東京のファッションシーンにとって、いまや年に2度訪れる風物詩として定着した「Rakuten Fashion Week TOKYO(楽天ファッション・ウィーク東京、以下 Rakuten FWT)」。モードとストリート、伝統と革新が交錯するこの舞台は、単なるコレクション発表の場ではなく、次世代の価値観や美学がリアルタイムで更新される現場だ。2026年秋冬シーズンは国内外から注目を集める全33ブランドが参加し、東京から世界へ向けてオリジナルの表現を発信していく。
今シーズンも『Hypebeast』が独自の視点でブランド/デザイナーにフォーカスする短期連載企画 “東京デザイナーに訊く10の質問”を敢行。創作の源泉から日常のインスピレーション、そして未来のビジョンに至るまで、彼らのパーソナリティを掘り下げることで、ランウェイの向こう側にあるストーリーを明らかにしていく。デザイナー自身の言葉から、そのクリエイションの核に迫る。
本稿では、今回が「Rakuten FWT」に初参加となるブランド〈ZUCCa(ズッカ)〉のデザイナー 馬場賢吾をフィーチャー。1979年東京都生まれの馬場は、ESMOD JAPON 東京校卒業後、国内コレクションブランドを経て2008年に渡仏。フリーランスデザイナーとして国内外の多数のブランドで活動し、2020年に東京にデザインオフィス「Caravel.LLC」を設立。同年「カネマサ莫大小」が発足した和歌山県和歌山市を拠点にする丸編みニットメーカーのオリジナルブランド〈KANEMASA PHIL.(カネマサフィル)〉のクリエイティブ・ディレクターに就任。国内外のさまざまなブランドで衣服デザインを手掛けてきた馬場は、素材からこだわった日本製プロダクトを中心に、日本各地のものづくりの現場に出向き、上質な生地づくりからブランディングまで携わってきた実力派デザイナーだ。
1988年、デザイナー 小野塚秋良によって設立された〈ZUCCa〉は、創設以来ベーシックでありながらディテールにこだわった快適な着心地の衣服づくりを追求し、幅広い世代から支持を獲得してきた。2011年春夏コレクションをもって小野塚がデザインワークを退任した後は、デザインチームによるクリエーション体制でコレクションを発表。2026年春夏シーズンよりデザイナーに馬場が就任。新体制後は〈ZUCCa〉が培ってきた「日常に根ざしたユーモアのあるデザイン」を基盤にしつつ、彼の豊富な経験に裏打ちされた知識と技術によって、ブランドのさらなる発展を目指す。
Q1.ファッションに興味をもったのはいつ頃からですか? ご自身のファッションのルーツ(もしくはスタイルの遍歴)を教えてください。
私の両親がアパレル業界にいたこともあり、ファッションに興味を持ったのは比較的早い方だと思います。ただ、自分のカルチャーを形作っているのは、中高生の頃に触れた音楽や映画、アートなどの影響が大きいです。
そうした中で、古着やミリタリー、ワークウェアなど、実際に人が働く中で生まれた服のリアリティに惹かれていきました。背景にある文化や生活が感じられる服に魅力を感じていて、その感覚は今の服づくりにも繋がっています。
Q2.ZUCCaのデザイナーに就任する以前、このブランドに対してどんなイメージを持っていましたか?
ZUCCaは、日常着をベースにしながらも、どこかユーモアや実験性を持っているブランドという印象でした。シンプルで実用的でありながら、少し視点を変えることで新しいバランスを生み出す。そうした自由さや柔らかさに魅力を感じていました。
Q3. 馬場さんの手掛ける新生 ZUCCaのブランドコンセプトを教えてください。また、歴史あるブランドを刷新する際に、過去から引き継いだこと/変えたことがあれば具体的に挙げてください。
ブランドコンセプトは「NEW WORK」──「働くことは生きること。毎日が心地よい新しい日常着」という考え方です。
現代は働き方も生活のスタイルも大きく変化しています。だからこそ、仕事と生活を分けるのではなく、その両方に自然に馴染む服を作りたいと考えました。
ZUCCaがこれまで大切にしてきた日常着という軸は引き継ぎながら、今の時代の感覚で、その意味をアップデートしていきたいと思っています。
Q4.2026年秋冬シーズンのコレクションテーマを教えてください。
全体のシーズンテーマは 「AMERICAN ORDINARY」です。1970年代のアメリカの写真表現に影響を受けています。ありふれた都市の風景や日常の瞬間を、新しい視点で見直すような感覚です。特別なものではなく、日常の中にあるリアリティにフォーカスしたコレクションにしました。
Q5.今回のコレクションのインスピレーション源となったモノ・コト(アートや映画、音楽、文学作品等)があれば教えて下さい。
1970年代のアメリカのカラー写真です。具体的には、スティーブン・ショア(Stephen Shore)やジョエル・スタンフェルド(Joel Sternfeld)、ウィリアム・エグルストン(William Eggleston)などの作家たちの作品からインスピレーションを得ています。劇的な瞬間ではなく、ガソリンスタンドや郊外の住宅、ダイナーといった「ありふれた日常」の風景を、色彩によって再解釈した写真作品に影響を受けました。普通の風景を新しい視点で見るという感覚が、今回のコレクションの考え方と重なっています。
Q6.コレクションで使用した生地や素材において、こだわった点は? また、特に注目してほしいポイントなども教えてください。
今回、ZUCCaの核となる新たなラインを発表します。日本の生地産地の技術と協業し、軽さや伸縮性、イージーケアといった機能性を備えながら、ビジネスとプライベートの境界をなくすような、機能美に満ちた現代の日常着を提案しています。リアルな生活の中で着続けられる、強いプロダクトを作りたいと考えました。
Q7. 馬場さんが尊敬するデザイナー、またはライバルだと感じている(あるいは共感する)デザイナーはいますか?(*他業種のクリエーターでも構いません。)
特定のデザイナーというよりも、日常を独自の視点で切り取る表現者に影響を受けています。ミュージシャンや写真家、映画監督など、普通の風景の中に新しい価値を見つけるクリエーターには、いつも刺激を受けています。
パリ在住時代に、スパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)監督の短編映画制作に関わる機会があり、その経験は自分にとって、とても大きかったです。彼のように、日常の中にある違和感や面白さを自然に引き出す表現には強く惹かれています。
Q8.Rakuten FWTという舞台で発表する意義をどのように感じていますか?
東京から世界に向けて、ブランドとしての新しい視点を提示できる場だと思っています。ZUCCaの新たなフェーズにおいて、自分なりの解釈で「日常着」を再定義し、それをコレクションとして提示することに大きな意義を感じています。
Q9.今季のコレクションを通して、観客や着る人にどんなメッセージを届けたいですか?
特別な瞬間のための服ではなく、日常を生きる人のための服を提案したいと考えています。毎日の生活の中にあるリアリティや美しさを、もう一度見直すきっかけになれば嬉しいです。
Q10.ブランドの今後の展望、または挑戦してみたいことがあれば教えてください。
ZUCCaの原点は、ユーモアのある日常着だと思っています。その考え方を大切にしながら、素材や技術を活かしたデザインの可能性をさらに広げていきたいです。産地の技術や異なる分野とのコラボレーションなど、新しいアイデアを取り入れながら、現代の生活に合う服を提案していきたいと考えています。
