『小公女』『赤毛のアン』などの海外小説から、日本の戦前の少女小説、少女小説レーベル、そして現代文学へと受け継がれてきた“少女の物語”。そこで描かれる誇り高き少女たち、少女的な感性で生きるヒロインたちは、いくつになっても心のなかに生き続け、私たちに希望や勇気、自信を与えてくれます。そんな小説を愛し、少女の心を持ち続ける方々が、名作から学んだこととは……?
今回は少女小説のブックガイドを数々上梓している、ライターで書評家の嵯峨景子さんに、大人もぜひ押さえておきたい少女小説の珠玉の名作を教えていただきました。
※掲載は書名の五十音順です

角野栄子/著
KADOKAWA 1,650円
『魔女の宅急便』著者による自伝的戦後小説。1948年、復興が進む東京で暮らす中学2年生のイコは、海外に行きたいと広い世界に憧れ、現在進行形をきっかけに魅了された英語の勉強に打ち込んでいる。戦争の傷跡がいまだ残る時代のなかで、好奇心旺盛な少女が夢を追い続ける姿は、読者の心にも勇気とパワーを与えてくれる。

森田たま/著
ちくま文庫 880円
『もめん随筆』などで知られ、参議院議員としても活躍した著者の原風景的小説。札幌の女学校に通う野村悠紀子は、利発で感受性豊かな文学少女。本を読み少女雑誌に投書する彼女の行動が不良とみなされる時代にあって、良妻賢母規範に抗い、自らの人生を諦めたくないと葛藤する悠紀子の姿を、透徹した視点で綴る秀作。

伊澤みゆき/著
国書刊行会 3,960円
吉屋信子が憧れ、影響を受けた幻の少女小説家の仕事の全容が、令和のいま鮮やかに蘇る。代表作の「闇に居て」は、幼いころから容姿コンプレックスをこじらせた少女の鬱屈した内面と、同級生への歪んだ愛や執着を綴る一編。当時の模範的な少女像からはみ出す、苛烈な自我を抱えた少女の姿と痛切な感情が胸に突き刺さる。

柚木麻子/著
実業之日本社文庫 880円
中学2年生の範子は、地味女子4人グループの一員として平和な学校生活をおくっている。ところがクラスの頂点に君臨する“王妃”がその立場を追われ、範子たちのグループに入り込む。平穏な日常を取り戻そうと奮闘する少女たちの姿と友情、お嬢様学校のスクールカースト抗争を、フランス革命になぞらえて描く構成が楽しい。

ジーン・ウェブスター/著 三角和代/訳
新潮文庫 825円
『あしながおじさん』の著者による愛すべき学園小説。アメリカの女子寄宿学校で暮らすパティ、プリシラ、コニーは仲良し3人組。正義感が強くてやんちゃなパティを中心に、聖アーシュラ学園で起こるさまざまな騒動をコミカルに描く物語は愉快痛快だ。ストライキなど当時の社会運動にまつわる事象も物語に織り込んだ骨太な側面も見逃せない。

イーニッド・ブライトン/著 田中亜希子/訳
ポプラキミノベル 825~1540円
イギリスの児童文学作家によるロングセラーが新訳で復活。自由なお嬢様学校で甘やかされて育ったふたごの姉妹パットとイザベルは、両親の命令でセントクレアズ学院へと転入させられる。新しい学校の厳しい規則にふたりは反発するが……。寄宿舎での暮らしや真夜中のパーティーなど、女の子の憧れが詰まったディテールが乙女心をくすぐる。
「カーリー」シリーズ 既刊3巻
高殿 円/著
講談社文庫 660〜770円
舞台は第2次世界大戦前のインド。故郷のロンドンを離れ、英国の統治下にある藩王国にやってきたシャーロットは、駐在英国人の子女が通うオルガ女学院の寄宿舎で神秘的な美少女・カーリーと出会う。寄宿舎を舞台にしたクラシックな少女物語と、『007』的なスパイもの、激動の時代を描く歴史要素が見事に融合したヒストリカルロマン。

