空港は、非常によく設計された「消費の空間」である。

搭乗ゲートへ向かう通路には免税店が並び、長い待ち時間のなかで私たちは自然と店をのぞく。香水やお土産、雑誌やスナック。必要もないのに、気づけば手に取ってしまう。実際、空港での買い物の約70%は衝動買いによるものだという調査もあるほどだ(※1)。空港の商業収入は、こうした「つい買ってしまう瞬間」に大きく支えられている。

この数字は、空港の空間設計を考えるうえで興味深い。長い動線、免税店を通るルート、待ち時間。空港は人の移動を支えるインフラであると同時に、旅行者の時間を消費へと変換する装置でもある。

そんな空港という場所に、少し違う価値を持ち込もうとする試みがアメリカで広がっている。それが「空港図書館(Airport Library)」である。

たとえば、米国ペンシルベニア州にあるフィラデルフィア国際空港では、「Book Exchange」と呼ばれる本の交換棚が設置されている。特徴的なのは、貸出手続きがないことだ。棚には「Take one, leave one(1冊持っていって、1冊残そう)」というシンプルな案内が掲げられている。本は持ち帰ってもよく、返却は義務ではない。寄付された本や図書館の蔵書を中心に棚が補充され、地域の複数の図書館が協力して本を届けているという。

同様の取り組みは全米に広がりつつある。テネシー州チャタヌーガ空港では、元TSAオフィスを改装した「SkyLib」という読書スペースが2016年から運営されている。

ケンタッキー州とオハイオ州の境界に位置するシンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港では、当初は旅行者が電子書籍をダウンロードできるサービスとして始まった取り組みが、やがて実際に本を手に取れる空間へと発展した(※2)。現在では、訪れた人が座って読書をしたり、子どもと一緒に本を読んだり、スマートフォンを充電しながら時間を過ごせる場所として利用されている。

また、マイアミ国際空港では2023年、「Books With an Altitude」と名付けられた空港図書館が設置された。地元の公共図書館から寄贈された1,000冊の本をきっかけに始まり、現在では旅行者自身が本を寄付しながら利用する仕組みが広がっている。棚には常時およそ100冊の本が並び、空港を行き交う人々が自由に手に取り、新しい読者へとつないでいるという。

空港図書館が持ち込むのは、「消費しない時間」というもうひとつの選択肢である。本を読む。子どもと座る。偶然出会った一冊に没頭する。あるいは、ただ静かに過ごす──それは、何かを買うことを前提としない時間のあり方だ。

考えてみれば、空港と図書館にはどこか似たところがある。空港は人を物理的な旅へと送り出す場所であり、図書館は本を通して人を知的な旅へと導く場所だ。どちらも、新しい世界への入口である。

搭乗前のわずかな時間に、本を開く。そんな小さな選択が、旅のはじまりを少しだけ豊かなものにしてくれるのかもしれない。

※1 Airport travel retail witnesses a fundamental shift as younger travelers emerge as the new big spenders
※2 Airport’s New FLLibrary Takes Flight
【参照サイト】At airport libraries, books fly off the shelves
【参照サイト】Airport Libraries Take Off

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