アートファンに長年親しまれているNHKの「日曜美術館」がギネス世界記録™に認定され、3月27日、東京藝術大学大学美術館で記念のセレモニーが行われました。

世界記録とされたのは「週間ファインアートテレビ番組の最長放送(Longest running TV arts programme)」のカテゴリーで、1976年の放送開始から、今年3月22日の放送をもって放送50年(49年と346日)を迎えたことが対象。この日は同美術館で28日に開幕する「NHK日曜美術館50年展」の取材会を開催され、出席した前司会者の井浦新さんと、現司会者の坂本美雨さんに認定証が贈呈されました。

守本奈美アナウンサー(左)も交えてギネス世界記録の認定証を披露しました(東京藝術大学大学美術館で)

井浦さんは「これまでに番組に関わった方々、みなさんの並々ならぬ努力の賜物です。ひとつの番組を50年続けるというのは本当にとんでもないこと。少しの期間ですが、番組に関わらせていただいたことを光栄に思います」。坂本さんは「一本一本の番組を、たくさんのスタッフの方が丁寧に作られているのを間近で見ているので、それが50年を刻んだのだと思います。本当におめでとうございます」とスタッフや関係者にお祝いの言葉を贈っていました。

(美術展ナビ編集班 岡部匡志)

NHK日曜美術館50年展

会場:東京藝術大学大学美術館(東京・上野)

会期:2026年3月28日(土)~6月21日(日)

休館日:月曜日(ただし5月4日は開館)

開館時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)

観覧料:一般2,000円/高大学生1,200円/中学生以下無料 ※春爛漫!期間限定 大学生以下無料デー(3/31(火)~4/10(金)までの平日、対象者は学生証持参)

公式サイト:https://nichibiten50.jp/
*会期中、一部作品の展示替えがあります。

巡回先:静岡県立美術館2026年7月18日(土)~9月27日(日)/大阪中之島美術館2026年10月10日(土)~12月20日(日)

プレビュー記事
本展の見どころ

1.放送50年を迎えるNHK「日曜美術館」を彩った、120点を超える名品を展示。西洋・日本の絵画や彫刻、浮世絵、屏風、土器、伝統工芸などジャンルを超えた名品が勢揃いします。

2.貴重な当時の番組映像・出演者たちがつむいできた言葉が展示室内に! 出展作品がどのように語られ、紹介されたのかを当時の映像や言葉とともに追体験出来ます。

3.第5章 作家の生き様と美~アトリエ&創作の現場では、創作現場の貴重な映像が登場! 制作中の作家の言葉・作品が生み出される瞬間を、作品と共に味わうことが出来ます。

エドヴァルド・ムンク 《マイスナー嬢の肖像》 1907年 ひろしま美術館蔵
第1章 語り継ぐ美 ~時を超えて美を語る言葉・語らせる作品

1976年4月、日曜美術館は「私と○○」という企画で放送を開始しました。各界の第一線で活躍するゲストが、敬愛する作家や作品への思いを語り、美の本質や創作の背景に迫る内容でした。50年を経た今も、「美を語る言葉」を大切に伝えるという精神は息づいており、繰り返し取り上げられる作家や名品も多くあります。一人のゲストが同じ作家を30年後に再び語ることもあり、語りの熱は時代を超えて受け継がれています。それは作品自体が「語らせる」力を持ち、人々に感動と表現への衝動を呼び覚ます証です。

大江健三郎が語るフランシス・ベーコン、舟越保武が伝える松本竣介、モデルとなった矢内原伊作が伝えるアルベルト・ジャコメッティなど、各界の第一線で活躍するゲストの言葉と古今東西の作家と作品を紹介します。

ポール・セザンヌ 《水浴》 1883-87年 公益財団法人大原芸術財団 大原美術館蔵

セザンヌ×吉田秀和(音楽評論家)
水浴図というのが自然の中にあるものを再現したような絵であるどころか、彼が求めていたあるいは心の中でみていたあるファンタスティックな世界の絵画的実現だ。(音楽評論家 吉田秀和 1996年12月1日放送「セザンヌはなぜ“水浴図”を描いたか」 より)

オーギュスト・ロダン 《考える人》 1880年 静岡県立美術館蔵

ロダン×舟越桂(彫刻家)
ロダンの技術はすごいが、イメージ力というのか、彫刻に物語を組みいれていくときの発想力がすごいなと思う。(彫刻家 舟越桂 2009年6月14日放送 「ロダン 新たな生命の探求者」より)

