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ビジュアルによるストーリーテリングが本当に巧すぎる。
カナダのパートと韓国のパートでアスペクト比を変えることで、異国の地で生きる閉塞感と故郷の安心感・開放感をさりげなく演出している。
ドンヒョンが自身のバックボーンの不在から迷走している様を髪色やカラコンで表現するのも非常に巧み。
また食事のシーンがかなり強調して挟み込まれるのも大きな特徴と言える。
韓国語で”家族”という言葉は”一緒に食べる人たち”と同義だそうで、作中でもドンヒョンがサイモンと食卓を共にするのを拒んだり、ソヨンらを家族と認めない義母が食卓に背を向けていたりと、”家族”と”食事”が強くリンクされて描かれる。
今作はドンヒョンのアイデンティティを辿る物語であり、物心ついたころにはすでにカナダに移住していたドンヒョンと、韓国に自身のルーツがあるということを強く自覚しているソヨンとの対比がわかりやすく描かれる。
確立した自己を持つソヨンは、食べるものから話す言葉から一切ブレず、移住して9年が経っても未だに難しい単語は辞書を引きながらじゃないと理解できない。
職場での同僚だって移民仲間ばかりで、現地の人間と交流する場面はほとんど描かれない。
一方自身の確固たるルーツを知らないドンヒョンは、周りに溶け込むために、話す言葉も見た目もどんどん現地人に寄せていく。
そんな中でソヨンの末期癌が発覚し、母子で家族のルーツを辿るため韓国に帰郷する。
自身の本当の出自を知る過程でドンヒョンの表情は次第に朗らかになっていく。
この帰郷は彼ら母子にとっての”高麗葬(コリョジャン)”だったことがよくわかる。
「男が泣いていいのは人生で3度だけ」というソヨンの教えは、一見乱暴に聞こえるけれど、シングルマザーなりに息子に生きる術を教えたかったんだなぁと涙。
そしてその教えを受けたドンヒョンが終盤に涙を流す瞬間にまた涙。
韓国パートが夜明けで始まり夕暮れで幕を閉じるのが非常に印象的。
特に夜明けのカットは、画角の拡張に伴う開放感も相まった果てしない美しさに圧倒される。
原題『Riceboy Sleeps』の示す通り、異国の地で蔑称をつけられ塞ぎ込んでしまったドンヒョンのアイデンティティの目覚めを象徴しているようにも感じた。
