2026年5月2日 午前7時30分
【論説】「世界で最も迫害されている少数民族」と呼ばれるロヒンギャに光をあてた映画「LOST LAND/ロストランド」(藤元明緒監督)が2日から、福井市のメトロ劇場で上映される。福井市出身の渡邉一孝さんがプロデューサーを務め、海外の数々の映画祭で賞に輝いた作品。過酷な世界で懸命に生きる難民の姿を通して、その実情を知り、難民問題を考えるきっかけにしたい。
ロストランドは、ミャンマーのロヒンギャの証言を基にした物語。難民キャンプで暮らす幼い姉と弟が家族との再会を願い、命懸けで国境を越える密航の旅路を描く。国籍がなく、パスポートを持てないなど容赦のない現実を追いつつ、時に詩情の漂う表現が印象的だ。
この映画は昨年、世界三大映画祭の一つベネチア国際映画祭で、斬新な作品を集めたオリゾンティ部門の審査員特別賞を獲得するなど9カ国の映画祭で受賞を重ねている。
長編映画では世界初という総勢200人を超えるロヒンギャが出演した。中でも主演のきょうだいについて、海外の著名な映画監督ショーン・ベイカーさんは「この不条理な世界をリアルに私たちに近づけ、心をかき乱す」とのコメントを寄せている。2人の自然な演技と巧みな演出にも注目したい。
渡邉さんと藤元監督はこれまでにも二人三脚で、移民問題を取り上げた「僕の帰る場所」(2017年)と、日本で働くベトナム人技能実習生を描いた「海辺の彼女たち」(20年)を発表している。これらの映画は「自分の人生で無視できず、社会にとっても価値のあるテーマ」(渡邉さん)だという。
映画を通じて、私たちは世界の片隅で虐げられながらも懸命に生きる人々の存在に気付くことができる。一見縁遠い世界の話にも思えるが、日本も難民や移民に優しい国ではない。21年、名古屋出入国在留管理局の施設では収容中、体調不良を訴えていたスリランカ人女性が死亡し、社会問題化した事例がある。
また、人手不足などを背景に日本には多くの外国人労働者が働いている。私たちの身近なところにも、ロヒンギャ難民のように「差別」の苦しみを感じている人がいるかもしれない。映画は社会の矛盾に目を向けさせる。こうした人たちが生きやすい社会こそ、私たちが目指すべき多文化共生の社会であろう。
渡邉さんは昨年、福井県文化振興事業団に開設された「ふくい文化創造センター」のアーツカウンシル部門ディレクターに就任した。県内のさまざまな文化芸術活動の伴走支援を担う。多くの人々の力を結集する映画製作の経験を、多様なアートプロジェクト支援にも役立ててもらいたい。
