
ビジネス書棚端の平台に平積みで展示する(青山ブックセンター本店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。
今回は、定点観測している青山ブックセンター本店だ。ビジネス書の売れゆきは前年同月を上回るペースが続き、好調だという。著者を招くイベントに加え、近隣イベントへの出張販売などがけん引している。そんな中、書店員が注目するのは、センスを身に付ける方法をまとめたベテランアートディレクターの本だった。
「知覚」「組み替え」「表現」でセンスを生み出す
その本は秋山具義『こうやって、センスは生まれる』(SBクリエイティブ)。著者の秋山氏は1990年代から活動するアートディレクター。東洋水産「マルちゃん正麺」の広告・パッケージデザインや日本フェンシング協会の「新国章」デザインなど、記憶に残る数々の実績を上げている広告業界のベテランだ。
センスの塊のように見えるそんな著者が、「センスとは生まれつきの才能や芸術的な素養のことではありません」という。センスとは人をハッとさせる力であり、誰もが日常の中で育てることができると読者に語りかける。センスとは何かをわかりやすく分解してみせ、その育て方を具体的に説いていくのが本書だ。
街角で見かけたポスターや会議での一言、あるいは誰かのちょっとした振る舞いにハッとすることがある。こうした体験の裏側に共通してあるのが「センス」だという。常識の半歩先を捉えてほんの少し視点や見せ方を変えて表現すると、そこにハッとする体験が生まれる。「知覚」「組み替え」「表現」の3ステップでセンスは生み出されるというのが著者の考えだ。
「知覚」とはちょっとした違和感を日常の中に見つけること。「この広告はなぜ目を引くのか」「このカフェはなぜ落ち着くのか」――そんな小さな疑問を意識することで「見る力」が変わっていくという。この違和感の感度がセンスを育てる最初の芽だ。
そうやって拾い集めたセンスの芽を価値へと変えていくのが「組み替え」。異なる要素を新しい文脈で結びつける編集力のことで、これがセンスを生み出すには欠かせない。知覚と組み替えで生まれたアウトプットを調整することで精度を上げ、伝わり方を設計するのが最後のステップの「表現」となる。
「ひとりブレスト」で鍛える組み替え力
3つのステップそれぞれにいくつかの育てる技法があり、これを次々と紹介していく。「知覚」では、小さな観察を積み重ねる「違和感ジャーナリング」、疑問をクセにする「どちて坊や」体験、まずは大まかにつかむ「ざっくり省略力」といった技法が、自身の経験に基づいて語られる。
「組み替え」や「表現」でも様々な技法を解説しているが、ここでは組み替えの技法の1つ「ひとりブレスト」を紹介しよう。白い紙と黒、赤、青のボールペンを用意し、まずは黒ペンで思いつきをひたすら書き出す。次に赤ペンで気になるワードをつないでみる。最後に青ペンで形になりそうなアイデアを整理する。整理は簡単な文章でもいいし、図やスケッチで表してもいい。
「知覚」「組み替え」「表現」を意識的に使いこなせば、「どんな時代でも、世界の見え方を変えられる」とまで著者はいう。人工知能(AI)へのディレクションにもセンスは有効とも指摘している。
「2年前に『センスの哲学』(千葉雅也著)が売れたときもそうだったが、センスという言葉に敏感なビジネスパーソンが多いような気がする」とビジネス書を担当する神園智也さんは話す。
3位に西野亮廣『北極星』
それでは、先週のランキングを見ていこう。
(1)こうやって、センスは生まれる秋山具義著(SBクリエイティブ)(2)生きるための表現手引き渡邉康太郎著(ニューズピックス)(3)北極星 僕たちはどう働くか西野亮廣著(幻冬舎)(4)お金信仰さようならヤマザキOKコンピュータ著(穴書)(5)社長がつまずくすべての疑問に答える本田中修治著(KADOKAWA)
(青山ブックセンター本店、2026年3月16~22日)
今回紹介した『こうやって、センスは生まれる』が1位だった。2位には2025年12月の本欄の記事〈表現することで生きる時間を取り戻す 仕事や目的にとらわれない「つくる」の手引き〉で紹介した本が入った。
3位は、お笑い芸人で、最近は絵本作家、アニメ映画プロデュースと活動を広げている著者によるビジネス書。4位は、投資家でパンクや地下カルチャーにも通じた著者が、お金や成長にとらわれない生き方を提唱した本だ。眼鏡チェーン、オンデーズの会長が、経営者の「つまずき」にQ&A形式で答える経営書が5位だった。
(水柿武志)