ルーシー・モード・モンゴメリ/著 村岡花子/訳
新潮文庫 935円
『赤毛のアン』のモンゴメリによる、もう1つのプリンス・エドワード島の物語。幼いころに母を亡くし、最愛の父とも死に別れたエミリーは、疎遠だった亡母の姉たちに引き取られてニュー・ムーンで暮らし始めた。さまざまな困難が降りかかる新しい生活の中で、作家になる夢を手放さず懸命に生きるエミリーの創作への情熱と美しい自然描写が心に響く。

氷室冴子/著
集英社オレンジ文庫 847円
大学進学を機にひとり暮らしを始めた米子の家に、売れない新人作家・火村彩子が転がり込む。連載の座をかけてライバルを蹴落とそうとする少女小説家たちの仁義なき争いに、米子も巻き込まれ……。当時の出版業界の内情に切り込み、奇人変人揃いの作家の姿や少女小説というジャンル自体をパロディ化した、抱腹絶倒の怪作が復刊。

クーリッジ/著 山主敏子/訳
ポプラ社文庫 ※古書のみ
6人きょうだいの長女ケティは、そそっかしくておてんばな女の子。楽しい毎日をおくるケティにある日突然大きな試練が降りかかり、自分自身を見つめ直す機会が訪れるのだった。1870年代の素朴ながら豊かな生活とカー一家の家族愛をめぐる物語は、時代を超えて輝きを放つ。『若草物語』の4年後に出版された隠れた名作。

ゲイル・キャリガー/著 川野靖子/訳
ハヤカワ文庫 902円
吸血鬼や人狼が人類と共存する19世紀イギリス。活発でおてんば、機械が大好きな14歳のソフロニアは、しつけのために上流階級の子女が集う花嫁学校に送り込まれた。だがそこはただの花嫁学校ではなく、女スパイの養成所で──。乙女要素がてんこ盛りのヴィクトリアンテイスト×スチームパンクな世界観に胸が躍る冒険活劇。

恩田 陸/著
集英社文庫 748円
美術部の憧れの先輩・香澄と芳野に誘われ、毬子は演劇祭で使う舞台背景を仕上げるために香澄の家で合宿を始めた。先輩たちと過ごす特別な夏休みの中に、徐々に不穏な空気が立ち込める。かつてこの地で起こった不幸な事故は殺人事件だったのか?少女期特有の危うい美しさと、きらめく夏の時間を封じ込めたミステリー。

小野不由美/著
新潮文庫 825円
中華ファンタジーの金字塔として大人気の『十二国記』シリーズの一冊。先王が27年前に崩御した恭国は、治安が乱れて荒廃が進んでいた。豪商の娘で何不自由なく育った12歳の珠晶は、ふがいない大人たちに苛立ち、王になるために、麒麟を養育する蓬山を目指す。国を憂える聡明な少女がみせる圧倒的な行動力が、爽やかな感動をもたらす。

林 真理子/著
KADOKAWA/角川文庫 482円
葡萄づくりの町で暮らす岡崎乃里子は東京に憧れ、冴えない自分にコンプレックスを抱いている。きらびやかな高校生活を夢見て、乃里子は地元の有名な共学校に進学するのだが……。思春期の少女の心の機微に迫る筆致は繊細かつリアルで、過剰な自意識や人間くさい感情を抱えた姿が甘酸っぱい痛みを呼び起こす青春小説。
※カバーの絵柄は(株)かまわぬのてぬぐい柄を使用しています。

須賀しのぶ/著
KADOKAWA/角川文庫 924円
辻芸人育ちの12歳のフミは、大陸一の女郎になるという野心を抱いて自らを売り込み、内地から哈爾濱に渡った。妓楼・酔芙蓉の下働きになったフミは、愛嬌と舞の才能を買われて芸妓としての道を歩み出す。明治末期に異国に渡ったたくましい少女が、時代の波に抗いながら自らの人生を切り開く姿を描くガールズ大河小説。

