マネジメント関連の書棚に面陳列で展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

マネジメント関連の書棚に面陳列で展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。

今回は、定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。ビジネス書の売れゆきは、年度替わりで1年ごとや四半期ごとに定期刊行される書籍やムックのまとまった注文が相次ぎ、好調だという。そんな中、書店員が注目するのは、人事のプロが「共感」をキーワードにミドルリーダーに不可欠なコミュニケーションスキルの身に付け方を説いた本だった。

ソフトバンク出身、「汐留の母」

その本は澤田清恵『上司の「コミュ力」大全』(ダイヤモンド社)。書名の前に「伝え方ひとつで部下が動き出す」との副題が付く。著者の澤田氏はソフトバンクで15年にわたり人材開発に従事し、2016年に人事コンサルティング会社、カドル(東京・千代田)を設立して独立した人材開発・リーダー育成のプロだ。30年で4万人以上の人材育成に携わったといい、ソフトバンク時代は惜しみなく若手社員の相談に乗っていたことから、「汐留の母」とまで呼ばれていたという。

そんな人事のプロが、その経験を一冊にまとめ、「人を動かすコミュ力」とは何か、どのように育てていけばよいかを説いたのが本書だ。

人を動かすコミュ力の核は「共感力」だと著者は言う。共感力には相手の感情に反応して自分も同じように感じてしまう「情動的共感」と、相手の視点に立って感情の状態を理解する「認知的共感」があり、この「認知的共感」をどう磨き、どう生かしていくかを軸に解説していく。

共感力を上げるにはまず土台となる思考法があるという。代表的なものがチャンクアップだ。著者によれば、チャンクアップとは抽象度を上げる、視点を高くする思考法。これにチャンクラテラルという「同じ抽象度のまま、他の選択肢を横に広げて提示する手法」を組み合わせれば、上っ面の共感ではなく、より深い本質的な共感へと高められると説く。

心・技・体と3つのセオリー

次に示すのが、共感できる人が無意識にやっている「心・技・体」。心については、相手の話のすべてを受け止める覚悟が必要と説き、技では、相手に応じて伝わり方や関わり方を柔軟に変える工夫を、視覚、聴覚、身体感覚という相手の感覚タイプ別に解説する。体については、呼吸や心身のリズムを相手と調和させることが基本だと説き、早口なら早口で、ゆったり話す人にはゆったりと受け答えするといいという。

こうした心技体で臨んだ上で、①すべてをうのみにせず、「本当にそう?」と心で問い直す②自分の「前提」を脇に置き、相手の「前提」に立って聴く③「感情」に惑わされず、「無意識の変化」に注目する――という3つのセオリーを行動指針にしてコミュニケーションの場で実践すれば、共感上手として組織やチームの信頼感を高められると著者は言う。

このように基本となる共感力を示した後、相談や声かけを円滑に進めるちょっとしたテクニックや事前準備、自己分析、さらには共感力を高めるトレーニング法、自ら経験した失敗からの学びなどを、幅広く語っていく。

部下とのコミュニケーションがうまくいかないと悩んでいるミドルリーダーにとっては、コミュニケーションを改善するヒントがいろいろと得られるだろう。「メインの平台に並べているわけではないのに、意外に手に取っていく人が多い」と、店長の瓜生春子さんは話す。

『ITロードマップ 2026年版』が2位

それでは、先週のランキングを見ていこう。

(1)アクションファースト杉野Scott祐介著(幻冬舎)(2)ITロードマップ 2026年版野村総合研究所IT基盤技術戦略室・NRIセキュアテクノロジーズ著(東洋経済新報社)(3)公開買付・大量保有報告制度の改正と実務対応太田洋ほか編(商事法務)(4)ずる賢い人のための億万長者入門佐野Mykey義仁著(KADOKAWA)(5)高市外交の正念場山上信吾著(徳間書店)

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2026年3月23~29日)

1位は米西海岸でコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)活動の成果を上げてきた著者による実践的な手引書。2位は毎年刊行されるIT(情報技術)関連の技術動向を予測したリポートの2026年度版だ。3位には、5月に施行される公開買付・大量保有報告制度に関連した実務書が入った。4位はユーチューブで人気の起業家・投資家が資本主義を思考ゲームと捉えて、その攻略法・行動戦略を説いた本。5位には、高市早苗首相の外交の課題について、元外交官が論評した本が入った。今回紹介した『上司の「コミュ力」大全』は9位だった。

(水柿武志)

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