アルベルト・ジャコメッティ 《ヤナイハラⅠ》 1960-61年 国立国際美術館蔵 撮影:福永一夫

ジャコメッティ×矢内原伊作(哲学者)
ジャコメッティのそういう真実を追求してやまない情熱っていうか。 それこそ真剣な仕事のしかた、あるいは生き方そういったものに非常に私は感動した。(哲学者 矢内原伊作 1977年6月12日放送 「私とジャコメッティ」 より)

岸田劉生×会田誠(美術家)
強い意思を感じますね。 筆先にこう、力がこもっている。こうねりねりと、練り込むような感じで。 決意がこもったような独特な圧がありますよね。俺、俺を見ろ!みたいな。俺が俺であることが大切だというアピールというか。(美術家 会田誠 2019年9月29日放送 「異端児、駆け抜ける!岸田劉生」 より)

石田徹也 《飛べなくなった人》 1996年 静岡県立美術館蔵

石田徹也×大槻ケンヂ(ロックミュージシャン)
幼い頃の「未来に対して、人生に対して不安だ」みたいな、みんなが持っているそういうモノを彼が一身に引き受けて絵にしていたかのようなイメージを僕は受けましたね。(ロックミュージシャン 大槻ケンヂ 2006年9月17日放送 「悲しみのキャンバス 石田徹也の世界」 より)

松本竣介×舟越保武(彫刻家)
少しほかの風景と違ったかわいらしいというとおかしいが、ほとんどの人はこれが好き。ルソーと共通したものが、素朴なものが出ているし、あそこ歩いているのは竣介という風に私は見てます。いつもひとりで歩いてましたから。非常にきれいな統一された雰囲気をもっておりますね。(彫刻家 舟越保武 1977年10月23日放送 「私と松本竣介」 より)

第2章 日本美の再発見 古代から明治まで

1950年代の岡本太郎による縄文の美の再発見、1970年代の辻惟雄による江戸の奇想絵画の評価、そして琳派や浮世絵を現代アーティストが再解釈する動きなど、日本美術には、時代や人物の視点によって新たな光を放つ魅力があります。

1976年に始まった「日曜美術館」は、放送初期から北斎や若冲を紹介してきましたが、2016年の若冲展では空前の行列が生まれ、日本美の再評価を象徴しました。2000年代以降は奇想の絵師の特集が増え、「“にっぽん”美の旅」シリーズでは井浦新さんの企画により縄文の美が数多く取り上げられました。

村上隆、大野一雄、井浦新らがつむぐ言葉で、縄文土器・土偶、伊藤若冲、曾我蕭白、葛飾北斎など、日本美術の名品が再び輝きだします。

《縄文土器 深鉢 火焔型土器》 新潟県長岡市 岩野原遺跡出土 縄文時代(中期) 國學院大學博物館蔵

縄文土器×冨永愛(モデル・俳優)
きっと今より厳しい環境で生きていて、その中でもちょっとした楽しみだったりとか、 喜び、幸せというものをより噛み締めて、より大事にして生きてるんだろうなって思うと、アートっていうものがそれに寄り添ってきたんじゃないかなと思いますよね。やっぱり人って生きてる中でどうしてもアートしちゃうんじゃないかなって思います。(モデル・俳優 冨永愛 2026年1月4日放送 「放送開始 50 年特集 時を超え 美を語る」 より)

曾我蕭白×大野一雄(舞踏家)
蕭白は私の大先生。なぜなら非常に粗放、あらっぽくみえるけど非常に繊細。目を見ても繊細極まる目だけど、普通の目じゃなくて、浮世をのぞき見しているような。宇宙の構造というか私の構造というか、そういうものとの出会いのような感じで、極まりなく感動をいつも受けさせてもらっている。先生のおかげですよ。(舞踏家 大野一雄 1997年2月16日放送 「奇想の魂 大野一雄・蕭白を舞う」 より)

重要文化財 伊藤若冲 《蓮池図》 江戸時代・天明9年(1789) 大阪・西福寺蔵 ※後期展示:5月12日(火)〜6月21日(日)

伊藤若冲×村上隆(アーティスト)
世界を全部自分の手元に捕まえたいという欲求が投影されてる。リアルな自分と等身大の世の中を自分の中に取り込みたいという心の平静の境地がこの作品にある。(アーティスト 村上隆 2000年11月12日放送 「奇は美なり 若冲・細密の世界」 より)

