東京・新宿区にあるSAKANA BOOKSは、株式会社週刊つりニュースが運営する、水生生物に特化した本屋さんだ。釣りや水生生物の世界を広く知ってもらおうと、2022年、本社ビル1階を改装して開業。魚の図鑑、写真集、読み物、研究書、料理本、雑誌や同人誌など、約1500点がそろう。同店のスタッフで、淡水魚ファンでもある川村まなみさんに話を聞いた。

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本社の応接スペースを改装し書店に

先日初めてお店を訪れたとき、魚に関係する本がズラリと並んでいて、特段この分野に興味があったわけではない私でも、読みたい本が何冊も見つかりました。そもそも、当店はどういう経緯で始まったのですか?

川村まなみさん(以下、川村さん) 当店を運営している株式会社週刊つりニュースは、つりの新聞やWeb媒体、書籍を発行する会社です。2022年、魚のことをもっと知ってもらいたい、好きになってほしいという社長の一声で本社ビル1階の応接スペースを改装して開店しました。

 私は開業時から担当していた者に代わり、24年当店のスタッフになりました。私のほか日替わりで店に入るスタッフが何人かいます。以前私は古書店など別の職場で働いていましたが、「魚が好きな人、本が好きな人求む」というSAKANA BOOKSの求人を見つけ、「これはいいぞ!」と応募、採用されたのがきっかけです。

SAKANA BOOKSスタッフの川村まなみさん。科学技術コミュニケーターの肩書も持つ

SAKANA BOOKSスタッフの川村まなみさん。科学技術コミュニケーターの肩書も持つ

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さまざまなサカナの楽しみ方を提案

お店の方針を教えてください。

川村さん 淡水魚、海水魚、深海魚、貝、タコ、イカ、クジラやイルカなどの海獣、ヤドカリ、海藻、水草、寄生虫──水生生物の世界には、はまりそうな“沼”がたくさんあるので、それらの本を満遍なく集めています。ここにある本の数だけ、サカナの楽しみ方があります。サカナ好きではなかった人がサカナ好きになり、サカナ好きだった人はもっと好きになることを目指しています。

川村さんはどんな魚が好きなんですか?

川村さん 私は淡水魚好きです。東京・三鷹の「井の頭自然文化園」には淡水生物だけの水族館(水生物館)があります。小さい頃そこに通っているうち、好きになりました。大人になってからは自分で道具をそろえ、本などを参考にして、野外で魚を捕ることもあります。胴長(胴付き長靴)を着て川に入り、たも網で魚を捕まえます。アクリルの水槽に入れて魚を眺めたり、写真を撮ったりして愛(め)でます。

 今の仕事についてから、海の魚にも詳しくなれるよう意識しています。「すごいな、海も川も、魅力的な魚だらけだ」と日々驚いています。スタッフに海水魚ファンがいまして、よく誘われるのですが、“沼”が深すぎて、手を広げるのはまずいかもしれません。

店内を案内していただけますか。

川村さん こちらは「サカナアパートメント」と呼んでいます。月額制で棚主を募集しており、各棚では棚主たちがそれぞれの「好き」を表現した作品を売っています。

 例えばこの『深海水族』は、深海にいる魚や無脊椎動物のイラストを描いている石井英雄さんという方が自費制作したイラスト集です。石井さんは『深海の生き物 超大全』(彩図社)という一般書も出しています。

サカナについての作品や書籍が並ぶ「サカナアパートメント」

サカナについての作品や書籍が並ぶ「サカナアパートメント」

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『深海水族 深海魚編』(自費出版)と『深海の生き物 超大全』(彩図社)。著者の石井英雄さんは、会社勤めの傍ら週末は国会図書館に通い、模写と情報収集をしている(刊行時)

『深海水族 深海魚編』(自費出版)と『深海の生き物 超大全』(彩図社)。著者の石井英雄さんは、会社勤めの傍ら週末は国会図書館に通い、模写と情報収集をしている(刊行時)

