’11年にグラビアで注目を集め、翌年のAVデビューから今年で15年目に突入。’16年には自身初の小説『最低。』で小説家としての活動もスタートさせ、10周年を迎えた。10作目となる著書『あの子のかわり』が絶賛発売中!

″産む性″として

「AV女優は悪意を持った人の目に晒(さら)されやすいですが、さまざまな言葉を浴びることによってどういった考えを持っている人がいるかを『観察』することができる。小説を介して現実を伝えることができるというのは、私にとってAV女優を続けるための″延命措置″なのかもしれません」

AV女優であり、小説家。唯一無二の兼業作家・紗倉まな(32)は、妖艶に微笑んだ。’11年にグラビア活動を開始し、翌年AVデビュー。『SOD大賞2012』で史上初の最優秀女優賞を含む6つの賞を獲得し、人気女優の座へと登りつめた。

自身を″えろ屋″と称し、これまで延べ200作品以上に出演。さらに’16年、自身初の小説『最低。』を発売すると各書店で売り切れが続出。『野間文芸新人賞』に2度ノミネートされるなど、小説家としての才能を開花させた紗倉は、2月12日に10作目となる著書『あの子のかわり』(河出書房新社)を刊行した。

描いているのは、″妊娠と出産″。メイクアップアーティストである主人公・由良(ゆら)が親友・有里奈(ありな)の妊娠を機に、自分でも正体のわからない狂気的な感情に振り回されるというストーリーだ。

「AVの仕事をしていると、良くも悪くも興味本位で、結婚や子供のことを聞かれます。『AV女優が産むって大変じゃないですか?』など、答えに迷う問いです。そういったことが重なり、20代の頃から嫌でも意識し始めるようになりました。30代になると周りが出産ラッシュに入り、友達からも『産む気があるなら早いほうがいいよ』と勧められ、″妊娠可能年齢までのカウントダウン″をより一層意識させられる。

私は4年前に保護犬を迎えたこともあって、″疑似子育て″を通して育てることの大変さをよりリアルに考えるようになりました。もちろん、人間と動物が違うということは承知しています。

ただ、形を変えながらも妊娠・出産というテーマはずっと私の中にあって、改めて今後の生き方を考えるきっかけになりました。だから主人公の葛藤は、私の葛藤をなるべく取りこぼさないように反映したところがあります。由良ほど狂気的に暴走はしていませんけどね(笑)」

10代でこの業界に足を踏み入れ、来月33歳になる。自身も妊娠や出産を意識する時期に差しかかってきたが……。

「今は選択肢があるだけに、余計悩むんですよね。こう言うと『贅沢(ぜいたく)だ』って叩かれそうですが、自由であるようで旧来的な圧も感じる。でも、私はこの職業と関係なく、産む選択はしないだろうな、と思います。

人生100年時代と言われるこのご時世に、これから100年生きるかもしれない一人の人間を産むというスケールの大きさに気後れしてしまう。自分のことだけで手いっぱいな由良と同じで、キャパオーバーになりそうだと思ってしまうんです」

物語に登場する人物で、紗倉がとくにこだわったのが″主人公の夫″だ。暴走しがちな由良を、「ポップにいこうよ」という独特の言い回しで常に現実に引き戻している。実はこの″ポップ夫″が生まれた背景には、「男性にも我がことのように捉(とら)えてほしい」という想いがあったと振り返る。

「読むと『なんだコイツ?』と思うかもしれませんが、この夫婦関係は私の理想でもある。私も少し似ているところがあり、由良のように強迫観念にとり憑(つ)かれて暴走しがちな人の隣にこんなパートナーがいてくれたらホッとするな、と。ある意味で、憧れの夫婦関係として描きました。

妊娠や出産はたしかに女性のほうが多大な負担を背負うと思うのですが、それだけに『私たちの思いを尊重して』という気持ちを押し付け、『どうせ男性にはわからないでしょ』と突き放したくはなかった。

女性同士だと、ずっと親友だったのに妊娠や出産を機に急に疎遠になったり、かと思えば子供の手が離れたらまた仲良しに戻ったりする。それぐらい感情も関係も揺らぐものなんです。男性からすると不思議に思うかもしれませんが、これが″産む性″である女性というものなんだと知ってほしいです」

″現役″を続ける理由

AV女優としての活動は今月15年目へ突入した。小説家としても10周年を迎え、異才の二刀流として存在感を発揮。そもそもAV女優として成功を収めているにもかかわらず、小説を書き始めたきっかけは些細(ささい)なことだった。

