
入り口正面の平台に8列並べて平積みで展示する(丸善日本橋店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。
今回は、2〜3カ月に一度訪問している準定点観測書店の丸善日本橋店だ。ビジネス書の売れゆきは、新刊に突出したヒット作が見当たらず、2月に入ってやや低調だという。そんな中、書店員が注目するのは、企業再生支援の第一人者が人工知能(AI)による革命的大変容とそこを生き抜く個人や企業のあり方を提示した本だった。
AIは人類史的な大革命
その本は冨山和彦『日本経済AI成長戦略』(文芸春秋)。著者の冨山氏は、投資・事業経営会社、日本共創プラットフォーム(JPiX)会長として地方企業の生産性向上、コーポレートトランスフォーメーション(CX)を支援している。2000年代初め、産業再生機構の最高執行責任者(COO)に就任して以降、一貫して企業再生支援に関わる一方、日本の企業や政府、ビジネスパーソンに向けて様々な提言活動を展開してきた。
そんな著者がAI革命を人類史的な大革命(AIによるトランスフォーメーション=AX)ととらえ、「AXの時代に個人は、企業はどのように生きて行けばいいのか。そして社会は、国家はどのように変わっていくのか」を考え、提示したのが本書だ。
著者は「DX(デジタルトランスフォーメーション)はもう古い!」と書き起こす。これまでのDXは「デジタル人材による業務改革」であり、これから起こる「AIによる根こそぎ変容」は、DXとは本質的に異なると位置づける。
日本企業はDXで変わることはできず、DX敗戦を招いた。世界から周回遅れになっているからこそ、AXの時代は一気に先頭に躍り出るリープフロッグ戦略のチャンスだと著者はいう。
必要なのは「ボス力」
自然言語の運用力が高ければ、AIは的確に答えてくれる。多くのホワイトカラーが担っていた調査・分析や資料作成、実装といった中間処理はAIによって代替されていく。これからのビジネスパーソンに必要なのは「ボス力」、すなわち決断することと責任を取ることに特化されてくるとみる。
一方で現場で顧客と五感を通じて触れ合って生の1次情報をつかんだり、顧客をもてなすホスピタリティーサービスを提供したりすることも、生身の人間に優位性がある。著者はこちらを「ライトブルーカラー」と呼び、ボス力を持つか現場人間として機能するか、そのどちらをも兼ね備えるかが、これからのビジネスパーソンには決定的に重要になると説く。
こうした時代認識、人材像を示した上で、その活躍の舞台としてローカルな中堅・中小企業に焦点を当てる。何しろローカル経済圏市場は日本経済の7割、400兆円の巨大市場なのだ。著者は人口減少で縮む市場という見方を否定し、現在の世界のトップテン水準まで生産性を高めれば、ほぼ2倍にできる伸びしろがあると示す。
ローカルな中堅・中小企業は経営層と現場しかないようなレイヤーがシンプルな企業が多く、それゆえにAXとの相性はいいという。地方公共交通事業グループ、みちのりホールディングスをはじめ、JPiXが経営する企業群の成長を通じて、ローカルからの反転攻勢への道筋は、著者の中で強い確信となっているようだ。
巻末に本書に監修として関わったAI研究者の松尾豊東大教授との対談を収録する。AIとその社会実装をめぐる示唆に富んだ内容だ。「AIを前面に出して日本の成長を論じているところに読者が反応しているようだ」と、同店でビジネス書を担当する石田健さんは話す。
3位に『大暴落前夜』
それではランキングを見ていこう。
(1)いちばんわかりやすい! 食品通販ビジネスの教科書リライズコンサルティング株式会社著(幻冬舎)(2)科学的に証明された すごい習慣大百科堀田秀吾著(SBクリエイティブ)(3)大暴落前夜ジム・ロジャーズ著(プレジデント社)(4)日本経済AI成長戦略冨山和彦著(文芸春秋)(5)相続コンサルタントになって、たちまち年収1000万円を突破する方法杉村洋介著(すばる舎)
(丸善日本橋店、2026年2月12~18日)
1位は食品ECサイトを成功に導くノウハウを解説した本。2025年7月の本欄の記事〈「すごい習慣」で仕事や人生を変える 科学的根拠に基づく小さなメソッドの大百科〉で紹介した習慣化メソッドの本が2位に入った。
3位は、世界的投資家が大暴落への警鐘を鳴らし、資産の守り方を説いた本。今回紹介した『日本経済AI成長戦略』は4位だった。相続コンサルタントというビジネスを個人で始めるときのノウハウを伝授する本が5位に入った。
(水柿武志)
