2026年2月19日、ダイソーが舞台の縦型ショートドラマ『異世界令嬢が転生したらダイソーの店員だった件』が公開された。

ストーリーは、大人気ゲーム『ファンタジア』の異世界令嬢マリアが、ある日突然「ダイソーの店員・安倍」に転生することから始まる。映像制作ユニット『sayona_landscape(サヨナランドスケープ)』と、ダイソーを運営する株式会社大創産業がタッグを組んだ異色の作品だ。

「オタク総研」独占で実施したの本インタビューではsayona_landscapeからは監督・編集の相馬寿樹氏、プロデューサーの湯浅敦士氏、大創産業からはグローバル広報課の後藤晃一氏が参加。

なぜダイソーがショートドラマの舞台になったのか。ダイソーと異世界の組み合わせは一体どこから――さまざまな疑問を尋ねるなかで、PRのない新たな広報の形が明らかになった。(文:川上良樹)

用意したのは、撮影場所とエプロンだけ

――初めに、本プロジェクトが始まったきっかけを教えてください。

湯浅 敦士(以下、湯浅): 私はプロデューサーとして活動するなかで、創作の原点は人との出会いにあると思っています。本企画についても、エンタメ関係者が集う場所で後藤さん(大創産業)と出会ったのがすべての始まりでした。

相馬 寿樹(以下、相馬):ダイソーが掲げる「想像を超える感動を提供」する思いは、私が作品と向き合う際のモチベーションと合致しています。

3者が揃えば、新しいインパクトが起こせるかもしれない。その瞬間の熱量を形にするかのように「ダイソーから生まれる物語」を作るプロジェクトが動き出しました。

――ダイソーは誰もが知る大企業です。こうした前例のない企画の場合、なかなか首を縦に振らないイメージがあります。

後藤 晃一(以下、後藤):もちろん組織として、一つひとつの企画に対しては慎重な協議のうえで判断しています。

ただ本プロジェクトに至っては、脚本に込められた驚きや感動を軸に、ダイソーの新たな魅力を発見できる仕掛けが施されていました。社内でも目立った懸念の声はあがらず、承認を得るまでのプロセスは非常にスムーズでした。

相馬:2025年の2月に私が話に加わり、春先には湯浅さんと協議して大まかな内容をダイソーへ提示しました。特に細かい要望がなかったことに驚きつつ、そのままキャスティングやロケハンなどスムーズに事が運んでいきました。

後藤:迅速に進行できた背景には、弊社側の負担があまりかからなかったことも挙げられます。こちらで用意したのは、撮影場所である店舗とダイソーのエプロンだけでしたので。

出演キャストの皆さんによる集合写真出演キャストの皆さんによる集合写真
唯一無二の作品づくりへの布石は、PRから解放されたシナリオ構築

ーーPRを入れず、場所のみを提供するスタンスであったと聞いています。その理由をお聞かせください。

後藤:広告要素を排除する方針については、ダイソー側から打診しました。

店舗の魅力を無理に挟むと、視聴者が作品へ没入する機会を損なうと感じたからです。映像の世界観を崩さず、ただ舞台がダイソーである事実に徹してほしいという思いがありました。

ーーPRのない戦略は、演出や作品構成にどのような効果をもたらしたのでしょうか?

相馬:特定の企業イメージに寄せることを目的に演出を行うのではなく、作品の「質」を最優先に表現を追求しました。その結果、企業プロモーションとしても効果的に機能したと感じています。

今回の作品では、「物語の舞台」「メインタイトル」「作品テーマ」といった核となる要素すべてにダイソーが含まれているからこそ、ダイソーならではの表現が本作の個性を最も鮮やかに引き出せると考えました。

そのため、物語やテーマをより的確かつ印象深く届ける演出として、「ダイソーでしかできない要素」を取り入れました。場所や商品をクリエイティブに生かした演技や脚本に加え、モーショングラフィックのデザインやクレジットの文字色にも、DAISOの要素を表現として組み込んでいます。

ただし、これらはPRや宣伝を目的としたものではありません。作者の言葉を、よりまっすぐ、より深く観客に届けるために選んだ表現です。

演出としても「映像でしか描けない美しさを表現すること」と「作者の言葉を伝えること」を貫いた結果、作品の質を追求すること自体が、企業プロモーションとしても有効な表現になり得るのだと実感しました。

ーーダイソーに異世界をプラスする特殊な発想は、当時どのようにして生まれたのでしょうか?

