『生誕100周年記念 安野光雅展』展示風景。楕円エリアに『野の花と小人たち』を拡大した複製プリントが展示されている。
今年、生誕100年を迎えた絵本作家・安野光雅の展覧会が、東京・立川のPLAY! MUSEUMにて開かれている。『ふしぎなえ』や『天動説の絵本』などの原画約130点に加え、『旅の絵本』を楕円形のユニークな空間で体感できる展示も登場。遊び心と知的なしかけに満ちた安野ワールドを、多彩な切り口から楽しむことができる。
『ふしぎなえ』をはじめとする初期三部作の原画を公開!
『生誕100周年記念 安野光雅展』展示風景より。『ふしぎなえ』(福音館書店 1968年)の原画(水彩画)が並んでいる。
1926年に島根県の津和野町に生まれた安野は、幼い頃から絵描きを志すと、小学校教員を経て上京。美術教師を務めるなかで、教え子の父であった福音館書店編集長(当時)の松居直と出会い、絵本制作へと導かれる。そして1968年には、エッシャーに触発されただまし絵のみで構成する日本で初めての文字のない絵本『ふしぎなえ』を発表し、大きな注目を集めた。
『ふしぎなえ』とは、壁が階段に、天井が床へと変わるなど、錯視効果を用いて現実にはありえない世界を描いたもの。ここで空想と発見の楽しみを絵本にて伝える手応えを得た安野は、続けてジョーカーが案内するトランプの国を描いた『さかさま』と、小人たちが真夜中にサーカスをはじめる『ふしぎな さーかす』を制作し、独自の不思議な世界を確立する。
『おおきな ものの すきな おうさま』の絵本に込めた安野のメッセージとは?
『おおきな ものの すきな おうさま』の絵本の世界をイメージしたフォトスポット。大きなお皿に二つの穴が空いており、中に入って記念撮影を楽しめる。
『おおきな ものの すきな おうさま』は、大きなベッドで眠り、大きなお皿で食事をするなど、何でも大きいものが好きな王様を主人公にした絵本だ。物語の終わりで、王様は「大きな花が見たい」と願い、大きな植木鉢にチューリップの球根を植える。しかし咲いたのは、意外にも小さな花だった。そこには、物事は思い通りにはいかないという、安野光雅が示す「生きることのリアリティー」を感じ取ることができる。
天動説が信じられていた頃、地動説が受け入れられるまでの歩みを描いた『天動説の絵本』では、原画とともに、朗読付きの約13分間の映像作品も展示されている。地球が中心だと信じていた当時の人々にとって、地球が丸く動いているという考えは容易に受け止められないものだったが、安野はそうした人々の戸惑いや葛藤を、極めて精緻な描写とともに丁寧に綴っている。—fadeinPager—
安野と同じ視点で『旅の絵本』に描かれた大地を眺める
『生誕100周年記念 安野光雅展』展示風景。窓の向こうに『旅の絵本』の拡大複製プリントが見える。
代表作『旅の絵本』の「イギリス編」の原画全点をたどりながら進むと、やがて旅の風景へと入り込むような楕円形の大空間に導かれる。ここでは『旅の絵本』や『野の花と小人たち』から選ばれた8つの場面を壁いっぱいに広げた複製プリントを展示。さらに足元の床には絵本の場面を拡大し、アニメーションとして再構成した映像も設置され、来場者は絵本の世界を歩くような感覚を味わえる。
ima(小林恭+マナ)による会場デザインに目を向けたい。壁面の巨大なプリントの前にはいくつもの窓が設けられているが、これは安野光雅がヨーロッパを旅した際、着陸間際の飛行機の窓から見下ろした風景が『旅の絵本』誕生のきっかけとなったことにちなむもの。来場者は窓越しに作品をのぞき込みながら、安野と同じ視点で大地を眺めるような体験を得られる。
「一枚一枚で壁にかけておく」ものとして描く。「一枚絵」としての原画の魅力
「絵画館」のコーナーより、『繪本シェイクスピア劇場』(講談社 1998年)の原画(水彩画)が展示されている。
安野が描いた普遍的なテーマを、独自の視点で再構成した「絵画館」も見逃せない。平家物語やシェイクスピアを題材とした歴史画や、世界各地を旅して描いた風景画を、絵本や物語の文脈から取り出して「一枚絵」として掲げている。安野自身も絵本のための絵について、「一枚一枚で壁にかけておく」ものとして描いたという言葉を残しているが、ページをめくる体験とは異なり、絵画としての輝きを放つ作品と静かに向き合える。
PLAY! プロデューサーの草刈大介が、「安野の作品は細部の描写や色彩、構図に至るまで本当に素晴らしい。時間を奪い合い、情報に溢れる今だからこそ、時間をかけてじっくり見る喜びがある。今回はPLAY! らしい演出もあえてやりすぎないように心がけ、絵本原画をゆっくり鑑賞できる場にした」と語る本展。会場を巡りながら、安野が描いた空想と発見の旅を時間を忘れて味わいたい。
『生誕100周年記念 安野光雅展』
開催期間:開催中~2026年5月10日(日)
開催場所:PLAY! MUSEUM
東京都立川市緑町 3-1 GREEN SPRINGS W3 棟 2F
開館時間:10時〜17時 ※土日祝は18時まで、入場は閉館の30分前まで
会期中無休
入場料:一般 ¥1,800
https://play2020.jp/article/anno

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千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。
千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。