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 深海魚はとても人気があります。調査の技術が進み、毎年のように深海生物の新種が記載されています。とりわけ水中ドローンの進化によって、入り組んだ地形の奥のほうまで探索できるようになり、新発見が相次いでいます。

 この『生きているシーラカンスに会いたい!』(岩田雅光著/新日本出版社)は、深海のシーラカンスを探す冒険譚(たん)です。著者は刊行当時、「アクアマリンふくしま」のシーラカンス研究所統括学芸員で、昨年はシーラカンスを追ったNHKのドキュメンタリー番組にも登場されていました。

『生きているシーラカンスに会いたい!』(岩田雅光著/新日本出版社)

『生きているシーラカンスに会いたい!』(岩田雅光著/新日本出版社)

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お店のロングセラーはどれですか?

川村さん 『岸壁採集! 漁港で出会える幼魚たち』(鈴木香里武著・写真/JAM HOUSE)は、子どもたちに人気のロングセラーです。鈴木さんは幼魚水族館の館長で、「お魚王子」としてテレビでもおなじみ。漁港の岸壁からたも網を伸ばして魚の赤ちゃんを採集する方法を紹介しています。もっとも地域によっては採集を禁止しているところもあるので、やってみたい方は事前にルールを確認してください。

『岸壁採集! 漁港で出会える幼魚たち』(鈴木香里武著・写真/JAM HOUSE)。著者は静岡県清水町柿田川にある幼魚水族館の館長

『岸壁採集! 漁港で出会える幼魚たち』(鈴木香里武著・写真/JAM HOUSE)。著者は静岡県清水町柿田川にある幼魚水族館の館長

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こちらはSAKANA BOOKSから刊行している本ですね。

川村さん 書店をやるのであれば、雑誌も作ろうと始めたのが『サカナト』(vol.1、vol.2)です。書店のコンセプトと同じく、“沼別”というか、サカナとさまざまな関わりを持っている方々に登場いただき、サカナの魅力を語ってもらっています。

 『水族館人』は、水族館に携わる人=水族館人のインタビュー集です。水族館というと、飼育員が登場することが多いのですが、飼育員以外にも、サカナを手配する人、水槽を作る人、サカナにインスピレーションを受けて漫画を描いている人など、多様な切り口から水族館を取り上げています。

SAKANA BOOKSレーベルから刊行している『サカナト』(vol.1、vol.2)と、『水族館人 今まで見てきた景色が変わる15のストーリー』と続編『水族館人2 情熱と未来をめぐる15のストーリー』

SAKANA BOOKSレーベルから刊行している『サカナト』(vol.1、vol.2)と、『水族館人 今まで見てきた景色が変わる15のストーリー』と続編『水族館人2 情熱と未来をめぐる15のストーリー』

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 当店には同人誌や自費出版物がたくさんあります。こちらは京都大学淡水生物研究会が作った同人誌『疏水』と、大学祭で企画した「大ヨシノボリ展」の図録で、よく売れています。

 ヨシノボリというのはハゼの仲間で、おなかに吸盤状のヒレがついており、葦(よし)原を上るところから、その名がついたとも言われます。分類が難しく、まとまった本がほとんどありません。日本各地の水域ごとにご当地ヨシノボリがいて、地味ですが、心を奪われるファンがたくさんいます。

『大ヨシノボリ展記念図録 第66回京都大学11月祭 京都大学淡水生物研究会企画展』

『大ヨシノボリ展記念図録 第66回京都大学11月祭 京都大学淡水生物研究会企画展』

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魚のプロも来店

こちらには料理関連の棚ですね。

川村さん 当店には鮮魚店や寿司店など、魚のプロの方もいらっしゃいます。『ぼうずコンニャクの日本の高級魚事典』(藤原昌高著/三賢社)、『からだにおいしい魚の便利帳』(同/高橋書店)はいずれもロングセラー。著者の藤原昌高さんは「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」というウェブサイトを主宰していて、ネットでも人気です。

