Interview & Text: 熊谷咲花
Photo: 筒浦奨太
Hair & Make-up: hitomi andoh
ビルボードジャパンが、2025年11月6日に総合書籍チャート“Billboard JAPAN Book Charts”をローンチした。このチャートは、紙の書籍(書店/EC)と電子書籍の売上、サブスクリプション、図書館での貸し出しやSNSでのリアクションなどを合算した日本初の総合ブックチャートだ。
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回は、ピアノ弾き語りソロアーティストの日食なつこが登場。心象風景を描き出すような音楽が印象的な彼女に、創作の源となる言葉や世界観を育む本について、語ってもらった。
面白いと思う単語やキラーフレーズのようなものに
脳みそが開発される
――私も日食さんの楽曲の言葉選びに心を掴まれている一人なので、お話を聞けて嬉しいです。本は昔からよく読まれていたんですか?
日食なつこ:実はそんなに読まないです。「読書家なんですか?」と言われることが多くて、言われるようになってから「本を読んでた方が日食なつこっぽいのかな?」と思って読み始めるようになったぐらいで。決まった本を何十周も読むような人間で、読んだ本の数が多いわけではないんですよ。
――どういった本を繰り返し読まれているのか気になりますが、そんな日食さんに、今回ご自身の本を持ってきていただきました。こちらはどのような内容なのでしょうか。
日食:一冊目は『風景のある図鑑』(著:古河郁)という、すごく優しい科学書のような本です。白熱電球について、熱に対して四角よりも丸という形の方が強いから白熱電球には丸が選ばれているとか、そういったとにかくたくさんの科学知識が、素敵なイラストと一緒に詰め込まれています。文章もイラストも全部一人で作られていて、6年ほど前に古河さんが出品されているハンドメイドサイトから気になって買ってみて、何度も読んでいる本です。

――白熱電球の説明のような、科学的な内容がもともとお好きだったのでしょうか。
日食:大好きでしたね。科学じゃなくて、化学式とか化学反応式、化合式を勉強する授業がすごく大好きで、高校2年生の時に選択授業を取りたかったのですが、周りの同級生は「化学は難しい」と言って人気がなくて、希望者が二人しかいなかったんです。こんなに面白いのに?と思っていたのですが、私の代は本当に人気がなくて、開講されず…そこで授業が開講されていたら、もしかしたらこういう分野を突き詰める側に行けたかもしれない、そのくらい化学は好きでした。
――人生の分かれ道だったかもしれないですね。そういった科学の本の中でも、『風景のある図鑑』のどのようなところが日食さんの印象に残ったのでしょうか。
日食:ただの説明的な表現ではなく、すごく詩的な表現をされているんです。妄想好きな人の感覚に合う本というんですかね。言っている内容は一見難しいのですが、でも分かりやすくて情緒がある、1つの詩を読んでるような語り口に惹かれました。実は、この本の内容も含んだ続編も最近出版されたんです。内容がより増えて、様々なイラストレーターさんが集まった豪華版のような本なのですが、私は古河さんがおひとりで作られたこの本がやっぱり好きなんですよね。
毎回読むたびに惹かれるページが変わるのですが、一番好きなのは“宇宙の熱的死”について。“ヒートデス”という概念で、宇宙がどうやって滅亡するかというシナリオが頭のいい人たちによってすでにいくつか出されていて、その中でも一番穏やかな世界の終わり方がこのヒートデス、熱的死というものです。宇宙の終わり方が想定されているという説明を初めて知って、驚いたのと同時に、“熱的死”という言い方も歌詞にできそうだなと思いました。すごく面白いですし、自分の知らない世界を開いてくれる、非常に易しい本です。

――作詞をされる方で、本からインスピレーションを受ける方も多いと思いますが、こういった理系のジャンルから影響を受けるのは珍しい気がします。
日食:文学を文学で補うのは、おそらくもうすでに使われている手法だと思うんです。作詞において科学を参考にするのは被りようがないと思っていて、まだ手が付けられていない、拾える材料がそこら中に転がっている畑みたいな感覚なんですよ。そういうところに踏み入る方が刺激になるかなと思っています。
――もう一冊の『ぼくの哲学』(著:アンディ・ウォーホル)は哲学書でしょうか。
日食:自伝でもなく日記でもなく、独白集のような本です。ざっくり内容を説明すると、愛や美といった普遍的なテーマについてのアンディ・ウォーホルの思考をまとめた一冊で。アンディ・ウォーホルは自分でアートを作るけれど、売り手としての考え方がすごく強い方なんです。自身の作品をとにかく量産して売っていき、有名にしてみんなに届けていく、どうして1点しかない価値、絵画に希少価値を見出そうとするのか?という、売り手としての考え方の主張が明確です。「自分は一人しかいないものだから希少価値が高くあるべき」というアーティストの考え方を完全に打ち破って、自分のものはみんながコピーして、なんなら手をつければいいじゃないぐらいの商人としての考え方がすごく詰まってる本なんです。私はそういった商業的な面が弱かったので、アーティスト・表現者を名乗りながら、こんなにも商業に食い込んでいくというアンディ・ウォーホルの生き方に圧倒されました。最近読み始めたのですが、読み込んで表紙がよれてしまっているくらい。
――もともとアンディ・ウォーホルがお好きだったのでしょうか。
日食:大好きだったので、彼が考えてることがこの本を読んだら分かるかなと思ったのですが、さらに分からなくなってしまいました(笑)。多面体のような人ですが、アンディ・ウォーホルが多面的であるからこそ、自分が何かに迷った時に、今日はこの人のこの一面から学びに行こうとか、この裏側にそういえばあんなことが書いていたから今日はこれを読んでみようという、いろいろなきっかけで読める本だと思っています。
『風景のある図鑑』が作詞や創作に関連した本とすると、完成物をどのようにして世の中に出していくかの教科書が『ぼくの哲学』ですね。なので、アーティストの方の本というよりも、ビジネス書として読んでいる感覚に私は近いかもしれません。

――最初に本はあまり読んでいないとお話ししていましたが、ジャンルレスに読書されているじゃないですか。聞くところによると、辞書も読まれるそうですね。
日食:高校受験の時に買った、愛着がある国語辞典と英和辞典、和英辞典、たまに古語辞典や漢文の辞典を読むこともありますね。
先ほどの2冊や辞書に共通して言えるのが、面白いと思う単語や一文が次々飛び出してくるということ。というのも、私は昔からキラーフレーズのようなものに引っかかりやすい人間なんです。文章やストーリーではなく、一文字や一単語により興味を持っていかれることが多くあって、小説などの文芸作品を読んでるときよりも、辞書を読んでる時の方が脳みそが開発されている感じがしますね。
――本を読むというと、ストーリーや文の構造の好みで本を選ばれる方も多いと思いますが、それよりは言葉の置き方や単語そのものに興味がおありなんですね。
日食:そうだと思います。逆にストーリーを追いかけるのは苦手で、小説や長期連載の漫画、ドラマは挫折しちゃうこともあります。漫画は絵を見るという特権があるので、この漫画家さんのタッチが好きだなという感じで読むことはありますね。
