「#拡散」(2月27日公開)は、妻の死をきっかけにフェイクニュースあふれるSNSの世界に翻弄(ほんろう)される男の姿を描いている。いわば残像として作品全体を覆う「影」として存在感を示したのが、妻役の山谷花純(29)だ。出番の多寡にかかわらず、これまでも多くの作品に強い印象を残してきた。“爪痕”を残し続ける演技の裏側を聞いた。

富山県の小さな町で介護士として働く浅岡(成田凌)はソロキャンプが趣味の寡黙な男だ。派手好きで動画配信やアイドルの推し活に夢中な妻の明希(山谷)との間に温度差を感じながらも幸せな日々を送っている。が、地域のクリニックでコロナ・ワクチンを接種した翌日、妻が突然死してしまう。

医師の高野(淵上泰史)への憎しみが抑えきれない浅岡は妻の遺影を抱え、連日クリニックの前に立つ。これが地方紙記者(沢尻エリカ)の目に留まり、記事になったことから、ネット上でバズり、容赦ない世直し系ユーチューバーも参入。制御不能の混乱の中で浅岡自身の行動もエスカレートしていくが…。

山谷は「テレビとかでは伝えにくい現実ってあるじゃないですか、それをぎりぎりのところで物語に落とし込んで描いた作品だと思います。その『船』に乗れるというのがうれしかったですね」という。

ひたすら明るい妻の明希は序盤で強烈な印象を残し、遺影という形で作品全体に文字通りの影を落とす。

「確かにコスパがいいですね(笑い)。どれだけ最後まで印象を残せるかが勝負だったので、インパクト強く、自分が思っている明るいテンションの十倍くらいのイメージでやって、行きすぎたら監督(白金 KING BAI)の指示で引き算していく、という方法でしたね。作品を見て、遺影の出番が多かったのにはちょっと驚きましたね。自分はいないのに、明希の思いが全編にちりばめられている。製作会社さんの事務所で30分くらいで撮った『遺影』なんですけどね(笑い)」

その分、主演の成田が全編を引っ張った。

「座長としての気遣い。スタッフとディスカッションを重ねる姿にこの作品への情熱を強く感じました」

強烈な印象を残すという意味では、20歳で出演した「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」(17年)の末期がんの花嫁役があった。緊急搬送される患者の1人だが、夫役の新田真剣佑との感涙エピソードが作品のポイントになった。

「(出演していた『手裏剣戦隊ニンニンジャー』などの)戦隊モノが終わった年で、お芝居が楽しいと思えなくなった時期だったんですね。だから、『コード・ブルー』のオーディションに落ちたら役者を辞めようと思っていたんです。それが、受かってしまって。丸刈りにする必要があったので湾岸スタジオの楽屋で共演の真剣佑さんとマネジャーにバリカンでやってもらいました。行く度に思い出深くて、大好きなスタジオになりましたね」

ドラマ「CHANGE」でデビューしたのは12歳の時だった。

「子ども心にテレビの仕組みが知りたくてこの世界に入ったんですよ。工場見学に行く気分でした。(出身地)仙台の普通の学校に通っていたので、周りの『プロ』の子役の人たちが怖かったですね。輪には入れないくて、泣きながら帰った覚えがあります。翌年の『告白』という映画が大きかったですね。スタッフさんが皆さん、子役としてではなく、1人の役者として接してくださったんですね。作品が日本アカデミー賞を取ったのをテレビで見て、その一員だったことが誇らしかったし、もっとセリフのある役をやりたい。努力しようという思いがわきあがってきたんです」

10年前、「寄生獣」で出会った山崎貴監督からかけられた言葉も心に残っている。

「戦隊モノに出ていた頃で、毎日同じ現場に行って同じ人たちと仕事をする生活が続いていました。同世代にはいろんな現場で経験を積んでいる人もいる。それがうらやましく見えてきた時期だったんですね。そんな時、山崎監督から『同じ1年でも、何もしないのと何かを見いだして過ごすのでは全然結果が違ってくる』と言われ、戦隊モノの現場に通う意識も変わってきました。しっかり準備をして、スタートの瞬間にはそれを全部忘れて臨む、そんな心構えも教わりました。気付かれたら恥ずかしいんですけど、本番の前に目をギュッとつぶって、カチンコが鳴ったら、明けてスイッチを入れるということを、ずっとやってますね」

デビュー17年。前向きな姿勢はむしろ強くなっている。

「今回の『#拡散』もオーディションで選んでいただいたんですけど、年々、オーディションの機会が減っています。それはいままで頑張ってきた分、呼んでいただける機会が増えたということで、ありがたいことなんですけど、実はオーディションが大好きなんですよ。挑戦して新しい出会いを広げる。そして限られた時間内で準備や人間性を見られる。あのヒリヒリした感じが刺激的で。けっこう勝率高い方なんですよ(笑い)」

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

◆山谷花純(やまや・かすみ) 1996年(平8)12月26日宮城県生まれ。08年ドラマ「CHANGE」でデビュー。11年「おひさま」でNHKテレビ小説に出演。「あまちゃん」(13年)「らんまん」(23年)と出番を増やしている。19年には主演映画「フェイクプラスティックプラネット」でマドリード映画祭外国語映画賞主演女優賞に。

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