IMAXでも4Dでもない。技術革新ではない、けれども
“物語の力”だけでこんなにも食らってしまうのはなぜ?
伝えたいのに、言葉にするほど大事なものが失われる気
がする。自分の目と耳で確かめてほしい唯一無二の映画
物語の力“だけ”で、観客の記憶に永遠に残り続けるであろう“稀代の映画”を観た。
タイトルは「ハムネット」、公開日は4月10日。
第93回アカデミー賞を席巻した「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督最新作にして、第50回トロント国際映画祭で最高賞(観客賞)、第98回アカデミー賞で主演女優賞に輝いた超注目作――。

日本でも公開前に極めて大きく注目されており、映画業界では「マスコミ試写が満席続出=予約がとれない」と話題に。
そんな噂を聞きつけた映画.com編集部が早速鑑賞してみると……
「IMAXカメラで撮られた大迫力の爆発もなければ、座席が揺れる4Dのギミックもない。しかし本作は、どんな技術革新よりもすさまじい没入感があった」
「別格の一本」
「果てしなく泣いた。どれだけ言葉を尽くしても、この体験の本質から遠ざかってしまう気がする。だから、プロ失格だけど、何も言いたくない」
【予告編】あなたは生き続ける。 【レビュー】この映画を正確に言語化することは困難…
ただ、確かなことは、“別格の映画体験”が待っている。
では早速、本題だ。映画.com編集部の感想をお伝えしよう。
本作の “物語が持つ原始的な力”に圧倒された者、そして子を持つ親の立場で心を揺れ動かされた者……記事を読み終えたら、すぐにご自身の目と耳で実際に“体感”することをおすすめする。
[観終わった後、どんな言葉も陳腐に思えてしまう]
こんなにも食らってしまうなんて。こんな映画に出合えるなんて。(30代女性)
ああ、久しぶりに良い時間を過ごしたな、と思う。
まさに“映画”を観た。“物語”に触れた。こんなにも“食らってしまう”ことがあるなんて。
私には夫もいないし、子どももいない。だから本作に対し、最初は「冷静に、客観的に」評するつもりだった。クロエ・ジャオ監督の自然光を活かした演出がどうだとか、アグネス役のジェシー・バックリー、ウィリアム役のポール・メスカルの抑えた演技の計算がどうだとか、いかにもな言葉を並べる準備をしていた。

でも、冷静に客観的になんて無理だった。
普通の作品は、言葉を重ねればその内容を的確に表現できるもの。しかし本作「ハムネット」は、語れば語るほど“大事なこと”から離れていってしまうような気がする。

だから言葉にできない。しかし、何とか言葉にしてみる。観る前の人は抽象的すぎてよくわからないかもしれない。けれどこれは、本当にすごい体験だったのだ。
●アトラクション的体験や技術革新とは“逆行”する…
それなのに、物語の力で、すさまじい没入感と感動を生む
近年はIMAXやDolby、4Dなど、映画館でのアトラクション的な体験が人気を博している。しかし本作は、そんなトレンドから力強く逆行するかのごとく、わかりやすい技術革新は一切使っていない。なのに、なんだこのすさまじい引力は。
ただただ“物語”の力がすさまじい。

それは“原始的な力”と言えるほどの魔力だった。アグネスの圧倒的な愛と、自然のなかで見せる生命力。そして絶望の淵で叫んだ獣のような慟哭。すさまじい衝撃だった。独身だとかライターだとかすべての属性を超え、1人の人間として私にまっすぐ届き、結果的に私はスクリーンに向かって嗚咽することしかできなくなった。
うまく言えないし論理が飛躍しているが、私は直感的に
「この作品を映画館で観ないと人生の損だ」
と思った。映画館で味わってほしい。観ているこちらの魂まで削り取るようでありながら、鑑賞後には不思議なほど愛おしい光とあたたかな希望で満たされる、この感覚を。
●「プロ失格」と笑ってもらって構わない。
そうしたいほどの作品に出合えた。
今、「今年最高の傑作」「今年一番泣いた」だの、手垢のついた言葉を書いては消している。違う。こんな綺麗事で片付けられるような、生半可な代物ではなかったのだ。
本作が孕む、美しくも激しい感情の奔流。言葉にするほど、大事なことが指の隙間から砂のようにこぼれ落ちてしまう。私のボキャブラリーの枠に押し込めようとすること自体が、もはや罪に思えてくる。
だから決めました。
もう、書くのを放棄します。

「プロ失格」と笑ってくれて構わない。そうしたいほどの作品に出合えた喜びでいっぱいなんです。
お願いだから、あなたの目と耳で観て、聞いて、この映画を直に味わってきてほしい。今の私には、それしか言えないのです。
[もう1人、子を持つ30代男性の「ハムネット」体験談]
いきなり余談だが、配給・宣伝の方々は、本作の本予告を泣きながら制作したらしい(それほど物語に深く感動したということだ)。だから僕はこの本予告がとても好きだ。
「ハムネット」を観た直後、僕は感想を言えなかった。

