「仕事の基本」の本を並べた書棚前の平台に平積みで展示する(青山ブックセンター本店)

「仕事の基本」の本を並べた書棚前の平台に平積みで展示する(青山ブックセンター本店)

本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。

今回は、定点観測している青山ブックセンター本店だ。ビジネス書の売り上げは4月初旬に雨の日が多かったため客足が伸びず、低調だったが、このところ天候も回復してきて盛り返しているという。そんな中、書店員が注目するのは「ほんとうのことを書く」をテーマに、自己を見つめ直し、社会とつながっていく方法を考えた一冊だった。

1500人超にインタビューした文筆家

その本は土門蘭『ほんとうのことを書く練習』(ダイヤモンド社)。副題には〈「わたしの言葉」で他者とつながる文章術〉とある。著者の土門氏は文筆家を名乗る。本書の略歴によれば、1985年生まれで京都に住み、小説、短歌、エッセーなどの文芸作品の創作と、インタビュー記事、ブックライティングなどのクライアントワークの双方を生業としているという。

中でもクライアントワークでインタビューした相手は1500人を超えるとあるから、プロのインタビュー記事ライターといってもいいが、創作活動も手放さずに書くことすべてが生業というスタンスで活動している文筆家のようだ。

「書くことは生きること」とまで言う著者が、何でも書くというスタンスで仕事を続ける中で、たった一つの条件としているのが、「ほんとうのこと」だけを書く、ということだ。この「ほんとうのことを書く」ことをめぐって書かれたのが本書だ。

ビジネス書というより、自己啓発書といったほうがいいかもしれない。書くことを通じてつかむ自分の中にある「ほんとうのこと」、それをどうやって他者に伝え、どうすれば自分のままで社会とつながれるか。「一つ一つ考えながら文章にした」と著者はつづる。

「ほんとうのこと」を探る上で、著者はまず、なぜ「ほんとうのこと」が書けないのかを考えていく。他者の目、自分の中にある「読む自分」……こうしたものが「書く自分」の前に立ちはだかる。「読む自分」さえ退出してもらって、「書く自分」一人になって自己に問いを発し続けて自由に書こうと呼びかける。

続いて「ほんとうのことを書く」は、「ほんとうのことを読む」から始まるとして、読むことについて自らの読書体験などを語った後、いよいよ書くことについて語り始める。

「誰にも読ませない文章」を書く効用

最初は「誰にも読ませない文章」を書こうという話だ。書くことが仕事になっている著者は今も毎日、誰にも読ませない文章を書いているという。

言葉の通る水路というものがあり、その水路をきれいにしておかないと、自分の水源から出てくる「ほんとうのこと」の通りが悪くなってしまうという。おすすめなのは分量を決めて毎日日記を書くこと。誰にも読ませない文章で自分に問い続け、自分に答え続ける。この繰り返しをベースに「誰かに読まれる文章」へと積み上げていく。

何でも書いてきた人だけに小説やエッセー、短歌、インタビューと様々な表現手段についての言及もある。ビジネスとのつながりでいえば、企画書も表現手段の一つとして取り上げられている。著者によれば、企画書は「ほんとうのことで書いた未来」だという。

書くことで自分の内面の理解を深める。そのことで社会とのつながりを見いだしていく生き方を考える。これが本書の幹の部分だが、そのメッセージを自分の仕事とつなげながら読んでみるのもいいかもしれない。仕事に生きている実感を持てないでいるようなら、そこを抜け出すヒントになりそうだ。

「最近、表現に関連した本がいろいろと出ていて、どれも読者が敏感に反応している」とビジネス書を担当している神園智也さんは話す。

表現や生き方を説く本が上位に

それでは先週のランキングを見ていこう。

(1)結果を出す空間デザイン萩原浩著(日経BP)(2)お金信仰さようならヤマザキOKコンピュータ著(穴書)(3)ほんとうのことを書く練習土門蘭著(ダイヤモンド社)(4)生きるための表現手引き渡邉康太郎著(ニューズピックス)(5)センスのレッスン千原徹也著(ソシム)

(青山ブックセンター本店、2026年4月6~12日)

1位は収益を生んだりブランド価値に直結したりする商業施設などの空間デザインのノウハウを解説した本。投資家でパンクや地下カルチャーにも通じた著者が、お金や成長にとらわれない生き方を提唱した本が2位に入った。この書店では息の長い売れ筋になっている。

今回紹介した『ほんとうのことを書く練習』が3位だった。4位も表現に関する本で、2025年12月の本欄の記事〈表現することで生きる時間を取り戻す 仕事や目的にとらわれない「つくる」の手引き〉で紹介した。こちらも息長く売れている。センスの鍛え方を解説したアートディレクターによる本が5位だった。

(水柿武志)

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