「もともと書くことが好きで、息抜きがてら日記やコラムなどを書き溜(た)めていたんです。とあるインタビューで知り合った編集者さんが『(紗倉さんは)小説を書かないんですか?』と聞いてくださったのが、スタート。今見返すとクオリティが低すぎて恥ずかしいですが(笑)、まさか仕事として書き続ける未来があるとは夢にも思いませんでした」

そう謙遜するが、彼女の作品は純文学の文学賞に2度ノミネートされたこともあるほど。繊細な感情表現と情景描写力は、折り紙付きだ。

「初期の頃の文章には、どこか背伸びをして選んだ言葉があったように思います。ただ作品を重ねるごとに、私がどう思われるかなんて不要だという意識が強くなり、次第に飾らない文章になっていった気がします」

その一方で、「一冊の小説を書くことの大変さは並大抵ではない」とも語る。人気ナンバーワンAV女優の呼び声も高い彼女が、なぜそれほど苦しい思いをしてまで小説を書き続けるのか。

「自分がこの仕事に就(つ)いて実感したのは、AV女優は″人の目に晒される仕事″だということ。次々と他者が都合良くこちらの価値や生態を評価し、ラベリングしてくる。そんな経験を続けていくうちに、自分のことを見つめ直す機会が増えていったんです。これが小説を書くときの、登場人物の内面を探って言語化する作業に似ているのかもしれません」

つまり、AV女優が″表″で、書くことが″裏″。二つの職業は表裏一体なのだ。

「個人的に、AV女優として撮影をしているその時間だけでなくて、世間から向けられた悪意や好意を処理する時間も含めて″仕事″だと思うんです。誉め言葉であっても軽蔑的な視線が含まれていることもあるので、自分の言葉で自分を整理するプロセスが不可欠。

だからきっと、AV女優じゃなかったら小説を書くことはなかったと思います。著者自身の考えを書くエッセイと違って、小説は″私″を見せずに私の思いを別の人物に投影できる。他者からイメージを決められてしまいがちなAVの世界にいて、小説は自由に私を表現させてくれる。救われているな、と感じます」

書くことは、AV女優でい続けるためになくてはならないもの。紗倉にとって、かけがえのない活動の一つだ。

「私の本職はあくまでAV女優ですが、今年は小説を書き始めて10周年。『どちらも本職だよね』と言ってもらうことが増えました。それでもAV女優としての自分のことも好きで、絶対的な本職であると思っています。長く続けていきたいというその想いは、デビュー当時から今も変わりません」

まっすぐ向けられた眼差しには、強い覚悟が滲(にじ)んでいた。

紗倉は異なるジャンルの仕事を並行しながらも、スケジュール管理は明確に線を引いていると明かす。

「この14年間はAV作品のリリースは月に1本と決めているので、撮影も月に1日か2日のみです。他に作品に関連したイベント出演やバラエティ番組出演、コメンテーターなど、最近はAV女優と作家が合体した立場で呼ばれる場も多いですが、それでも執筆は毎日行うようにしています。

規則的な仕事ではないので書く分量は日々変わりますが、以前、芥川賞作家の田中慎弥さん(53)と対談させていただいたときに、『毎日一文でも一語でも書くことが大事だ』とおっしゃっていたのが印象深く心に残っていて。以来、なるべく毎日、スマホにでもいいので書く作業を絶やさないようにしています」

「AV女優でい続けるために書き続ける」——清々(すがすが)しい表情を浮かべた彼女は、11作目への意欲についてこう続けた。

「毎回身を削るような思いをして書いていると、『次書けるものはもうない。これが最後の小説になるんだろうな』と思うんです。だけど書き上げると、意外にもすぐに新たに書きたいことが出てくる。AV女優は叩かれる仕事なので、叩かれるほどに人、そして自分への興味が増していく。

もちろんネット上の罵詈雑言(ばりぞうごん)は苦い顔で読んでいますが、『もはやここまでくると香ばしいな』とその人の心理や実態を探りたくなる。皮肉でもなんでもなく、みんなが私に小説を書かせてくれているんです」

時代や常識に迎合することなく、彼女は自分の信念に従って歩み続けていく。

「小説は私にとっての″救い″なんです!」 デビュー後は『SOD大賞2012』で最優秀女優賞などの賞を獲得。自身を″えろ屋″と称し、今も根強い人気を誇るAV作品のリリースは月に1本で、執筆作業は毎日継続。″異才の二刀流″はマイペースで着実に道を切り拓いていた

『FRIDAY』2026年3月6日号より

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