新たな挑戦という気持ちで飛び込んだ舞台『DUMB SHOW/ダム・ショー』

――舞台『DUMB SHOW/ダム・ショー』のオファーがあった時の気持ちからお聞かせください。

伊波杏樹(以下、伊波) 最初に戯曲を読ませていただいた第一稿では、分量も多く、それぞれの役に細かくト書きが書かれていて、段取りも含めて、これは演じるのが大変だろうなと感じました。演出の田村孝裕さんとしては、「行間の中に宝探しをするような感覚」というか、演じる上でのヒントがたくさん散らばっているはずという話を稽古場でもよくされていますし、本稿でもそれを実感している最中です。

――初稿と本稿で、どんな違いがあったのでしょうか。

伊波 上演時間に合わせて、フォーカスの当たり方が整理された形になっているように感じました。本作は現代にも通ずる、刺さりすぎてしまうぐらいの台詞や瞬間が多くありますが、観劇していただいた方が、受け取ってくださったその先で何が残ったのかの違いに幅があればあるほど面白みになる本になっているのではないかなと思います。

――共演者のお二人とは初共演ですよね。

伊波 そうですね。軸は近くも、畑の違う組み合わせで、私自身びっくりしました。今回は以前、製作のインプレッションさんとご一緒したことがあったというご縁でお声がけいただいたんですが、3人芝居ということもあって。逆に初めましての役者さん同士だからこそ織りなせる色味や緊張感みたいなものがあるのかなと思いました。

――共演は柳家花緑さんと小西成弥さんです。初めてお二人と顔を合わせた印象はいかがでしたか。

伊波 最初はビジュアル撮影の入れ替わりの時にお会いしたんですが、女性一人だけのキャストということもあって、変に気を遣わせてしまうのは嫌だなと思っていましたので。フラットに自分自身として、オープンマインドですよという気持ちを伝えられたらいいなという心でご挨拶させていただいたんですが、お二人ともすごく温かくて気さくな方々だったので、そこはひとつの大きな安心感ではありました。

――花緑さんの語り口はいかがでしたか。

伊波 落語家の方とご一緒するのは初めてでしたし、落語に触れる機会もなかったのですが、空気感やテンポ感、言葉の立ち方などに色の違いを感じました。お話の角度なんかも含めて新鮮でした。

――今まで3人舞台の経験はあったのでしょうか。

伊波 ミュージカルで経験があります。その時も男性二人女性一人という布陣だったんですが、先日30歳になったばかりで。役者として十年以上を過ぎたこのタイミングで今回のお話をいただいて、しかも会話劇ということで、新たな挑戦であり冒険だなという気持ちで飛び込みました。今回の舞台は騙し合いという側面もありますが、リズを演じるにあたって、一つひとつを丁寧に、かつ彼女のバックボーンが垣間見えるように、粛々と演じられたらいいなと思っています。

――リズという役は、どのように解釈して作っていきましたか。

伊波 実は最初に自分が想像して作っていたものとは全く変わっています。本読みの段階では、いわゆるハニートラップ的なものを仕掛ける役割を理解し、演じることを武器として真っ向から男性に対峙する女性像として作っていたんです。でも上演に向けて準備する段階で全く違うものになりました。ここまで自分の想像していた意図と違うことは初めてだったので、かなり困惑しましたし、そんなに読み解けていなかったのだろうかという不安にも駆られて。たくさん調べて、思考を巡らせた上だったにも関わらず、序盤で全部崩れた感じでした。なので早い段階で、相当心が折れかけました(笑)。

――それは3人での稽古の中で気づいたのですか。

伊波 いえ、田村さんの方向性の見出し方からです。そちらに準じて演じる方向にシフトしていこうということで、序盤で全作り直しになりました。リズはリアリストでありたいと。花緑さん演じるバリーという人気タレントは、長く芸能界を生き抜いてきた人なので、当たり前のようにハニートラップもあったでしょうし、言い寄ってきたり、たかってくる人たちもたくさんいた中で、リズという人はとても異質に映るぐらいの正義を持った人で、その部分が魅力的に映ってお話が展開されていくという方向のようで、今リズとして生きようとしている上では、佇まいや、そこに存在するだけで惹かれてしまうような部分を大切に演じることが、今の大きな指針になっています。

――伊波さんにとっても、リズは魅力的ですか。

伊波 それぞれのキャラクターが、それぞれに異質なものを持っていて、だからこそ際立っていく人間性や、その人の軸みたいなものが見えてくる瞬間が魅力に繋がるのかなと。この人は、本当はこういう人なのかな、こういうことを言ったということはこういうことを考えているのかなって、観てくださった方々が想像し得る余白がたくさんあるのだろうなと思っています。

――花緑さん、小西さんも同じように戸惑っていたのでしょうか。

伊波 だと思います。稽古中は探り探りで、いただいた航路図の中で、どこの航路に行くのか、そこに行くにはどんな道具が必要なのか。近道を選ぶのか、あえて遠回りを選ぶのか、そんなことを全員が探っている状態です。そこに田村さんが提案されるアイデアがあって、役を構築していくような、田村さん自身も3人と一緒に探ってくださっているような感覚です。立ち稽古になって、そういうやり取りが増えましたね。言い方一つとっても、みんなが台本に翻弄されています(笑)。受け手によって解釈は違うでしょうし、明確な答えはないんですよね。

――でも行動原理を明確にしないといけない部分もある?

伊波 そうなんです。「想像にお任せします」ではなく、ここはこうした方が効果的なんじゃないか、ここでこうなったら、ここじゃダメじゃないかと、曖昧な部分を1個ずつ潰していく作業を稽古場でやっています。

――稽古を重ねる中で、お二人との関係性はいかがですか。

伊波 花緑さん演じるバリーは、二人に翻弄されて、押し引きが大変な役どころだと私は感じていて。花緑さん自身、10年ぶりにお芝居の舞台に立たれるということで、笑顔ながらも、きっと不安の中で戦いながらというところもあるでしょうし、焦りすぎず、歩幅を合わせてやっていけたらいいのかなと思います。

小西さんが演じるグレッグは、一見するとリズとバディのように見えますが、前半と後半で関係値が入れ替わって、気づいたら立場が逆転することもあって、それがおかしみや楽しみにつながるように作っていきたいそうなので。だから小西さんが受けていらっしゃる演出は、すべてリズの演出にも関わるものだと思って、小西さん演じるグレッグの引き出しをみながら、心の置き所を探したり、繋げ方を稽古場でずっと考えています。

――田村さんの演出についてはいかがでしょうか。

伊波 田村さんの中に広がっている世界を、一体なにを伝えたいシーンにするのかを。どういうふうに踏襲してそれを自分がどれだけ上手く嚙み砕いて飲み込めるように思考するか。どういうアプローチがいいだろうかと様子を見ながら、時たま大胆に出てみるということの繰り返しです。8割は様子を見ながら、2割で大胆に出られる、そんな感じですね。演出をされている時はいろんな表情で伝えてくださって、時には板の上に来てくださって、役者に動いてほしい形を実際に演じてくださって、動と静を細かくお伝えする方だなと強く感じています。

――稽古場の雰囲気はいかがですか。

伊波 すごいですよ。みんな台本に集中しています(笑)。苦楽を共にしている感じとでもいうのでしょうか。だいたい1時間~1時間半ほど稽古して、10分ほど休憩して、また稽古というサイクルで進めているんですけど、それでも時間が足りないくらい。終わるとクタクタで、私は体的な疲れよりも頭が痛くなります。それだけ頭を使って短期集中しているんでしょうね……。

空手で身についた身体性や礼儀作法が今の活動に生きている

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