チームで集まって話しあえば、画期的なアイデアが生まれる――多くのビジネスパーソンがそう信じているが、実はこの常識には科学的な落とし穴がある。『ワークハック大全』には、「1人の時間」と「チームの時間」を使い分けるだけで、生産性と創造性が飛躍的に高まる方法が示されている。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
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「みんなで考える」が裏目に出る理由
2025年以降、アマゾンやアクセンチュアなど大手企業が相次いで「出社回帰」に舵を切った。
その目的の多くは、対面での偶発的な会話を増やし、創造性を取り戻すことだ。オフィスに人を集めれば自然とアイデアが生まれる、という発想が根底にある。
しかし、著者はまったく逆の視点を提示する。本書によれば、プロジェクトの初期段階からチーム全体が関わるのはむしろ非生産的であり、ブレーンストーミングは一般に信じられているほど効果的ではないという。
参加者は良いアイデアを出しているつもりでも、実際にはグループ内でのポジション争いや自己アピールに労力の多くを費やしていると本書には書かれている。
さらに興味深いのは、カリフォルニア大学バークレー校の心理学者シャルラン・ネメスの指摘だ。
本書によれば、ブレーンストーミングの「どんなアイデアも批判しない」というルールこそが、手法の有効性を下げている主要な理由だという。批判を避ける「やさしさ」が、かえって創造性の芽を摘んでいるのだ。
ブレーンストーミングは、参加者が最初に自分1人でアイデアを考える時間を与えられるときに最もうまくいくこともわかっている。(『ワークハック大全』より)
何も考えずに集まってから話しはじめるよりも、まず1人で考え、それを持ち寄るほうが創造的な提案は倍増するケースが多いと著者は述べている。
会議室にホワイトボードを用意してみんなで付箋を貼りまくる前に、自分の席で静かにアイデアを練る時間が必要なのだ。
「孤独」こそ最高のコラボの源泉
「1人の時間」が創造性に不可欠であることは、音楽やエンタメの世界にも裏づけがある。
本書では、ビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーの例が取り上げられている。
2人は「レノン/マッカートニー」として数々の名曲を残したが、実はずっと同じ部屋で作業していたわけではなく、それぞれが1人で集中して創作し、後から組みあわせていたという。
同様に、エルトン・ジョンと作詞家バーニー・トーピンも、半世紀以上にわたる共同制作で一度も同じ部屋で曲をつくったことがないという。
メールで歌詞を送り、別々の場所で仕上げ、最後に対面で詳細を詰める。まるで、リモートワークの先駆者だ(ただし彼らの場合、Slackの通知に悩まされることはなかっただろうが)。
真の同期は、絶えず会話をしていることで達成されるのではない。1人の作業があるからこそ、初めて同期ができる。会話と孤独は、生産的な仕事にとっての重要な光と影だ。(『ワークハック大全』より)
ここで著者が強調しているのは、「ひとり」と「チーム」は対立するものではないということだ。
質の高い1人の時間があってこそ、チームでの議論が実りあるものになる。コラボレーションの質は、その前段階にある個人の深い思考によって決まるのだ。
在宅か出社か、正解は「間」にある
静かな環境で集中することが大事なら、在宅勤務こそ最適解ではないか。そう思うかもしれない。しかし、著者はここでも安易な結論を避けている。
本書には、ミシガン大学のエレナ・ロッコの研究として、単独で別の場所で仕事をしている人は同僚との信頼関係が次第に弱まり、共同作業の質に悪影響が出ると書かれている。
台所のテーブルで働くことは、チーム全体の生産性を考えれば最適な答えではない。つまり、必要なのは個人で働くことと集団で働くことのバランスなのだ。(『ワークハック大全』より)
本書で紹介されている「コーディング・ウオーゲーム」という実験は示唆に富む。
約100社のソフトウェア開発者600人が競った結果、トップパフォーマーの62パーセントは「十分にプライベートが守られている」静かな環境で作業していた。
一方、成績が振るわなかった参加者の75パーセントは、絶えず作業を中断させられる環境にいたそうだ。静かな環境でじっくり考えられた人が、最高の成果を出していたのだ。
「個」と「集団」を行き来する力
本書の考え方を実践に応用するならば、たとえば週のうち数日は午前中に「誰にも邪魔されない集中時間」を確保し、午後にチームで持ち寄り型の議論を行うといったリズムづくりが有効だろう。
著者は本書の別の章で、午前中にメールや会議をシャットアウトして深い作業に没頭する「モンクモード・モーニング(午前中の修道士モード)」という手法を紹介している。
まず1人で静かに考え抜く。そのうえでチームに戻り、アイデアを共有し、批判も含めた率直な議論を交わす。このサイクルを回すことが、本書の描く理想的な働き方だ。
創造性は、個人が考え抜いたアイデアを、集団で議論することで開花する。真にシンクロナイズしているチームは、この両方を実行できる。(『ワークハック大全』より)
チームワークが大切だからといって、四六時中一緒にいる必要はない。
むしろ、1人で深く考える時間を意識的に確保することが、結果としてチーム全体の成果を押し上げる。
出社か在宅かという二者択一ではなく、「いつ1人になり、いつ集まるか」を設計すること。それが、本書が読者に手渡してくれる最も実践的なメソッドだ。
著者からのメッセージ
僕はこの10年、幸運にもグーグル、ユーチューブ、ツイッターといった最先端のテクノロジー企業で働くことができた。
現在、管理職として働いているツイッターのロンドン支社では、訪問者が会社の雰囲気をとても気に入ってくれる。職場を改善するためのアドバイスを求められたりもする。僕はそのことを誇りに思う。
ただ、僕が職場のカルチャーという長い間抱いてきたテーマを本格的に探究しようと決意したのは、ツイッターで辛い時期を経験したことがきっかけだ。
当時は、みんな以前のように楽しそうには見えなかった。辞めた人もいた。会社に残った人も、疲れ、意気消沈していた。何より、僕は何が間違っているのか、どう対処すればいいのかがわからなかった。

