第41回
にいさん
2026.03.05更新
「早織ちゃんは、わあ〜〜とテンション上がるときないの?」と尋ねられた。
わたし、今、すごくテンション高いですと答えると、今(の状態が)? というお顔だった。あたたかい肌着を上半身にも下半身にも身につけ、ロングコートを纏っていても寒さがこたえる日で、一軒目でもう熱燗をいただいていた。二軒目ではレモンサワーと揚げたてあつあつの串揚げを頬ばった。チュートリアルの徳井義実さんと『令和に官能小説作ってます』というドラマで共演したことをきっかけに、徳井さんのYouTubeの飲み歩き企画に参加させていただけた。ドラマの撮影最後の日、思いきってお願いしたところ、まさか叶ったのだった。
徳井さんのお名前には2018年に書いていた「さば」で僭越ながら触れたことがあったのだが、共演できる日が到来するとは微塵も想像したことがなかった。「トーキョーでキョートみつけた」ってこれやんて、わたしは、わたしだけ思っていた。なんだこの状況と。だから呑んで食べてお話しているときすごくテンションが高かったのだ。昂揚し緊張していた。しかしどうやら表面的にわたしの状態はわからないようなのである。
「食べものは何が好きなん?」と訊かれて「なんでも好きです」と言い、正直に答えすぎて(おいしいものはなんでも好きなので)、結局何もつかみどころのない自分の回答に失望したりもした。甘すぎるものや衣が多く油のしみた天ぷらは嫌いだなあと嫌いなものは明確に浮かぶ。このような局面で、窓からふきこむ春風に揺れるカーテンのような軽やかさで答えられる人には憧れてしまう。かと言って、わたしはわたし、人は人という考えが根本にあるがゆえ、今後どこか変えていこうという気構えが自分からは感じられない。こうやって浮かんだ思いを書き記すことのみにとどまっている。
「早織ちゃんは”静か族”なんやわ。おれもそう。なかしーとバターは、打ち上げとかでも自然とまわりに人がおるタイプ」と徳井さんは仰っていた。誰かと一緒にいるのは好きなのに、嫌いじゃないのに、ひとたび大勢の中に入るとどう話していいのかすこしわからず、ぽつんとしていることがあるのを思い出した。はじめてそのとき耳にした静か族という言葉が、なんだかとてもやさしく感じられた。
目の前の徳井さんはテレビやwebでこれまで見聞きしてきたどんなイメージともぴったり重ならなかった。ふとした間が、誰ともまじわることのない静けさを帯びていた。長い飲み歩きの夜を経ても静か族の兄さんと特に距離が縮まることはない。この距離の変わらなさがきっと、静か族らしい。

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俳優。1988年5月29日生まれ。京都市左京区育ち。
15歳から俳優をはじめ幾星霜。立命館大学産業社会学部卒業。
大学時代、内田樹先生の著作を読み耽りミシマ社に辿りつく。
《近ごろの出演作》映画『たしかにあった幻』(河瀬直美監督)、『災 劇場版』(監督集団 5月)、ドラマ『照子と瑠衣』(大九明子監督)、『にこたま』(瀬田なつき監督)、『令和に官能小説作ってます』(山口淳太監督)
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