 『魚食え! コノヤロー!!!』と『魚屋の名物店主が教える おいしい魚まるみえ図鑑』(イラスト:わたなべみきこ/KADOKAWA)の著者、森田釣竿さんは鮮魚店の店主で、「漁港」というロックバンドもやっている人。NHKの『ギョギョッとサカナ★スター』という番組にさかなクンと一緒に出演していることもあって、当店に来る子どもたちは、森田さんのことを皆知っています。

『魚食え! コノヤロー!!!』(時事通信社)と『魚屋の名物店主が教える おいしい魚まるみえ図鑑』(イラスト:わたなべみきこ/KADOKAWA)。著者の森田釣竿さんは、千葉県浦安市にある鮮魚店「泉銀」3代目。「漁港」というロックバンドのリーダーでもある

『魚食え! コノヤロー!!!』(時事通信社)と『魚屋の名物店主が教える おいしい魚まるみえ図鑑』(イラスト:わたなべみきこ/KADOKAWA)。著者の森田釣竿さんは、千葉県浦安市にある鮮魚店「泉銀」3代目。「漁港」というロックバンドのリーダーでもある

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『白鯨』(ハーマン・メルヴィル著)や『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ著)など、水の生き物が登場する小説もそろっていますね。お薦めはありますか。

川村さん 『山椒魚戦争』(カレル・チャペック著/栗栖継訳/岩波文庫)は、具体的な魚の話ではないのですが、サンショウウオの形をした新種の生物が発見され、次第に人間社会を侵食していくというSFの傑作です。私も読みましたが、とても面白いです。

『山椒魚戦争』(カレル・チャペック著/栗栖継訳/岩波文庫)

『山椒魚戦争』(カレル・チャペック著/栗栖継訳/岩波文庫)

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海水温の上昇や乱獲などによって、日本の漁獲高は減少傾向にあります。魚に関わる環境問題についてお薦めの本はありますか?

川村さん 『サケマス物語 魚の放流を問いなおす』(森田健太郎著/ちくま新書)は、サケやマスを放流することのメリット・デメリットを論じています。魚の放流は、人が自然の競争環境を奪ってしまい、結果的に魚の増加につながっていないのではと、問題提起をしています。

『サケマス物語 魚の放流を問いなおす』(森田健太郎著/ちくま新書)。「カムバックサーモン」のスローガンに象徴されるように、サケマスの放流は良いことと思われてきたが、本書では改めてそのメリット・デメリットを議論

『サケマス物語 魚の放流を問いなおす』(森田健太郎著/ちくま新書)。「カムバックサーモン」のスローガンに象徴されるように、サケマスの放流は良いことと思われてきたが、本書では改めてそのメリット・デメリットを議論

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SAKANA BOOKSの隣には、「釣り文化資料館」があります。

川村さん 釣り文化資料館では日本の釣り文化を担ってきた伝統的な和竿(わざお)、魚籠(びく)などの釣り具、書籍を展示しています。ここの通路に椅子とスクリーンを置いて、イベントを行うこともあります。昨年は深海魚の図鑑の著者を招いたトークショーを行い、大いに盛り上がりました。

釣り文化資料館は、つりニュース創業者の船津重人氏が集めたコレクションに加え、全国から寄贈された伝統的釣り具を展示している

釣り文化資料館は、つりニュース創業者の船津重人氏が集めたコレクションに加え、全国から寄贈された伝統的釣り具を展示している

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最後に、SAKANA BOOKSを訪れたついでに立ち寄りたいお薦めスポットはありますか?

川村さん お子さんと一緒でしたら、東京おもちゃ美術館と消防博物館がお薦めです。大人の方でしたら、「Science Bar INCUBATOR」が面白い。科学をテーマにしたバーで、フラスコに入ったお酒が出てきます。実験が好きな人ははまると思います。

取材・文/桜井保幸 写真/木村輝

参考サイト
SAKANA BOOKS

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