でも面白いライヴをやれてますよ。それにみんな〈やる気あるの?〉って思うのかも知れないけど、こっちは〈じゃあ卒業式みたいにきっちりしたライヴ観たい?〉って思う。まあ今の時代、エンタテインメントを仕込んで、音もちゃんとしてるのが当然と思う人が多いのかもしれないけど、それとは違う輝きや面白さがあると思うし、それをやりたいんですよ。革ジャン、グレッチのギター、コード進行、全部ロックのステレオタイプをやってるんだから、ライヴに関してはちょっと工夫したい」
ーーステレオタイプなロック、みたいなものから解放されたかったりするの?
「そうは思ってないけど、俺、メンバーチェンジがずっと怖かったんですよ。だからメンバーが変わるたびに、どこかで顔色窺ってたと思う。でもテツ(アオキテツ/ギター)が入って10年経つし、もっと甘えても大丈夫かな、って思うようになったし、みんなを信頼してるからやってるところがある。〈チューニングしてなくてもこんなにカッコよかった〉とか、〈リハやってなくてもいいライヴだった〉とか、そういう事実を積み重ねた先に、まだ誰も作ったことがない、すごい曲ができたらいいなと思ってる。やっぱ、何かにチャレンジしないで、同じようなことを繰り返しても、発明的なものは生まれない気がしてて」
ーーだからあえて予定にない曲をやるとか、演奏に合わせないで歌を唄うことで、何かを起こそうとしてるわけだ。
「そうです。俺、もう40歳になるんですよ。このまま死んでいくんだなってことを遠くに感じ始めてるし、いつまでバンドできるかな?ってことも考える。だったら何か、誰もやったことがないことを手にして、それから死にたい(笑)」
ーーだから武道館も、〈20年間頑張ったね、おめでとう〉っていうだけのライヴにはしたくない、と。
「そうですね。その気持ちはもちろん嬉しいし、ずっと応援してきてくれた人たちには感謝してるし、ありがとうって思ってないわけじゃないですよ? そういう人たちに支えられてきたところもあるわけだし。でも、俺がつまんないなって思ってるのに、みんなが感動しててよかったな……じゃしょうがない気がして。見たことないものを見たい、見なきゃいけない、って気持ちが抑えきれないんですよね」
ーーデビューした時、レコードショップのポップに〈ミッシェル・ガン・エレファントmeet ニルヴァーナ〉と書かれてたことをよく引き合いに出すけど、そんなことを言わせないほど誰もやっていないことをやって、納得させたいというか。
「そうだとしたら、俺めちゃくちゃこじらせてますけど(笑)、でも、今ならできるんじゃないかと思ったんですよね」
ーーでもよくメンバーも周りのスタッフも、それをやらせてくれたと思うよ。
「こいつしょうがないな、って諦めさせるまで頑張りました(笑)。だから今、嫌な人間に見えてるはずです。でも、どこかでわかってくれてると思うんですよ。リハがあって、決まった曲順でやって、あんまりよくないライヴだなと思ってもアンコールに応えてライヴが終わる。それ、お客さんもバンドマンも〈つまんないな〉って思ったことは、絶対あると思う」
ーーほとんどはその理由も考えず、フォーマットに乗ってるだけだしね。
「でもみんな、もうそういう感覚からは卒業してるんですよ。〈佐々木、まだそんなこと言ってんの?〉ってなるのが普通なんです。でも俺、そこからまだ卒業できてないみたいで、卒業したフリもできそうにない。まだ在校生なんだな、ってすごく思ってるから」
ーー40歳を前にして、まだ思春期だと。
「こないだ広島で、椎木(椎木知仁/My Hair is Bad)と話したら、今のライヴのやり方が、すごくいいって褒めてくれたんですよ。たぶんこいつはこいつで悩んでるんだろうけど、本当に面白いものを作りたくて悩んでるから、わかってくれたんじゃないかって思ってる。田淵さん(田淵智也/UNISON SQUARE GARDEN)やさわおさんは、いい意味で完成してるんですよ。俺もそうなりたいけど、まだそうじゃない。だから同じようなことしてちゃダメなんですよ。何が正解なのかわからないけど、昨日までとは違う今日がないと、前に進めない気がして」
ーーこんな男と一緒に武道館をやるメンバーに対しては、どう思っているんですか?
「うーん……答えになってるかどうかわからないですけど、最近よく思うんです。20年前、バンドを組んでデビューしたはいいけど、いろんなバンドが戦ってる中、将棋に喩えるなら、俺らはすぐ相手に取られて、将棋盤の外に置かれた歩なんですよ。もしくは最後まで動かない香車。人のゲームをずっと横から眺めてるだけ。4人とも……とくにナベちゃんと俺には、そんな感覚があるんです。友達が武道館やって、羽ばたいてく姿をずっと見てた。このゲームに参加できてないな、って思ってた。でも、参加してなくても〈歌〉だけはあるんですよね。そんな虫けらみたいな奴にしか唄えない歌が。それがもし人と違う戦い方でも、15分前に会場入りして、次の曲を急に変える酷いヤツでも(笑)、もしかしたらゲームには負けてるかもしれないけど、〈歌〉はある。その〈歌〉がいいもので、ちゃんと届いたのなら俺たちの勝ちだ、って。今けっこうその気持ちがある」
ーーだから、武道館でちゃんとライヴやってほしい、と思う人は、そのゲームに参加してほしいと思っている、ってことなんだろうね。
「そう。でも悪いけど俺らはもうそのゲームでは負け犬。正直、参加すらできてないから。でも負け犬にしか唄えない歌はあって、それがわかる人たちもいる。その人たちと武道館でいい景色を見れたらいい。そう思ってます」
金光裕史(音楽と人)
