電子化されることで図書館ニーズはどう変化していくのか
――ビルボードジャパンでは2025年11月からブックチャートをスタートしました。図書館の指標で見ると、新刊の貸し出しが多くあり、そこから上位にチャートインする書籍が多い印象です。
吉本:チャート全体でいうと、複合ということもあり、やはり売上だけのランキングとは被らないのが面白いですよね。カーリルから提供しているのは、全国の図書館が公開している貸出ステータスから読者数を推計したデータですが、特性上、新刊に予約が集中しやすいので数字としては新刊の割合が大きくなってしまいます。ただ書店とは違い、本の部数は決まっており、すぐに貸出中になってしまうというところで、実際にはロングテール作品の市場基盤が広いですし、そこに期待したいです。
――ブックチャートは、出版業界ではどのような面で活用できると思われますか。
吉本:先ほどお話にあった図書館の選書に対して、ブックチャートが活用できる可能性があると思います。単純に新刊だから置くという選び方ではなく、読者が注目し始めている書籍を図書館も評価し、それを収集対象にするという活用の仕方には、非常に可能性があるのではないでしょうか。
――今後、ブックチャートに期待する部分はありますか。
吉本:チャートをきっかけにビジネスが生まれることがとても重要だと思っていて、今まで出版業界は、書籍を売っていく際のきっかけに対して把握しきれていなかった部分があったと思います。今後は、図書館をきっかけに本が売れるようなこともあったらすごくいいですよね。そこに期待したいですし、例えば図書館の指標は上がっているけど、書店での売り上げ指標が上がっていないような、絶版した書籍や重版未定の書籍で電子書籍化されていないものがチャート上で動いたときに、その動きを出版社が把握しビジネスの可能性が出来るきっかけになるといいなと思っています。
――おっしゃるとおり、チャートを細かく見ていくと、図書館指標の順位とECや書店での指標では順位が大きく異なるので、それぞれの指標ごとに分析できるのも注目ポイントです。
吉本:そうですね。図書館に置いてある書籍で電子書籍化されてないものも多くあるので、その部分の電子化も期待していますし、そういった書籍が店頭に並ぶことによって、コンテンツが回っていく、循環が生まれるというのが理想です。

――全ての本が電子化されてしまったら図書館のニーズが減ってしまうという懸念はないのでしょうか。
吉本:その心配は全くないと考えています。むしろ、そういう状況になったときに、図書館のミッションについてようやく真剣に考えられるのではないでしょうか。図書館の役割は、新刊が読めることや無料で本が読めることも一つではありますが、情報を探しやすく整理したり、長期的にコンテンツを保管しアクセスできるようにすることも重要な機能です。そういった意味では、実はあまり書籍の売り上げとは競合しないと思っていますし、図書館と出版社も協力していくことができると思っています。
――出版社や取次など、出版業界全体で共同で進めている取り組みはあるのでしょうか。
吉本:はい。出版文化産業振興財団(JPIC)と中小出版社の団体である版元ドットコムとカーリルが共同で「書店在庫情報プロジェクト」という、書店の在庫状況を検索できるシステムの開発に取り組んでいます。このプロジェクトには取次のトーハンや日本出版販売(日販)、POSレジのシステム運営会社の光和コンピューターにもご協力いただいています。今までは、本を紹介する際のリンク先はネット書店のサイトがほとんどでした。また、図書館だと人気の書籍はほとんど貸出中ですので、そういったときに近くの書店の在庫状況を見ることができれば、ということは考えていたんです。ただ、書店もチェーン店や個人店と様々ですし、運営も別々なので難しい部分がありました。そこで、カーリルが持つ、図書館を一括でまとめて検索できる仕組みを開発した知見を応用し、書店の在庫が探せる仕組みも開発することになりました。同様に図書館で検索した際も書店の在庫が表示されるような仕組みにも取り組んでおり、書籍の購入に対して気軽に到達できるというきっかけに図書館が機能できたらと考えています。「書店在庫情報プロジェクト」が大手のチェーン店や個人店に関係なくつながっていくように、出版業界がオープンになっていったら、様々な側面でチャンスが広がっていくのではないでしょうか。
――今後図書館の需要はどのように変化していくと思われますか。
吉本:行政が図書館を評価するときに使われてきた指標は貸出数や利用者数ですが、これらに関しては、人口の減少や少子高齢化、出版点数自体の減少により減っていくと思います。ただ、図書館の需要という部分では、その減少とは関係がないとも思っています。というのも、何をもって図書館の需要とするかというところで、むしろ図書館のミッションや何のために図書館があるのかという議論に立ち返られるのではないでしょうか。今、図書館の館数自体はどんどん増えており、まちづくりの拠点としての役割が見直されています。図書館に投資されているという面は良いことですが、これは過渡期的な現象だと感じており、むしろこれらが縮小するより前に、より良い図書館サービスをどう提供していくか、図書館の仕事の再定義をどうしていくのかという議論と実践をしていきたいと思っています。
図書館を地域からコンテンツにお金を投資する仕組みと捉えれば、もしかしたらもっと新しいコンテンツを生み出せる可能性があるかもしれないですよね。それこそ、図書館が音楽に投資するということもあるかもしれません。図書館から地域の音楽活動を支えられる仕組みが生まれたら、新たに生み出されるコンテンツがでてくるかもしれないですし、そういった部分での図書館の可能性にも期待しています。