頭のなかでは言葉が湯水のごとく溢れ出している。なのに、声に出せない。うっかり口を開けば、そのまま堰を切ったように泣き崩れてしまいそうだったから。
映画を観てこれほど感情のコントロールが利かなくなったのは、初めての経験だった。
●ふとした瞬間に、シーンがフラッシュバックする。
愛は死なない。形を変えるだけ――生涯忘れ得ぬ1本になった
毎日元気いっぱいに走り回る2人の幼い息子たちを、妻とともに育てている、いち父親として。
鑑賞から数日が経った今も、映画の記憶が日常でフラッシュバックする。例えばシャワーを浴びているとき、家族と食事をしているとき。
ウィリアムの表情。曲がり角での「さよなら」。差し伸べられた手。

思い出すたびに目の奥が熱くなり、指先がチリチリし、泣きそうになってしまう(今も景色がぼやけている)。
クロエ・ジャオ監督は、本作に際し
「愛は死なない。形を変えるだけ」
と言った。

「ハムネット」が描くのは、トラウマのような暗く冷たい感情ではない。決して。深い喪失と悲しみの底から、それでも立ち上がる力を与える、どこにでもありふれている「愛」の強さだ。
本作の記憶が、全身をじんわりと温め続ける。この感覚がずっと消えないでいてほしい。
だから「ハムネット」は、間違いなく、私の生涯において忘れ得ぬ“珠玉の1本”になった。
【驚異の評価・話題性・キャスト&スタッフ】本作は今
この世界で、最も注目されている映画のひとつである。
主観的なレビューの対になるように、客観的事実をもとに本作の“価値”をご紹介しよう。「ハムネット」の何がそこまですごいのか――。
●【“今年最大級”の高評価作】
アカデミー賞で8部門ノミネート&主演女優賞受賞。映画祭で目の肥えた観客が号泣、重要な賞を次々と獲得
第98回アカデミー賞で主演女優賞初ノミネートにして初受賞を果たしたジェシー・バックリー(アグネス役)
写真:ロイター/アフロ
第50回トロント国際映画祭でお披露目された本作。メディアからは「北米の都市を涙に沈めた最高傑作」「2025年で最も心を打ち砕く映画」と最大級の賛辞が送られ、同映画祭の最高賞である観客賞に輝いた。
また、第83回ゴールデングローブ賞での作品賞と主演女優賞の2部門受賞や、SAG賞では主演女優賞を獲得。本年度のアカデミー賞では作品賞ほか堂々の8部門ノミネートを果たし、そのうち主演女優賞を制することに。
まさに本年度賞レースの大本命、ゆえに必見の一作なのだ。
●【日本でも“公開のずっと前から話題噴出”】
マスコミ試写で異例の満席続出&キャンセル待ちの事態! 業界人が我先にと、こぞって観たがる大注目作に
日本のマスコミ向けに実施される試写は、通常、満席になることはあまりないのだが、上述の話題性からか、本作は勝手が違った。
マスコミ試写の予約が開始されるや否や、あっという間に全日がほぼ満席状態に。キャンセル待ちが発生するなど、業界人が我先にと観たがる大注目作の様相を呈していた。
●【“完璧”といえるスタッフ&キャスト陣】
アカデミー賞作品賞「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督最新作。製作はスピルバーグ&「007」のサム・メンデス、さらにジェシー・バックリー×ポール・メスカルが魂の熱演
スタッフ&キャスト陣の名前をみれば、話題や評価も「なるほど」と納得するだろう。
メガホンをとったクロエ・ジャオ監督をはじめ、製作には巨匠スティーブン・スピルバーグ、そして「007」シリーズなどで知られるサム・メンデスが参加し、傑作の風格が大いに漂っている。
さらに、本作でアカデミー賞主演女優賞を獲得し世界中から熱視線を浴びるジェシー・バックリーと、飛ぶ鳥を落とす勢いの大注目株ポール・メスカルが、まさに魂の熱演としかいいようのない演技をみせつける。

ほかにも本作でデビューした子役ジャコビ・ジュプ(ハムネット役)が、とにかく恐ろしいほど観る者を惹きつける。ちなみにジャコビが兄ノア・ジュプ(「ワンダー 君は太陽」「フォードvsフェラーリ」などの“あの子”だ)と共演している点も見逃せない。2人の役柄の“シンクロ”ぶりにぜひご注目を。

また編集、撮影、美術、照明など、技術面のどこをとっても規格外の美しさ・素晴らしさ。それらが大スクリーンと音響で渾然一体となった破壊力たるや、映画館でしか味わえない“魔法”があることをまざまざと証明している。
ゆえに、何としても、映画館で堪能することを強くおすすめしているのだ。
●【最後に】
「美しく練られた、胸に突き刺さるパンチ」「私なら、念のためハンカチを持っていく」
海外メディアが寄せた本作への短評で、本記事を締めくくりたいと思う。
・死と悲しみという「未知の世界」を深く見つめる、胸が締め付けられるような作品だ。(エンパイア・マガジン)
・しばしば枠からはみ出してしまうものについて瞑想的に考察する本作は、文字通りの啓示である。同時に、美しく練られた、胸に突き刺さるパンチでもある。(ワシントン・ポスト)
・本作は、容赦ないほどに観客の感情を激しく揺さぶってくる。もしかしたら、あなたはその波に抗うことができるかもしれない。だが私なら、念のためハンカチを持っていく。(スペクテイター)
