クィアや女性の権利を求めることは、ここ数年で生まれた新しい価値観ではない。現在よりもずっと家父長制が強い時代に、女性を愛し、女性の権利を求めた人々の物語を読むことで、現在に続く生と抵抗の歴史を実感できるだろう。
5. シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』
1932年生まれの詩人であり作家のシルヴィア・プラスは、大人になろうとする女性の、漠然とした不安と順応への拒否感を鮮烈に描く。『ベル・ジャー』は、ニューヨークでファッション誌のインターンを勝ち取った優秀な大学生を描いた長編小説である。一見サクセスストーリーのように思えるが、彼女が直面してゆくのは、欺瞞だらけのように思える社会と、その溝に落っこちてしまったかのような自分自身だ。19歳の少女として、何者かになりたいと思い、反骨精神を燃え上がらせながらも、なぜだかうまく息ができない。社会はこんなにも不完全で、自分はこんなにも苦しいのに、周りは平気な顔をしてどんどん前に進んでいく。
いくつもの将来の選択肢を前に呆然とし、何も選べない様子をイチジクの木にたとえた一説がある。刊行から60年以上が経った今欧米で再び注目を集め、TikTokで「#figtree」と検索すると、かつての自分の「イチジクの木」を投稿するトレンドを確認できる。『ベル・ジャー』を読んでいると、いつかの苦い記憶が瑞々しく蘇ることもあるだろう。しかし、過去の自分を認め、癒すことは、現在の自分を強くするのだ。
エンパワメントとは、個人的な経験を社会というレンズを通して見つめ直し、何によって力を奪われてきたのか知ること、そして力を取り戻したならば、その力をより公正な社会のためにどのように使うのか考えること、その過程であるように思う。
「フェミニズムがめざしたのは権力構造の改革であり、権力を持たない女性やマイノリティが変革の主体となる社会である」と『ポストフェミニズムの夢から醒めて』著者の菊地夏野は言う。「女性たち」を考えるとき、そこには移民の女性、植民地主義下の女性、非正規雇用の女性、クィアの女性、障害を持つ女性など、さまざまな女性がいることを忘れてはいけない。平等な社会を目指すということは、すべての女性たちと手を取り合うということだ。
