本の街「神保町」のシンボルが、ついに帰ってきた。2022年5月、建物の老朽化などの理由で閉店した「三省堂書店 神保町本店」が、「三省堂書店 神田神保町本店」として2026年3月19日にリニューアルオープンした。初日に行われたセレモニーには、東京都千代田区長の樋口高顕氏のほか、作家の浅田次郎氏、北方謙三氏、歌人の俵万智氏も参加した。初めて店内の全貌が明らかにされたプレス向けの内覧会の様子について、2回に分けてリポートする。

リニューアルオープンした三省堂書店 神田神保町本店
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リアル書店だから提供できる「体験」
「三省堂書店 神田神保町本店」は地上13階建てで、周囲の建物よりひときわ高く、街の象徴にふさわしい存在感を放っている。1~3階が売り場で、およそ690坪の売り場に50万冊ほどの書籍や雑誌が並ぶ。3階にカフェやイベントスペースも設け、4階には集英社のキャラクターグッズを取り扱う「THE ジャンプショップ 神保町」が入る。
この新店舗のコンセプトは「歩けば、世界がひろがる書店。」だ。決定に至った経緯について、三省堂書店代表取締役社長の亀井崇雄氏は内覧会冒頭で次のように語った。

「お客様の知的好奇心をくすぐることこそリアル書店の魅力として最大化すべきだろう、と。そのための“仕掛け”を新店舗には随所にちりばめました」と語る亀井社長
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「書店に求められる要素は2つあると思っています。1つは多くの在庫を取りそろえた本の網羅性で、もう1つは、どれだけ想定外の本に出合えるかという偶然性です。このどちらにチューニングを合わせるべきかを考えたとき、これだけネット書店や電子書籍が普及し、ワンクリックで本を買える時代に、リアル書店が追求すべきは偶然性のほうだと考えました。
目的の本を探しながら、あっちの棚も気になる。この裏には、あの奥にはなんの本があるんだろう、というふうに、お客様の知的好奇心をくすぐることこそリアル書店の魅力として最大化すべきだろう、と。
そのための“仕掛け”を新店舗には随所にちりばめました。一歩踏み出すたびに、まだ見ぬ世界が広がっていくような、まったく新しい書店の風景が誕生しました。どんどん歩いていただいて、本との偶然の出合いを楽しんでいただきたいと思っております」
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旧店舗からの人気ジャンルは継続して充実
旧店舗からの人気ジャンルは継続して充実
「まったく新しい書店の風景」の筆頭に挙げられるのが、1階の「知の渓谷」と名づけられた売り場だろう。靖国通り側の入り口から店内に入ると、中央の通路から両サイドの壁に向けて、段々に高くなる棚がいくつも並ぶ。目の前の棚を見ていると、自然と後ろの棚も目に入り、気になって引き込まれていく。両壁面の最も高い棚は、4、5段の階段を上ったところに位置する。「世界の展望台」と名づけられた空間で、そこから一望できる店内は、確かに目にしたことがない書店の風景だと実感する。「渓谷の谷底にあたる平台には新刊や話題の本、旬の本、それからわれわれ書店員が考えた企画のラインアップが並びます」と同店・杉本佳文本店長は説明する。

中央の通路から両サイドの壁に向けて、段々に高くなる棚がいくつも並ぶ、1階の「知の渓谷」と名づけられた売り場
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1階の書籍のジャンルは、文学・ノンフィクションをはじめビジネス、法律、語学・辞書、地図・旅行ガイド、雑誌、古書・洋書だ。割合として小説やエッセーなどの文芸書が多い。その理由を、「本は情報収集の手段でもありますが、本質的な価値は情緒や感性を育むものだと考えているからです」と語るのは同店の岡田健太郎副本店長だ。さらに、「文芸書で、旧店舗時代から根強い人気があったのは、外国文学やSF。わりとマニアックなもののニーズも高かったので、これらの蔵書は新店舗になっても絶対落としたくないと思い、充実させています」と言う。
文芸書の棚に設置されたデジタルサイネージでは、近隣店舗のコマーシャルと一緒に、店主が選書した本を紹介しているのも新しい試みだ。「つながる本棚 あの人の一冊」と名づけられ、選書者は飲食店やスポーツ用品店の店主だが、本の街・神保町で働いているだけあって読書家が非常に多いようだ。
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若い客層に対して失望していない
若い客層に対して失望していない
新店舗の面積は旧店舗の7割程度で、それに準じて蔵書数も7割に減り、約50万冊だ。「単に7割に減らすと“薄まって”しまうので、ネットやテレビに代替されやすいテキスト系などは少なくし、1階の文芸書、2階の人文系、3階のコミックという三省堂書店が強みとするジャンルはあまり減らしませんでした。そのかいあって、三省堂書店の会員制サービス『クラブ三省堂』のゴールド会員様を多くお招きした内覧会で、多くの方から『旧店舗より蔵書数が減った感じはしない』とおっしゃっていただけました」(岡田副本店長)
会員向けの内覧会には、50~60代の本好きが約1000人集まったという。「取引先の図書館で司書をされている方や、近隣の学生さんで図書委員をされている方を対象にした内覧会には、若い方がたくさん来てくださいました。デジタルネイティブ世代の中学生や高校生でも本当に本が好きで、読書習慣がある方々がたくさんいらっしゃって、大変うれしく思います。ニュースなどで、若者の本離れが進んでいるという話を見聞きしますが、個人的には、特に学生さんは本を読んでいると感じます」(岡田副本店長)
見つけたらうれしい隠れスポット
1階には、「知の渓谷」と「世界の展望台」以外にも、注目のスポットがもう1カ所ある。それが「ガイドの机」で、靖国通り側の入り口から見て最も奥に位置する。ここでは、著名人がお薦めする必読書を紹介する。第1回は三省堂書店の亀井社長の選書で、『水滸伝』(北方謙三著)や『燃えよ剣』(司馬遼太郎著)、『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎/古賀史健著)が並ぶ。

「1階の奥に設けられた、著名人お薦めの必読書を紹介する「ガイドの机」。見つけたらうれしい隠れスポット」と紹介する岡田副本店長
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新店舗の開店記念グッズも1階で売られている。開店に際して、商品開発プロジェクト「OASISEND(オアシスエンド)」が立ち上げられた。本を愛する人の暮らしに寄り添う商品を、さまざまな企業やクリエイターとも協力して企画・開発していくという。
第1弾の商品ラインアップで、まず目を引くのが老舗菓子店・文明堂とのコラボレーションによる限定商品「はじまりの一頁カステラ」だ。カステラの表面には本をモチーフにしたデザインが刻まれていて、特製しおり付きだ(すでに販売は終了)。また、「FUKAYOMI」というユニークな名前のビールは、本を読むときの傍らに置いてほしいビールとして誕生した。東京・北千住のクラフトビール醸造所「さかづきBrewing」との共同開発品で、芳醇な余韻を楽しめる。
ほかに、胸元に「読。」とプリントされた「読書家の嗜(たしな)みTシャツ」や、本を持ち歩くことを提案するブックショルダー、オリジナルコーヒーもあり、朝の読書用はカフェイン入りで、夜用はノンカフェインになっている。「神田神保町エリアには、これ、というおみやげがないのが現状なので、今後もラインアップを増やしていきたいと思います」(岡田副本店長)
取材・文/茅島奈緒深 写真/尾関祐治