青木祐子/著
集英社コバルト文庫 ※古書のみ、電子版あり
『これは経費で落ちません!』の作者がおくる、19世紀イギリスを舞台にしたお仕事小説。ロンドン郊外で仕立屋を営む縫い子のクリスが作るドレスの評判を聞きつけ、青年貴族のシャーロックが店を訪れた。華やかなヴィクトリア朝時代の文化や、貴族と平民の身分差ラブ、恋を叶えてくれると評判のドレスなど、ときめき要素が詰まった一作。

レベッカ・ヤロス/著 原島文世/訳
早川書房 各2,090円
竜の騎手たちが魔法の力で国防を担う国。ヴァイオレットは竜の騎手を目指してバスギアス軍事大学に入学するが、そこは生徒の大半が命を落とす危険で過酷な場所だった。ヴァイオレットの命を狙う因縁の宿敵・団長ゼイデンとの間に生まれる憎しみと愛、竜たちと結ぶ絆や命がけの戦い──。濃密な世界が魅力のロマンタジー。

新井素子/著
出版芸術社 1,430〜1,650円
強制された結婚が嫌で家出をした森村あゆみは、宇宙船に乗って地球を飛び出し火星へと向かった。ところが怪しげな男たちと同室になったうえに、殺し屋に狙われてしまい……。さまざまな事件に巻き込まれるあゆみの冒険と成長、そして恋を描いた物語は時を経ても色あせない。SF小説に苦手意識を持つ人にこそおすすめしたい名作。

紅玉いづき/著
KADOKAWA/メディアワークス文庫 781円
額に焼き印を刻まれ、両手と両足を鎖でつながれた奴隷の少女ミミズクは、魔物がはびこる夜の森を訪れる。ミミズクは美しい魔物の王にその身を差し出し、自分を食べてほしいと迫った。死にたがりやの少女と、人間嫌いの夜の王が繰り広げる絶望と再生の物語は、痛々しくもあたたかい。大人の心にも沁みる極上のファンタジー。

津原泰水/著
創元推理文庫 792円
少女小説レーベルの講談社X文庫ティーンズハートで刊行されたミステリーを全面改稿した作品。私立ルピナス学園高等部に通う仲良し3人組の少女と、博覧強記な少年がタッグを組み、さまざまな事件の謎を解き明かす。軽妙な会話と本格的な推理要素、続編『ルピナス探偵団の憂愁』のあっと驚く仕掛けと切ない余韻は必見だ。
さがけいこ〇研究職を経てライターに転身。学究領域であった近代から現代に至る少女小説・少女文化を主軸に、幅広い執筆活動を行う。著書に『少女小説を知るための100冊』(星海社新書)、『氷室冴子とその時代 増補版』(河出書房新社)などがある。
選書・文=嵯峨景子 編集=柏木敦子、沼田凜々子(婦人画報編集部)
『婦人画報』2026年5月号より
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◾️特集「少女小説が教えてくれたこと」
・辻村深月さんにとっての少女小説とは?|それは「わたし」の物語
・【赤毛のアン】あんびるやすこさんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・【スウ姉さん】弥生美術館学芸員の内田静枝さんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・【風と共に去りぬ】翻訳家・エッセイストの鴻巣友季子さんが綴る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・【リンバロストの乙女】文芸評論家の斎藤美奈子さんが綴る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・【マリア様がみてる】作家の嶽本野ばらさんが綴る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・【小公女】シンガーソングライターの谷山浩子さんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・【モモ】アーティストの東ちなつさんが綴る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・【クローディアの秘密】編集者の吉田元子さんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
・嵯峨景子さんが選んだ、知る人ぞ知る名作少女小説20選|『可愛いエミリー』や「カーリー」シリーズなど(この記事)
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