企業におけるマーケティングの役割と重要性が増す一方、「マーケターの仕事はAIに奪われるのでは」とも囁かれる昨今。そんな変革期にマーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。
次世代を担う「ライジングスター」にフォーカスし、彼らの多彩な思考や行動を探ることでマーケティングの近未来を照射するAGENDA Note.の本連載。40回目となる今回は、日本国内におけるTHE NORTH FACEの商標権を持つことでも知られる大手スポーツアパレルメーカー・ゴールドウインのプロモーションを担う高梨泉美氏にインタビュー。「生粋のファッション好き」を自認する高梨氏が、サステナブルファッションを推進するゴールドウインで紡ぐ「顧客とのつながり」とは。
―― 高梨さんは大手セレクトショップから2025年に転職されてきたと伺いました。ファッション業界を志したきっかけや、転職の経緯について教えてください。
子どもの頃からファッションが好きで、毎月のようにファッション雑誌を買って読み漁ったり切り抜いたりしていました。洋服や、それを含めたカルチャーにとても興味があり、新卒で入社した会社でプロモーション業務を担いました。セレクトショップということもあって海外などの鮮度の高いトレンドに触れられ、とても楽しかったのですが、自分でも数えきれないほどの服を毎年のように新調し、仕事でも当然ながら短期的な売上を上げるプロモーションに従事する中で、「モノを長く大切に使う」ということを、次第に意識するようになりました。
「服が好き」という根本は変わらないけれど、自分が心からプロモーションしたい服はなんなのか。悩む中で、「自然と共生するビジネスの実現」を目指すゴールドウインの考え方がとてもしっくりくると感じ、知人が入社していたこともあって、転職を決意しました。
―― プロモーションの経験者として中途入社されたわけですね。どのような業務を担ってきましたか。
マーケティング部のメディアグループに配属され、ブランド横断的なプロモーションや、コーポレートブランディングを担当しています。印象的な施策では、たとえば2022年に始まった「GREEN BATON(グリーンバトン)」があります。傷ついたり、サイズアウトしたりして不要になったキッズウェアを買い取らせていただき、クリーニング(洗浄)・リペア(補修)・アップサイクルの作業を経て、次に必要となるお客さまに販売する取り組みです。当社のパーパス「人を挑戦に導き、人と自然の可能性をひろげる」を体現する新しいレーベルでもあります。

ゴールドウイン 総合企画本部 マーケティング部 メディアグループ
(※2026年4月より総合企画本部 DX推進室 CXデザイングループ)
高梨 泉美 氏
―― サステナブルファッションは広がってきていますが、実際の購買行動につなげるにはまだハードルがありそうです。グリーンバトンにはどんな特徴があるのでしょうか。
北海道から沖縄まで全国53の直営店で買い取りを実施しているため、お客さまが参加しやすいのが特徴だと思います。買い取り対象はGoldwin、THE NORTH FACE、HELLY HANSENの3ブランドで、店舗でスタッフが状態を確認し、現金ではなく当社でご利用いただけるポイントをお渡しします。買い取った服は当社工場でプロが洗浄し、傷ついた部分にはワッペンをつけるなどして補修します。アップサイクルはデザイナーが一からデザインし直し、余った生地を合わせてポンチョにしたり、夏物のショーツを通年着られるロングパンツに変身させたりして、世界にひとつしかない商品に仕上げます。手間がかかっている分、通常商品より少しお値段は高いですが、一点物ということで非常に好評です。
―― 課題をどのように捉え、高梨さんはどう乗り越えていくお考えですか。
グリーンバトンは企業のブランディングに関わる施策なので、これまでは比較的、数字を追うというよりも、新しいレーベルとしてのコンセプトや社内における位置付け、見せ方などを丁寧に確立してきました。去年くらいからは、より社外に認知を拡大するフェーズに移り、特に商品の元となる買い取りを強化できるようプロモーションを仕掛けています。インスタグラムなどSNSやWeb広告のほか、グリーンバトンと親和性の高いWebメディアとのタイアップ、実際に販売商品をお手にとっていただけるポップアップストアを全国で展開しました。その結果、2025年の買い取り品数は前年の約2倍に達しました。
プロモーションは施策ごとに最適なチャネルが異なりますが、個人的にはグリーンバトンで「リアル」の力を実感しています。昨年10月に東京本社のイベントスペースで開かれたサステナブル・カルチャー体験型フリーマーケット「WWDJAPAN REUSE MARKET2025」ではグリーンバトンも出店し、私も接客に立ちました。そこでグリーンバトンを初めて知る方はもちろんのこと、すでにお店で購入されたことがあり、今回の出店を知ってわざわざ来てくださった方もいて、活動に共鳴するコメントを数々いただけて感激しました。
グリーンバトンに限らず、当社では環境負荷の低い商品開発を推進しています。石油などの化石資源に依存しない構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン」を活用した製品や、3D技術とアルゴリズムを用いて製造工程で生じる残反(余り生地)を限りなくゼロに近づけるパターン設計を可能にするプロジェクト「SYN-GRID」などが代表例です。こういったサステナブルな取り組みは目に見えにくく、背景にある社会的課題やつくり手の思い、工夫といったところまで知っていただくことがとても重要になります。
だからこそ実際に商品に触れ、その価値や楽しさを感じてもらえる体験が鍵を握ります。当社では余り生地を用いたワークショップなどイベントを開催する伝統があり、地道な活動ではありますが、そういったリアルの機会を活用しながら多くの方に知って共感していただけたらと思います。
―― イベント設計で心掛けていることはありますか? また、ご自身の強みはどのように生かされていると思いますか?
