
2階ビジネス書売り場のメインの平台に前著と並べて平積みして展示する(三省堂書店有楽町店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。
今回は、2〜3カ月に一度訪れている準定点観測書店の三省堂書店有楽町店だ。3月半ば頃から客足が鈍りがちで、ビジネス書の売り上げもやや下がっていたという。神保町の本店が3月19日に新装開店した影響でそちらに客が流れたのではないかとの見立てもあり、最近はその流れが一段落したのか、客足が戻りつつあるようだ。そんな中、書店員が注目するのは、言語化スキルの達人が「聞き出す力」に着目して、その効用と具体的なメソッドを解説したコミュニケーションスキルの本だった。
「相手の頭のなかを言語化」
その本は荒木俊哉『聞き出せる人が、うまくいく。』(祥伝社)。荒木氏は電通のコピーライター。大ヒットした『こうやって頭のなかを言語化する。』をはじめ言語化をテーマにした本を何冊も書いており、言語化本ブームの火付け役の一人だ。
そんな著者が今回は「聞く」をテーマに据えて本を書いた。著者によれば、「聞く」は言語化へとつながっている。著者が日常向き合っているクライアントワークには、聞くことが欠かせない。その行為はどちらかといえば「聞き出す」に近い。
「聞き出すとは、相手の頭のなかにある、まだはっきりしていない思いや考えを、一緒に言語化していくこと」。「聞き出し力」を身に付けることで、「あなたが言語化する言葉も自然と深まっていきます」という。
こんなふうに聞くことの価値を位置づけた後、聞き出すときの「問いの基本」とうまく聞き出すルールを示した上で、著者が実践している「シンプル聞き出しメソッド」を解説していく。
出来事から聞き、「追い聞き」で深める
メソッドは①まず、出来事から聞いていく②必ず「追い聞き」する③自分が傷つくことを恐れない④相手が無言になる時間を歓迎する――の4つ。出来事から聞いていくのは、出来事を語るステップを踏むことで、それを土台にして感じたことも話しやすくなり、経験を深く再現することにつながるという。
「追い聞き」は著者の造語で、相手の発言を受けて、言葉の意図や背景を追いかけて、さらに聞いてみること。尋問のように追い詰めていくのではなく、フラットな口調を心掛け、相手の心の中のストーリーをまるごと聞き出すことを意識する。そのときは「ちなみに」というクッションワードを挟むと、いい仕事をしてくれるという。
プレゼンの後に相手が曖昧な返事をしたり微妙な空気が流れたりすることがある。そんなときに意識すべきなのが「自分が傷つくことを恐れない」だ。「正直なところ、どうでしたか?」。「正直」という言葉が相手から言葉を引き出すキーワードになるという。
4つ目の沈黙は、「言語化の途中」と捉えるといいという。相手が沈黙している間は、考えをまとめている時間と捉えて、焦らず待つことを意識しよう。この4つを意識することで「聞き出し力」は格段にアップすると著者はいう。
続いて会議、クライアントワーク、1on1、就活・転職での面接、テキストコミュニケーションと5つのビジネスシーンごとに具体的に聞き出すコツを伝授していく。「ありきたりな言葉こそ深く掘ってみる」「相手の発した単語に注目して追い聞きする」など、細かいテクニックが満載だ。手軽なメソッドやテクニックが多いので、試してみると自然にビジネスコミュニケーションが上がっていきそうだ。
「チェーン各店の中で、当店での反応が突出していい一冊」とビジネス書を担当する春田真吾さんは話す。言語化関連の本の勢いは当分続きそうだ。
5位に元キーエンスの仕事術
それでは先週のランキングを見ていこう。
(1)科学的に証明された すごい習慣大百科堀田秀吾著(SBクリエイティブ)(2)道をひらく松下幸之助著(PHP研究所)(3)世界を解き明かす 地政学田中孝幸著(日本経済新聞出版)(4)北極星 僕たちはどう働くか西野亮廣著(幻冬舎)(5)キーエンス 最強の働き方齋田真司著(PHP研究所)
(三省堂書店有楽町店、2026年4月13~19日)
1位は習慣化テクニックを網羅的に紹介した本。本欄2025年7月の記事〈「すごい習慣」で仕事や人生を変える 科学的根拠に基づく小さなメソッドの大百科〉で取り上げた息の長い売れ筋だ。経営の神様のロングセラーが2位で続いた。3位は日本経済新聞の編集委員兼論説委員が豊富な海外取材経験を基に最近の国際情勢を解説した本だ。4位はお笑い芸人で、最近は絵本作家、アニメ映画プロデュースと活動を広げている著者によるビジネス書。5位は元キーエンスのトップ営業が自身の仕事術を明かした本だった。今回紹介した『聞き出せる人が、うまくいく。』は7位だった。
(水柿武志)
