父の撮影場所を正確に特定しなければならないという課題もあったが、これも思ったほど難しくはなかった。
父はすべての写真について記録を残していた。わかりにくい場所は人工知能(AI)に助けを求めた。

ジェイミーさんはベルギーを走り抜ける際、父親のオリジナル写真に写っていた少年に会った。今ではすっかり大人になっていた/Courtesy Jamie Hargreaves
チャットGPTに写真を入力して場所を尋ねると、正確な位置が出てきたという。「ほとんどがずばり正解だった。そうでないこともたまにあったが、必ずおおよその見当はつけてくれた」
こうして、目を見張るようなビフォーアフター写真が出来上がった。同じ場所に同じポーズ。時には顔までそろっていた。
ベルギーでの1枚には、フィルさんと仲間の1人とともに、1人の少年と、旅先で知り合い宿泊先を提供してくれた友人の両親が写っていた。ジェイミーさんはこの場所を突き止めた。友人と両親はすでに亡くなっていたが、かつて少年だった男性と会い、一緒に写真を撮ることができた。
トルコ西部ディキリで撮影された別の写真は、何もない風景の中で遠くの丘だけが目印だった。逆にインドネシアのブロモ山は特徴があって分かりやすかったが、自転車で上るのが大変だった。
地政学的な事情で、フィルさんが通ったイランのルートは安全に通行できなくなっていた。ジェイミーさんはジョージアからロシア、カザフスタン、ウズベキスタンを経由し、パキスタンでフィルさんのルートと合流した。
命がけで迎えてくれた人々
困難にも直面した。ジョージアでは、ひどい事故で自転車のフレームが大破。しかし、そのころにはSNSで多くのフォロワーを獲得していたジェイミーさんに、マーシアン社が代わりの1台を送ってくれた。向かい風と戦い続けたカザフスタンとウズベキスタンの砂漠は、最もつらかった区間のひとつだ。旅の途中で出会った長距離ツーリング仲間たちのおかげで、何とか切り抜けることができたという。

ジェイミーさんはこの写真を再現するため、トルコのディキリにある鄙びた場所を探し出した/Courtesy Jamie Hargreaves

ジェイミーさんはこの写真を再現するため、トルコのディキリにある鄙びた場所を探し出した/Courtesy Jamie Hargreaves
ロシアでは国境での煩雑な手続きや厳しい検問をくぐり抜けた後、重武装の国家と親切な国民の不思議な対比を目にしたという。アフガニスタンの悪路でビンテージ自転車のタイヤは限界に達したが、人々はタリバーン支配下での苦労にもかかわらず、温かかった。
「文字通り命がけで私を迎え入れてくれた」と、ジェイミーさんは振り返る。
フィルさんたちはネパールで、標高5364メートルのエベレスト・ベースキャンプまで自転車をかつぎ上げた。ほぼ前例のなかったその偉業を、今回ジェイミーさんが再び達成。ジェイミーさんはさらに、これも恐らく史上初めて、標高4130メートルのアンナプルナ・ベースキャンプにも自転車を運んだ。
氷河を背にしたエベレストの写真は、ジェイミーさんのお気に入りのひとつだ。
今は英国で引退生活を送るフィルさんも、ジェイミーさんのSNS投稿で昔を思い返しているという。

ジェイミーさんの父親は1980年代の旅行で写真を撮った場所を細かく記録していた/Jamie Hargreaves

ジェイミーさんの父親は1980年代の旅行で写真を撮った場所を細かく記録していた/Jamie Hargreaves
ジェイミーさんは写真を再現しながら、40年前に同じ場所に立っていた若き日の父との深いつながりを感じた。「父と私を隔てているのは時間だけ。それは不思議な感覚だ」と、ジェイミーさんは語る。
「父から話を聞いて育ったその場所に、自分が立っている。なんとも貴重な体験だった」
