1980年頃、IRON MAIDEN、SAXON、DEF LEPPARD等々、当時のイギリスの若手の台頭によって世界的なムーヴメントとなっていったヘヴィメタル。その波は日本にも伝播し、1981年にLOUDNESSがデビューしたのを契機に、将来を期待される様々な新鋭が以降に確立されるシーンを賑わせていったのはよく知られている。

1983年6月に1stアルバム『魔天〜HARD SECTION』で表舞台に登場したX-RAYは、その最初期のアーティストの一つとして認知されているはずだ。音楽雑誌を始めとするメディアが特に注目したのが、まだ17歳だった湯浅晋の圧巻たるギター・プレイだった。バンドの創設者であり、コンポーザーでもあった彼の才能の豊かさには誰もが驚いた。

X-RAYのポテンシャルがいかに期待されるに相応しいものだったのか、客観的なエピソードがある。まだ拠点の関西でライヴも数えるほどしか行っていなかったバンドを自身の東京などへのツアーに同行させたのがEARTHSHAKERの石原“SHARA”愼一郎であり、ステージを観たLOUDNESSの樋口宗孝は自身が所属していたビーイングに招き入れる算段を取った。細かく挙げれば他にも列記できるが、この両者の審美眼の背景には地元の有望な後輩を引っ張り上げたい親心のようなものもあっただろう。ただ、もう一つ重要なのは、確かな萌芽が見えていたシーンを共に盛り上げていける同志として、白羽の矢を立てたという面である。

『魔天〜HARD SECTION』を手始めに、ライヴの規模を全国へと拡大していったX-RAYは、話題性の大きさに違わぬファンベースを着実に築き上げていった。その後、『伝統破壊〜TRADITION BREAKER』(1984年1月)、『OUTSIDER』(1984年6月)、『SHOUT!』(1984年12月)、『STRIKE BACK』(1985年8月)といった作品をハイペースでリリースしていく。リアルタイムで耳にしていたファンであれば、それぞれ思い入れの強いアルバムがあるに違いない。

インターネットが一般的に普及するようになり、音楽的アーカイヴが広範に発掘されるようになった。しかし、X-RAYはジャパニーズ・メタル・シーンの黎明期を支えたバンドでありながら、意外にもその歴史が語られる際に最右翼で名前が挙がることは決して多くはなかった。現実にX-RAYをフェイヴァリット・バンドだと語る人の熱は極めて高いが、そこまではフォローしていなかった人との温度差を感じる場面も少なくない。それはなぜなのか? 理由はいくつかある。

運命の悪戯、大局的にはそう称してもいいのかもしれない。まずはX-RAYの音楽性だ。そこは湯浅が軸になっていたのは事実で、創造性に富んだ気鋭の若手ミュージシャンにとって、進化は必然的なものであり、彼らはアルバムを重ねるごとにそのスタイルを変貌させていった。つまり、どの作品に触れるかによって、X-RAYの印象は大きく異なるのである。バンドのパブリック・イメージがいくつも存在することが、共通言語を導き出せなかった可能性があるのだ。

しかし、解散直前のライヴ作品『FIRST AND FINAL LIVE CONCERT』(1986年6月)などでアトランダムに並べられた楽曲群を通して聴けば、疾走感に満ちたメロディックな楽曲から、じっくりと堪能させるバラードまで、ヴァリエーションのすべてを内包するX-RAYの姿が浮き彫りになる。活動をつぶさに追いかけてきたファンは、そのバンドの本質たる特性に惹きつけられていたわけだ。

もう一つは活動期間の短さである。デビューから3年にも満たずに解散を選択したが、日本のシーンが隆盛を極める前に彼らは終止符を打ったことになる。自身が種を撒いてきたフィールドには後続のルーキーたちが次々と登場し、メジャーもインディも巻き込んだ一大勢力が生まれていくのと入れ替わるようにして、X-RAYは最前線から去っていったのだ。短いタームだったとはいえ、「やり切った」という思いがメンバーにはあったようだ。海外進出など、その後に活躍したバンドたちの華々しい経歴の中で、結果的にX-RAYの名が埋もれてしまったのは事実だろう。また、高橋 “ROGER” 和久は多方面から指名されるドラマーとして存在感を高めていったが、解散後は湯浅にしろ、藤本朗にしろ、臼井 “OZMA” 孝文にしろ、音楽と無縁だったわけではないとはいえ、知る人ぞ知るような活動になっていたことも、X-RAYが市井のレヴェルで取り上げられる機会を逸する要因の一つだった。

再評価の機運が高まったのは2018年。デビュー35周年のアニヴァーサリー・イヤーに過去の作品群をコンパイルした10枚組ボックス・セット『X-RAY 35th ANNIVERSARY COMPLETE BOX~完全制覇~』がリリースされたことだ。発売に合わせて行われた復活ツアーもよりポジティヴに作用したが、スタジオ作品のみならず、レアな音源や映像も特別に収録された同作は、往時を知る人はもちろん、“伝説” を追体験したくなった新規のファンにもアピールしたのだろう、早々に完売してしまったのである。あれから8年が経ち、同作の再発プロジェクトがスタートすることになった。オークション・サイトなどで高値で出品されるケースが相次いでいたとはいえ、高額商品であるボックス・セットのリイシューは異例中の異例と言っていい。予約申込の締め切りは間もなくだが、これで本来届くべきはずだったリスナーの元にも届けられることになるわけだ。

名曲と呼びたくなるマテリアルは数多い。たとえば、「Stardust Way」のイントロのリフなどは、個人的なオールタイム・ベストの一つであり、今も日常的に頭の中を駆け巡る。音源の素晴らしいところは、いつ何時でも夢のような空間へと聴き手を誘ってくれることだ。願わくは、再びX-RAYのステージを体感したい。それを実現に至らしめるのは、何よりもファンからの真摯な声援だろう。時代の移り変わりは誰しも予測できないが、次なる奇跡が起こることを心待ちにしている。

 

文◎土屋京輔

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