約100曲が制作されるなか、アルバムの全体像が見えなくなった時期もあったという。RMは「森を見られずに木を斧で叩いているような気がする。このアルバムが何なのか、頭のなかにまだはっきりない」と吐露している。そこに所属レーベルであるBIGHIT MUSICのクリエイティブディレクターが、1896年に米国に渡った韓国の若者たちが「アリラン」の録音を残したという物語を提示し、これがアルバムのコンセプトになっていった。

しかし、メンバーの間にも逡巡はあったようだ。Jiminはファン向けのライブ放送で、「アリランという民謡は韓国人にとって幼いころから親しみのある大きな意味をもつ言葉だから、自分たちが使っていいのかと本当にたくさん議論した」と明かしている。RMも「韓国人として、アリランのような伝統曲をもってくるのは少し直接的すぎるかもしれない」と、当初は感じていたという。

楽曲「Body to Body」にアリランの旋律をどこまで入れるかをめぐっても、メンバーとHYBEの創業者で会長であるパン・シヒョクとの間で意見が割れていた。パンは「60,000人、70,000人を集めて公演するとき、(会場の)50%以上を占める外国人がアリランのサビを一緒に歌うシーンは、ものすごくアイコニックになる」と、アリランの引用が長いバージョンを推す。これに対しj-hopeは、「適度にアリランを入れて、オーバーにしないほうがいい」と反論し、Jung Kookも「すべてのファンがアリランの意味を理解するわけじゃない。韓国人以外のことも考えたら、聴き心地よくすることを優先すべきだと思う」と異を唱えた。

英語詞の比率をめぐるメンバーとレーベル側の意見の相違も、ドキュメンタリーでは映し出されていた。SUGAは「英語が多すぎる。特にラップの部分には韓国語を入れるべきだ」と主張し、最終的に韓国語の歌詞を増やす方向でメンバーの意志が反映されていった。

HYBE会長のパンはBillboardのインタビューで、アルバムの制作背景を次のように語っている。「メンバーたちと深く対話するなかで気づかされたのは、グローバルアイコンという立場にもかかわらず、彼らは根本的にはアイデンティティの問いに深く格闘する若者であるということです」

BTS

(P)&(C)BIGHIT MUSIC

交流を重ねた先にあるもの

こうして実現したアルバム『ARIRANG』をめぐっては、リリース直後にファンたちの間で議論が巻き起こっていた。「韓国的であること」を掲げながら英語詞が多くを占めることへの違和感や、楽曲の方向性がこれまでのBTSとは異なるという戸惑いが、ソーシャルメディアで散見されている。ドキュメンタリーで明らかになったメンバーの意志とレーベル側の商業的判断とのギャップも注目された。

しかし、ツアーが始まると、風景は変わった。新曲はライブのエネルギーのなかで説得力を増し、「SWIM」での観客の合唱や「Hooligan」のアグレッシブなオープニングなどは、アルバムの世界観をステージの上で完成させていた。少なくとも東京ドームの55,000人の反応は、本人たちの決断を支持するものだったといえるだろう。

Leave A Reply