暗中模索の日々の中で、僕が打開策として辿り着いた方法は、ポッドキャストを始めるという意外なものだった。
番組を録音する際に、職場を改善するために必要なことをよく理解している人たち、たとえば組織心理学の専門家をゲストに呼べると思ったからだ。
驚いたことに、専門家たちが示してくれた答えはとてもシンプルなものばかりだった。
そこで僕は番組の共同制作者であるスー・トッドと共に、これらのアドバイスをもとに、働き方を改善するために誰にでもすぐに実行できる8つの簡単な行動のリストをつくり、「ザ・ニューヨーク・マニフェスト」と名づけて公開した。

反響は凄まじかった。このリストを自分たちの職場に応用する方法を詳しく教えてほしいと、警察や看護師、弁護士、銀行員などのさまざまな職場で働く人たちから問いあわせが相次いだ。
僕はこの経験を通じて、仕事をもっと充実させるために必要な示唆を与えてくれる科学的な研究結果はまったく不足していないということに気づいた。ただ、これらのエビデンスが、みんなが日々働く職場にうまく届いていないだけだ。
だからこの本では、専門家の知恵をとてもシンプルな30の行動にまとめた。誰もが自分で試し、チームミーティングで提案できるものばかりだ。僕が長い間慣れ親しみ、自分自身でも実践してきたものもあるし、自分や周りの人間が身につけてきた悪い習慣を直してくれるものもある。
これまでの職場の常識を覆すものもある。もちろん、どれもとても有効だ。
どんな職種であれ、仕事は僕たちの人生に大きな意味を与えてくれる。仕事が大好きだと公言することに抵抗を覚える人もいるかもしれない。でも、仕事を通じて幸せな人生を送っていると思うことを恥じる理由など、どこにもない。
僕は、この本があなたをもう一度ハッピーにすることを心から願っている。

『Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめたワークハック大全』は、かつてなく情報が氾濫し、スマホの出現でオン・オフの境界線まで曖昧になりつつあるこの時代に適した「超快適に仕事で結果が出せるベスト・メソッド集」です。「最先端のアカデミックな研究」から「世界トップのテクノロジー企業の仕事術」「明日から実行できる簡単なハック技」まで、具体的かつ多岐にわたるメソッドが1冊にまとめられています。