湯浅:ダイソーという舞台を起点に、さらなる話題性を提供する要素として私が提案しました。

視聴の判断を瞬時にできてしまう世の中で、注目を受けるにはもう一つの入口が必要です。映画やドラマに興味がなくても「異世界」というだけで妙に気になってしまう。そんな時代の潮流を掛け算した結果、唯一無二の物語が構築されていきました。

キャスティングや撮影スタイル――企業とのコラボならではの注意点

――企業とのコラボ作品を作る観点で、苦労したことはありますか?

湯浅:キャスティングの決定には、想定以上の時間を費やしました。企業色のある作品に出演いただく際は、俳優側が背負うリスクが存在するためです。

特定の企業を演じる以上、競合他社からのオファーが制限されるケースがあります。また俳優自身のイメージに「ダイソーの店員」という印象が定着してしまう可能性も無視できません。

実際には、事務所単位で前向きな返事ができないところもありました。とはいえ妥協をするわけにいかず、じっくりと探すほか手段が見当たりませんでした。

――最終的には、どのようなキャストが揃ったのでしょうか。

相馬:主演は、舞台で活躍する澄華あまねさんです。
映像作品への初出演にして初主演ながら、確かな演技で「異世界から転生した令嬢」にふさわしい気品と存在感を見事に体現してくださいました。

特殊な役柄に挑戦するにあたり、作品とキャラクターを深く愛することを、私たちの共通認識として大切にしながら向き合いました。

澄華さんは、キャラクターを価値観のレベルで理解し、その本質を繊細に演技へと落とし込んでくださいました。

現場でも自ら演技プランを提示しながら、ダイソーという舞台を最大限に生かして、縦横無尽に駆け回ってくださったのが印象的でした。説得力と熱量を兼ね備えた、主演にふさわしい演技でしたね。

もし私たちが転生して、もう一度この作品をつくることがあるとしても、マリア役は必ずまた澄華さんと一緒に旅したいと思います。

――ダイソー側の視点でも、苦労した部分があれば教えてください。

後藤:特別な苦労なく進んだ本プロジェクトですが、撮影本番ではいくつか気を張る場面がありました。

カメラを通すと、わずかな陳列の乱れさえノイズとして目立ってしまいます。物語の世界観を壊さないよう、私自身も現場で棚の状態に目を光らせる必要がありました。

ロケ地は、明日も営業を行うリアル店舗(マロニエゲート銀座店とビックカメラ新宿東口店)です。大量のストック品を画角に合わせて毎回移動させるなど、細かな部分でも協力をいただく必要がありました。

湯浅:とはいえ撮影は、営業時間外で行ったにも関わらず実質3日間で終了しています。大企業とコラボしているとは思えないスピード感のまま、ダイソーの売り場をバックにした贅沢な作品が誕生しました。

PRをしないコラボが生み出した、エンタメとビジネスの新たな価値

ーー 最後に、PRをしない異色のコラボ作品の制作で得た気付きを教えてください。

後藤:本作の公開が大手エンタメ系ニュース媒体に取り上げられたのは、予想外の効果でした。普段は接点を持つのが難しい領域へ自社の魅力を届けられたことは、前例のないコラボレーションがもたらした大きな収穫です。

相馬:PRを介在させずとも、シナリオとコンセプトが共鳴さえしていれば、双方納得する作品がつくれることを実感できました。

日本が誇る企業が、いち制作会社とともに未知の挑戦をしてくださった事実には、エンターテインメントの新しい可能性を感じざるを得ません。

後藤:この作品を通してあらためて感じたのは、たったひとつの商品でも、 人によって見える世界が異なる点です。

世間からすれば100円の商品でも、中学生のカップルにとってはおそろいで買った特別なキーホルダー。そんな美しいドラマが、日常の至るところに存在すると気付くことができました。

商品の価値を決めるのは、お客様自身である。ダイソーの「〜感動価格、感動品質〜」という社是に、自然とマッチできたプロジェクトだったのではないかと思います。

※『異世界令嬢が転生したらダイソーの店員だった件』
https://www.youtube.com/playlist?list=PL6rR85NyxXmeHXnvepnSibGj-vc6ZXE_x

※ 最新作
狛江市を舞台にした防災啓発縦型ショートドラマ『いつもの店、いつもの人』
https://www.youtube.com/playlist?list=PL6rR85NyxXmen6QsWLGHjyF2jVHF97kf6

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