月岡芳年 《義経記五條橋之図》 明治14年(1881) 横浜美術館蔵(加藤栄一氏寄贈)

月岡芳年×楳図かずお(漫画家・芸術家)
弁慶の足元、ドキッとする。ポーズも普通の人は描かない、ドラマチックですよね。今生きていたら映画とか漫画とか作っていそうだな。(漫画家・芸術家 楳図かずお 1999年5月16日放送 「最後の浮世絵師 月岡芳年 怪奇の美」 より)

長沢芦雪×井浦新(俳優)
清々しさというか、作為をまったく感じさせない。あんな表現が自分もいつか出来たらって。やっぱり素直であった方が、何事もうまくいくんじゃないかなって思うんですよ。学び続けながら、その分ちゃんと出していくことが出来る場が、役者の仕事であり、ものづくりの仕事であり。だからちゃんとそこを謙虚な気持ちで素直に。本当に芦雪が、間違ってないよっていってくれているような、こっちに来いよみたいな。(俳優 井浦新 2014年6月8日放送「紀州へ 長沢芦雪×井浦新」 より)

第3章 工芸 伝統と革新

50年間、日曜美術館が継続して取り上げてきたのが「工芸」です。1976年の「日本伝統工芸展」から始まり、翌年からは「正倉院展」も放送し、日本の優れた工芸美術を紹介してきました。

番組では、正倉院の宝物や、各時代を代表する匠たちの制作風景、そして技と素材に真摯に向き合う姿が映像として残されています。その中には、後に人間国宝となる職人たちの若き日の挑戦や、親から子へと受け継がれる技の葛藤、厳しい時代にも続く伝統継承の奇跡が映し出されています。近年は明治から現代に至る超絶技巧にも注目し、過去の名工の技に学びつつ新たな表現を探る若手作家たちを紹介しています。自然と深く結びついた日本の工芸の誇りと精神は、今もなお匠たちの手の中で脈々と受け継がれているのです。

正倉院宝物(模造)、松田権六、室瀬和美、森口華弘・邦彦、安藤緑山、塩見亮介などの名品をご紹介します。

人間国宝

室瀬和美 《蒔絵飾箱「麦穂」》 1985年 個人蔵

室瀬和美(漆芸家)
作品の中に1つの空気を流してみようって、そういう構想が自分の心の中にあるんです。漆芸家 重要無形文化財「蒔絵」保持者 室瀬和美(1985年9月29日放送 「美と技と用 第32回日本伝統工芸展から」 より)

超絶技巧

安藤緑山 《竹の子に梅 牙彫置物》 大正–昭和初期 京都国立近代美術館蔵 撮影:木村羊一

安藤緑山×前原冬樹(彫刻家) 抜群にかっこいい。曲面に正確な線をいれるのはかなり難しい。だからその筋の正確さとかずっとみていたいぐらいすごい。(彫刻家 前原冬樹 2014年5月11日放送 「明治の工芸 知られざる超絶技巧」 より)

塩見亮介 《白銀角鴟面附白絲縅兜袖》 2022年 個人蔵

塩見亮介(鍛金家) 明治工芸や江戸の名工も、すごい人たちがいっぱいいて、過去の人とも常に勝負してる、未来にもすごい人たちが出てくるだろう。そういう人たちとも勝負してる。(鍛金家 塩見亮介 2023年5月14日放送 「現代の超絶技巧 2」 より)

第4章 災いと美

2020年、コロナ禍により美術館が休館し、番組の継続も危ぶまれる中で日曜美術館は大きな危機を迎えました。しかし「美を届けることを止めない」という信念のもと、過去の映像を活用した「蔵出し日本絵画・西洋絵画シリーズ」や、困難な時にこそ分かち合いたい作品を紹介する「♯アートシェア」などが生まれました。中でも「疫病をこえて 人は何を描いてきたか」は、災いと人間の表現の関わりを美の視点から見つめ直す象徴的な番組でした。古来より人は災厄に向き合う中で美を通してそれを理解し、昇華してきたことが明らかになり、社会の災害や戦争にも同様の姿勢が見られます。

本章では、災いと向き合い、理解し、受け止めるために美が果たしてきた役割とその力を考えます。香月泰男、靉光、野見山暁治、石内都などの作品とあわせてパブロ・ピカソの傑作「ゲルニカ」を原寸大高精細映像で展示します。

