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ゴールデンウィークは、ふと映画館に立ち寄ってみるのも悪くない。気負わず楽しめて、観終わったあとに静かな余韻が残る3本を映画ライターの圷 滋夫(あくつ・しげお)さんがピックアップしました。
『これって生きてる?』/上映中
名実ともにハリウッドのトップ俳優で、脚本・監督作『アリー/スター誕生』『マエストロ:その音楽と愛と』で高い評価を受けたブラッドリー・クーパー。演出力をさらに高めた監督第3作は、離婚の危機に直面した市井の中年夫婦の物語で、ウディ・アレンやジョン・カサヴェテス作品に連なる新たなニューヨーク映画と言えるでしょう。

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別居が決まったアレックス(ウィル・アーネット)は、素人が舞台で笑い話を披露する酒場で、たまたま自分の離婚話をすることになります。すると、なぜか癒され新たな世界が広がっていきます。一方で妻のテス(ローラ・ダーン)は結婚を機に諦めたバレーボールに再び関わることになり、その打ち合わせの後に立ち寄った酒場で自分の話で笑いを取る舞台上のアレックスを目にして…。

2人の離婚には決定的な原因はなく、物語はその心の内を丁寧にひも解いていきます。人生のほろ苦さと未来への希望をウィットに富んだ笑いをちりばめスタイリッシュに描いた、ウェルメイドな大人の恋愛コメディーであり、他者との関係の中で自分自身を見つめ直す人生譚でもあります。2人の愛する息子たちの純粋さが胸を揺さぶり、クイーン&デヴィッド・ボウイの名曲「アンダー・プレッシャー」の多幸感あふれる粋な使い方が心憎いばかりです。
『ARCO』/公開中
アカデミー賞アニメーション部門ノミネート、アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリ受賞など、世界の映画祭を席巻したSF冒険ファンタジーです。気候変動と環境破壊のために人々がドームで暮らす2075年、少女イリスと900年後の未来からやって来た少年アルコの出会いと友情が描かれます。

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アルコは人と自然が調和する理想的な未来へ戻ろうとしますが、警察に追われることになり、イリスとの逃避行が始まります。そこに時空を超えるアルコの虹色マントを狙う謎の3人組や、イリスに忠実な保育ロボットや幼なじみの少年が入り乱れ、スリルとサスペンス、そしてアクションが加速していきます。3人組はドジで間抜けな愛すべきトリオで、絶妙なタイミングで笑いも提供します。

車や船などに乗り換えながらの逃走や飛翔シーンは、アニメならではの幻惑的な場面転換と相まって、活劇としての息をのむ面白さに満ちあふれ、手塚治虫や宮崎駿の初期作品を思わせます。そしてテクノロジーが進化した未来でも両親と離れて暮らし、ホログラムでしか会えないイリスの孤独は今と変わらず、2人の真っ直ぐで純粋な瞳に、人とのつながりの大切さが心に染みて胸が熱くなります。さわやかなラストも、未来への希望を感じさせてくれます。
『サンキュー、チャック』/5月1日(金)公開
原作がスティーヴン・キングと聞くとホラーを想像しますが、本作は『グリーンマイル』系の非日常性をまとった人間ドラマです。もっとも3章構成の冒頭は混沌とした世界の終末が舞台で、衝撃的な光景の中に「39年間ありがとう、チャック」という謎の広告がこつ然と現れ、誰もが未体験の不条理な感覚に陥ります。

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第2章からはチャックがたどった数奇な人生が明かされ、心温まる物語へと変容しますが、そこにも非日常の出来事が散りばめられています。彼の人生には多くの死の記憶と予感が刻まれていますが、少年の頃にダンスに夢中になった美しい思い出もあります。だからこそ大人になったチャック(トム・ヒドルストン)が、楽しかった記憶に突き動かされるように、一心不乱に踊る姿が胸を打ちます。今を生きる歓びにあふれ一瞬のきらめきを放つ、映画史に残るダンスシーンでしょう。振り付けは『ラ・ラ・ランド』を手掛けたマンディ・ムーアです。

本作ではいくつかの年代が描かれますが、複数の年代にまたがって符合する人物や曲、映画、考え方、特徴的な動きなどが現れます。その意味について哲学的に語られるものもあれば、謎のまま残されるものもあります。この“訳の分からなさ”こそが本作の魅力であり、奥深さでもあります。あれこれ考察しながら味わうのも楽しいでしょう。
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圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター
映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。
Edit : Yu Sakamoto