企画を立てる際は、お客さまのインサイトを熟知するマーケティング部のメンバーなどと連携しつつ、最初は「自分たちにとって楽しいかどうか」を念頭に置くようにしています。もちろん、目標となる数値の設計や分析も必要ですが、イベントを主催する私たち自身が楽しんでこそ、お客様にも楽しんでいただけると思うからです。ワクワクする施策を考え、ブラッシュアップして実際に落とし込んでいったり、お客さまの反響を次の施策に生かしていったりする流れが、とても好きです。強みと言えるかは分かりませんが、フットワークが軽く、そういったイベントを自分で企画・推進するのは、得意かもしれません。
また、現在の部署は売上目標に沿ったプロモーションだけでなく、より中長期的な視点でお客さまとコミュニケーションをとりながら、「ゴールドウインはこういう会社だよね」と知って共感していただくこと、いわば、お客さまの「心」とつながれることを重視しています。指標となる項目も、一般的なアパレル企業とは異なるかもしれません。入社して社内のさまざまな人と接したり、実際にイベントでお客さまとのつながりを実感したりする中で、自分としても共感する部分がさらに大きくなっています。
売上を上げるのは企業が生き残るための前提ですが、社会の中で会社や人がどうあるべきか、持続可能な未来のために何ができるか。そういったことを考えながら、企業活動を通してお客さまにもお伝えしていけるのは、いろいろな発見があり、仕事のやりがいにつながっています。
―― 短期的な目標と中長期的な目標を教えてください。
入社して、わりとすぐに一人で企画から検討、実行までプロジェクトを任せてもらう機会が多く、その経験を通して、会社の考え方はかなりインプットできてきたと思います。なので、今後はアウトプットを増やし、ゴールドウインという会社を社会に伝えていきたいです。
2027年夏には、創業の地である富山県で開発を進める「Play Earth Park Naturing Forest」のオープンが予定されています。パーク、フォレスト、ガーデンの3つのエリアからなるネイチャーパークは、人と自然の新たな可能性を探究するゴールドウインにとって重要なプロジェクトです。新部署への異動もあり、今後、自分がどのように関われるかはまだ分かりませんが、これまでとはコミュニケーションの座組なども全く変わってくると思うので、どんな形であっても携わることで、自分の成長にもつなげられたらと思います。
―― 最後に、お仕事に生きる趣味などはありますか?
旅行が好きです。インプットにもなりますし、考えが凝り固まった時に、解放されて新しい視点が獲得できる気がします。
―― 本日はありがとうございました。
【上司の視点】自発的な活動でさらに飛躍を
ゴールドウイン 総合企画本部 マーケティング部 メディアグループ マネージャー
鈴木 拓巳 氏
マーケティング部メディアグループは、THE NORTH FACEやGoldwinなど当社が保有している複数ブランドを横断したプロジェクトやコーポレートのマーケティング/プロモーションを主に担当しています。高梨さんは入社1年未満ながら、持ち前の明るいキャラクターと高いコミュニケーション能力を生かして大活躍してくれています。すでに複数のプロジェクトを並行してマネージメントしているのですが、丁寧な仕事に対して自部署はもちろん他部署からの信頼がとても厚いです。今年入社した新入社員からも頼りにされている感じが伝わってきます。
私たちのグループは、メンバーの自主性を尊重した「自立共創型」の組織づくりを意識しているのですが、その中で高梨さんは自発的に動き、他メンバーともうまく連携してくれています。コミュニケーションがとても重要な部署なので、チームや会社内で「ハブ」として動いてくれる高梨さんは貴重な存在です。入社から約1年が経って会社のカルチャーを理解できたと思うので、2年目はさらに飛躍してほしいですね。
3姉妹の末っ子。「姉のお下がりばかり着るのが嫌で…(笑)。その気持ちが服への憧れにつながったのかもしれません」