疫病

作者不明 《肥後国海中の怪》 1846年 京都大学附属図書館蔵 ※前期展示:3月28日(土)〜5月10日(日)

アマビエ×小野正嗣(作家)
健康に楽しく周りの人と出会い言葉を交わし合いながら美術について語り、笑ったりすることがどれほど人間にとって本質的な活動かと強く感じられる。(作家 小野正嗣 2020年4月19日放送 「疫病をこえて 人間は何を描いてきたか」 より)

戦争

香月泰男 《青の太陽》 1969年 山口県立美術館蔵

香月泰男(画家)
僕は国家というよりも、国家の原点にあるひとつの家庭というものを大事だと思うんです。国家という目に見えないものは、僕は納得いかない。(1979年8月12日放送 「私と香月泰男」 より)

自然災害

野見山暁治(画家)
悲しいとか何とかとか、なんか違う。人間に限らず生物というものははかないもの。大きな中でただうごめいているだけ なす術がない。(2014年3月9日放送 「行き暮れてひとり 〜画家 野見山暁治のアトリエ日記〜」 より)

第5章 作家の生き様と美 ~アトリエ&創作の現場

作家のアトリエは、歓喜や苦悩、葛藤、孤独といったあらゆる感情が交錯する、美の舞台裏です。日曜美術館では1980年から「アトリエ訪問」シリーズを通して、多くの作家の創作現場を紹介してきました。散乱した空間もあれば道場のように整然とした場もあり、そこには作家それぞれの生き様と個性が刻まれています。作品がまさに誕生する瞬間に立ち会うことは、創造の核心に触れる特別な体験です。

岡本太郎、柚木沙弥郎、志村ふくみ、加山又造、李禹煥、舟越桂、諏訪敦、山口晃など、放送時の映像とともに制作の過程で作家が語る言葉に耳を傾けながら、創造という行為の深淵を感じてみてください。(美術展ナビ)

柚木沙弥郎 《いのちの樹》 2018年 松本市美術館蔵

柚木沙弥郎(染色家)
うれしけりゃいいんだよ、なんでもおもしろいなって思って、たまらなく。天気がよくて、ぱーっとした日が日曜日だってごらんなさい、だれでもこうなんでも愉快じゃない。そういう状態であれば、なんでも新鮮にみえるでしょ。(2018年6月3日放送「うれしくなくちゃ 生まれない 染色家 柚木沙弥郎の模様人生」 より)

志村ふくみ(染織家)
色にいのちがあるってことを教えてくれたのは藍ですよね。そういうものがなかったら、色は色ですよね。でも私は色は色ではないんじゃないかという思いで色を染めてる、色を出してるっていう感じですよね。(2005年12月4日放送「京の〝いろ〞ごよみ 染織家・志村ふくみの日々 冬から春へ」 より)

李禹煥(現代美術家)
ほんの最小限の行為が最大限の大きな世界との響きあいになることに望みをかけるわけです。(2005年12月4日放送「出会いの芸術を求めて ~李禹煥 半世紀の挑戦~」 より)

岡本太郎 《遭遇》 1981年 川崎市岡本太郎美術館蔵

岡本太郎(画家)
職業なんてないんだと。人間だと。
誰だって人間だから、芸術だと。
芸術家じゃなくて、芸術だと。
セクションのなかに入ってることが芸術じゃないんですよ。
全人間的に生きることが芸術なんです。(1981年3月8日放送 「アトリエ訪問 岡本太郎」 より)

山口晃 《ショッピングモール》 2015年~ 桐生市(大川美術館寄託)

山口晃(画家)
シャッター商店街問題になっているけれど、これ描いて何になるんだっていうわけじゃないが、ふるさとの絵を一枚描いておこうかしら、描く時にそこは画題をぴりっと利かせたいというのもありまして。
ショッピングモールっていうのは、巨大さをみると街が一つできちゃったような。あそこまで大きいと街でいいんじゃないかしらと。普通の商店街に壁作って屋根をかけて、「あれ?新しいショッピングモールだわ」とか言ってね。ショッピングも出来るじゃないかしらとまちがった人がきて流行りやしないかと。空想は空想ですけど、そういうしたたかな生き残り戦略じゃないですけど。(2015年4月19日放送 「画伯! あなたの正体は? ドキュメント・山口晃」 より)

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